この先生きのこれない
――天蛇の塔
塔の前には馬が繋がれており、見張りと思しき一人の騎士――あるいは従士か?――がいた。
俺達は気づかれない様に“隠形”の呪文を使い、気配を消すと、裏手へと回った。
まずは俺が中を伺う。
気配は、無い。おそらく騎士団連中も、ここには足を踏み入れていねェだろう。
……よし。大丈夫そうだな。
そしてエスリーンとともに、塔内へと入った。
――塔内
俺達は慎重に歩を進める。
各部屋の家具は散乱し、ヒドいアリサマだ。
俺が最初にここに足を踏み入れたトキは、ここまでヒドくはなかった。しかも、ゾンビとなった連中を弔う際に、できる範囲で片付けている。
おそらくコレをやったのは、騎士団連中だ。
塔内にフィルズ・ロスタミがまだいる可能性を考慮し、各部屋を捜索したんだろうがな。
……チッ、やりたい放題しやがって。ちっとは片付けろや。
エスリーンの顔も険しい。
コレで、心置きなくヤツらと戦えるってモンだ。
用心しつつ、更に歩を進める。
階段を登り、上の階へ。
ん? 足音?
ヤバいな。
近くの部屋へ……。
おっと、ここはエスリーンの部屋か。
「いたか?」
廊下で声がする。
「いや、まだ見つからん。ヤツがこの塔に入ったのは確かなのか?」
「村の連中は、この塔の方へ行ったと言っていたがな」
「ふむ。もしやこの裏の森の方ではないのか?」
「その可能性もあるが……あの森では、オークやゴブリンが出ると聞いたぞ」
や、オークなら俺達が倒しちまったんだけどね。
……他にもいたかもしれんか。
「しかし、あの男の事だ。オークやゴブリン程度で怯むことはないだろう」
「ふむ……とりあえず、二手に別れて捜索すべきか?」
よしよし。二手に分かれりゃ各個撃破しやすい。
が、その時、
「ヤツだ! いたぞ!」
上の階で声が上がった。
やはりヤツもこの塔に潜んでいたか!
この際騎士団連中を押しのけて……
いや、上の連中を食い合わせて、残った方を倒せばいいか。
そう伝えると、エスリーンは苦笑しつつ、
「前から思ってたけど……貴方って案外卑怯よね」
っつー返事をよこしてきた。
とりあえず、褒め言葉と受け取っておこう。
大陸有数の騎士団の元副隊長にケンカを売るんだしな。
そーでなけりゃあ、この先生きのこれない。
さて、と。
精神を集中し、上の気配を探る。
幾度か魔力が膨れ上がり、弾ける。
おおっ、やってんな。
更に“遠耳”の呪文を使う。
これで、上の階の音声を拾うことが出来る。
“遠見”の呪文も使えばもっと詳しく状況を把握出来るだろうが、ここで見ているのが相手にバレる恐れがあるからな。
“遠耳”は聴力を強化するだけだが、“遠見”は視点を移動させるため、それなりに魔力を食うのだ。当然そうなりゃあっちにも感知されやすくなる。
早速呪文が効果を発揮し、上の階の音がはっきりと聞こえてくる。
……ふむ。騎士団はかなり苦戦してるな。
あっ、今一人やられた。
剣で切り結ぶ音。
攻撃魔法が炸裂する音。
それと……ナンだコレ。
何か、咀嚼する様な……。
まさか、またゾンビでも連れてきたんか? いきなり戦いを挑まんで良かった……。
おっ? 外にいた見張り番も、異常を察して駆けつける様だ。
……とか言ってるうちにも、一人、また一人と倒されてくな。
アイツ、なんか強くなってね? ちとヤバいかもしれん。
取り敢えず、また精神を集中する。ホットスポットとのリンクを行う為だ。
……おk。上手く行った。
あの時は、『力を貸そう』というミョーな声の主によってリンクが形成された様だが、今回は単独で出来たゼ。
さて、と。
また上から聞こえる音に耳を傾け……。
ン? ほとんど音がしねェ。どーなったんだ?
騎士団の気配が消失した一方、ヤツの気配は健在だ。
まさか、と思うが……騎士団の連中、まとめて片付けちまったんかよ!?
エスリーンの方を見やる。
彼女もまた、青い顔をしていた。
「アイツ……怖い。もう……ヒトじゃなくなったみたいなの」
「……へ?」
どーいうこった?
もう一度気配を探り……
……!
ナンじゃこりゃ!?
エスリーンの言う通り、明らかにヒトのものでは無い気配がする。
ナンだ、コレ? しかも高速で動いて……近づいてくるだと!?
「マズい! 下がれ、エスリーン!」
その直後、窓ガラスをぶち破って“何か”が部屋に飛び込んで来た。
人型で、鎧をまとった姿。しかし、その気配は“何か”が違った。
そしてヤツは俺たちを見、ニヤリと笑う。
「ここにいたか。ちょうど良い」
「……フィルズ・ロスタミ!!」
ヤツだ。俺達にゆったりと歩み寄る。
そーいやあんトキ、ヤツの手を斬り落としたワケだが……くっ付いてやがる。
まぁ、斬り落としてスグなら下位の回復魔法でもくっ付けられるワケだが、しばらくの間は障害は残る。無論、その手で戦闘なんか出来るワケがねぇ。
だが、ヤツは……左手に血濡れたナイフを握ってやがる。
「手間をかけさせてくれたな、小僧。今度こそ、この剣の錆としてくれよう」
「出来るモンならやってみな!」
俺はサーベルを抜き、構えた。エスリーンは結印を行う。
「……“加護”!」
俺達の身体を淡い光が覆った。
「!」
直後、ヤツが斬りかかって来やがる。
俺はそれを受け流そうとし……
「うおっ!?」
弾き飛ばされた。
凄まじい力だ。壁まで飛ばされ、叩きつけられる。
「ぬがっ!」
一瞬呼吸が止まる。
「ソースケ!?」
駆け寄るエスリーン。
「……“治癒”」
彼女の呪文で、幾らか痛みが治まった。
何とか立ち上がり、ヤツを睨み据える。
「その“力”……手前ェ、何しやがった!?」
あれだけの“力”……。フツーの鍛錬じゃ、一朝一夕にゃ得られねェ。ましてや中年じゃあな。
「クク……貴様が倒したとかいうあの“ゾンビ”、なかなか面白い“素材”であったぞ」
「まさか手前ェ、あの残骸を……」
「そうだ。あのゾンビはただの動死体ではない。ある種の魔法生物を合成したものだ」
「まさか……」
「その、まさかだ。貴様によって斬り落とされた左手に、あの魔法生物を宿らせたのだ!」
ヤツはナイフをしまうと、左の籠手を外す。
その下の腕は、普通の人間のもの。しかし、肘と手首の中間あたりには腕を一周する傷があった。俺が切断した箇所だな。
そして、その傷口から緑色の“何か”が滲み出てくる。
あれは……間違い無ェ。俺があの屋敷で倒したハズの、フレッシュゴーレムに寄生していたヤツだ。
「さぁ……行くぞ、小僧。此奴も貴様の命を欲しているらしいぞ」
フィルズ・ロスタミの口元に、酷薄な笑みが刻まれた。




