ダレがテメーらに
――昼過ぎ
昼食を食べ、腹が膨れた俺達は、大通りをぶらぶら歩く。
ハラが減ると、悲観的になっていけねェ。
メニューが例えオオトカゲの蒸し焼きだろーと、ハラが膨れりゃ心にヨユーも出るってモンだ。
満腹になったらなったでそれ以上動きたくなくなるから、腹八分目が一番いいんだろーけどな。
にしても、慣れて来ちまったなー。ナンかさ……。
サソリやイナゴに比べりゃオオトカゲやヘビなんざ、ちと淡白な鶏肉ぐらいにしか思えねェ。
しまいにゃ大サソリとか見て『美味そう』とか思うよーになっちまうんだろーか。
……まっ、ソレはソレとして。
とりあえず今後の事だが……まずはフィルズ・ロスタミをどーにかすんのが先決だ。万一、ヤツが騎士団に囚われてエスリーンの情報を喋っちまったら厄介だ。
おそらくヤツはまだドコかに潜んで、起死回生を狙ってるだろうよ。
当然暗器だのなんだの、あらゆる手を使ってくるに違いねェ。
だからこそ、油断するワケにはいかねェよな。
と、その時、遠方でざわめきが聞こえた。
……ナンだ?
「行ってみるか?」
「ええ」
俺達は野次馬よろしくその方へと向かった。
そこには負傷し、よろめき歩く聖騎士達の姿があった。
「治癒魔法を……」
迷いつつも、進み出るエスリーン。
「いや、俺がやるよ」
俺はそれを制し、代わって“治癒”をかける。
彼女の治癒魔法は他のヤツとは明らかに“質”が違う。もしそれで、エスリーンが姫巫女の資格がある者とバレたらマズい。一般人ならともかく、コイツは聖騎士だ。用心するに越したコトはネェ。
そして俺の治癒魔法が効果を現したらしく、ヤツらの顔色が良くなった。
ちとザンネンそーなカオしてやがるナ。ダレがテメーらにエスリーンの治癒魔法なんてかけさせてやるかよってんだ。
おっと、それはともかく……。
「何があったんです? あなた達ほどの手練れが、こんな……」
そのうちの一人に問う。
「ああ。ヤツだ。あの裏切り者……」
「ヤツ? 裏切り者?」
「おい! それ以上は……」
チッ、仲間が止めやがった。
ケドこっちには、ある程度推測がついたゼ。
裏切り者、か……。やったのは、この鋭い太刀筋からしておそらくフィルズ・ロスタミ。
やはり健在だったか。
治癒魔法を受けた騎士団の連中は、ふらふらと神殿の方へと向かっていく。仲間を呼び、ヤツを討とうというのか?
それなら、だ……
「さぁ、行くぜエスリーン。決着をつけるなら、今だ」
「ええ」
俺はエスリーンを伴い、騎士団が来た方へと歩き出した。
――ティフレス村 入り口
村の入り口ある石造りと門。
そこには二人の衛兵の姿があった。
「あの連中、知り合い?」
エスリーンに問う。
「いいえ。見たことのない顔だわ」
「ふむ……」
アカシックレコードで確認してみるか。
……なるほど。リシュートの傭兵ギルドから派遣されてるのか。それなりに腕は立つ様だな。
アレ? コッチの傭兵ギルドは登録されてんのか。基準がワカラン。
「そういえば、リシュートの傭兵ギルドってどっち系? ハルジーのおっさんのアレか、“戦士の館”か……」
「えっと……強いて言えば両方ね」
「へ? そーなん?」
両方? どゆコト?
「元からあった傭兵ギルドだけど、『戦士の館』にも加盟してるのよ。この辺りの傭兵ギルドの半数近くがそうして新しいギルドに加盟したみたいね。でも、元からあったアルタワールのギルドはあえて加盟しなかったから、ああして街中に二つのギルドが並存する事になった様ね」
「へぇ……」
ハルジーのおっさん、頑固そうだモンな。その辺の事情は、いずれ本人から聞いてみるか。
ケド、旧来のギルドとも繋がりのある組織だというのは有難てェ。このドッグタグが役に立つってワケだからな。
それに、エスリーンが知らない相手っつー事は、おそらくは向こうもエスリーンの事を知らねェだろう。
……多分。
――しばしのち
俺達は見咎められる事なく無事門を通過し、村に入る事が出来た。
しかしその村の大通りは閑散としている。
まぁ、アルタワールやリシュートと比べちゃいかんか。だが、ひとけが無さすぎる。
「なぁ……この村っていつもこんな風なん?」
「いえ……もっと賑わっていたわ。一体どうしたのかしら?」
目深に被ったフードの下で周囲を見回すと、彼女は困惑の表情を浮かべた。
ふむ……“何か”あったな。ちっとそこらで聞いてみっか。
俺達は近くの雑貨屋に入り、買い物しつつその辺の事情を尋ねてみる。
……ふ〜む。
どうやら表の通りで、聖堂騎士団の連中と傭兵らしき男との間で諍いが有ったそーな。それでみんな家にこもり、外の様子を伺っているとか。
……まぁ、メンドウなコトに巻き込まれるのもイヤだろうしね。
で、騎士団の連中は大通りでやられたのか。そして、傭兵らしき男……ねぇ。
ソイツの容姿を聞いてみる。
髭面で痩せぎすの、目つきの鋭い中年の男。
……やはり、フィルズ•ロスタミか。
更に色々聞いたのち、幾らかの謝礼を渡して店を出た。
ヤツが先日に塔を襲撃した時、その数日前にもこの村にやってきたらしい。そしてその後も度々現れたとか。村人のうち何人かは、塔での異変との関係を疑っていたらしいが、確証がない上に何かやらかされても困るんで、疑惑の目で見つつも表面上は何もなかった様に接してきたそうな。
ふむ。
あの日、真っ先にこの村に入っていたらそこでハチ合わせしちまったたかもしれん、か。レベルアップ前だし、その時点で遭遇してたらちとヤバかったかもな。
そして現在、当のフィルズ・ロスタミは塔へと向かったらしい。
さて、どうする?
今すぐ塔に乗り込みヤツとの決着をつけるか? それとも……
思案しつつ、俺たちは表に出る。
と、
「ソースケ、あれ……」
遠方で上がる土煙。
どうやら騎士団連中が、仲間を連れてやって来たらしい。
う〜む。タイミングが悪ィ。
「隠れるぞ」
俺達は細い小道へ入り、表を伺う。
俺はさっき顔を見られている。俺の顔を知ったヤツがいたら、ココにいることを色々勘ぐられる可能性もあるしナ。
万一見咎められて、村の大通りで大暴れしちまったら、後々メンドウなコトになりそーだもんな。
と、そうするうちに、表を連中が通りかかった。
ふーむ。その先は……。
やはり塔へと向かうらしいナ。
「よし。行ってみるか」
「ええ」
俺達もまた、塔へと向かった。




