なる様になれ、だ
――大通り
俺とエスリーンは連れ立って歩く。
そろそろ昼時だな。どっかテキトーな店に入って昼飯でも食おう。真っ当なモノ出す店で……。
で、今後のことについてゆっくりと話し合えばいい。
さっきまた“探索”で確認したが、フィルズ・ロスタミはこの街にいない様だしな。
……が、エスリーンの元気がない。
「どうしたんだ?」
「うん……」
エスリーンは寂しげに笑った。
「もう、戻れないんだなって。騎士団とか大神殿とか、そういうモノに関わってしまって、きっと平穏な暮らしなんてできないんだなって……」
「そうか……」
俺は血湧き肉躍る冒険を求めてこの世界に来た。ケド彼女は違う。ある日突然、平穏な日々を奪われちまったんだ。
ヤツによって、な。
「とりあえずフィルズ・ロスタミを何とかする事を考えよう。そうすれば……」
ヤツ一人なら何とかなる。どうにかしておびき寄せ、そこを……。
「ダメよ。また騎士団に狙われる。あれだけの組織だもの、いつか特定されてしまうわ。それに……大神殿だって、今の姫巫女の権威を損ないかねない私を保護しようとはしないでしょ?」
「ああ、確かに……」
そう言われりゃそうだ。
クソッ、考えが甘かったか。大神殿に頼るのは、止めといた方が良さそーだ。
なら、フィルズ・ロスタミと騎士団をまとめて倒せば良いのか?
……ダメだろーな。今の俺じゃ、フィルズ・ロスタミは倒せても、聖堂騎士団を丸ごと壊滅させるだけの“力”はねェ。
それよりも、大神殿側がエスリーンの存在を邪魔だと考えたとしたら、さらに厄介だ。
エスリーンがいる以上、今の姫巫女の地位は盤石じゃねェ。例え騎士団をどうにかしたとしても、大神殿に思う所のある勢力がエスリーンを担ぎ出す可能性もあるしナ。
万一のコトを考えりゃ、エスリーン排除に動く可能性もあるワケだ。
下手すりゃ魔王を討伐した英雄達が敵に回るのかもな。
向こうには、魔王を倒した英雄の一人、大司祭ローベルトがいる。それどころか、かつての仲間もあちらにつく可能性が高い。勇者ヴァルスラーナにとって、今の姫巫女は義理の姪。四人のうち二人が向こうにつく訳だ。
戦士アレオスと魔女ヴァレンティーナは分からん。ヴァレンティーナは弟子の娘であるエスリーンに味方してくれる可能性はあるかもしれねェ。だが、かつての仲間と対立してまでその道を選ぶだろーか?
アレオスにいたっては、エスリーンとの縁は全くと言っていいほど存在しない。当然、今の姫巫女の側につくだろーな。
そうなりゃ、とてもじゃねェが、対抗できねェ。個人の力だけじゃなく、あっちは組織も持ってやがるからナ。
それに……女神アゼリア。大地母神にして、運命を紡ぐ女神。
彼女は己の代理人として、今の姫巫女を指名した。俺をこの世界に送り込んだ自称造物主とどーいうカンケイにあるかはワカランが……今までの経緯を見ると、多分俺には好意的な反応をしてはくれなさそーだな。
そして各地の神殿関係者。ヘタすりゃ、さっきのナースィルのおっさんもあっちにつく可能性が高い。
「……どーしたモンかな」
考え込む。
が、答えは出ねェ。
俺にできる事といやあ、精々レベルを上げて敵を一人でも多く倒す事だ。だが、どんだけレベルを上げりゃいいか想像つかねェ。魔王を倒した連中と対抗できるまでとなると、な。しかも、邪神を退けたとかいう、現役の勇者も出てくるかもしれん。
途方にくれる。
「手は、あるよ」
そんな俺を見つめ、エスリーンは笑った。
心の底からの笑いじゃねェ。全てを諦めちまったヤツの笑いだ。
そーいや転移する前の俺もソンな笑みを浮かべてたんじゃねぇかって気がする。
なんで、こんな……
「ねェ、ソースケ。私を……抱かない?」
「……へ?」
今、なんつった?
『抱かない?』って言ったよな? いや……抱き上げるならいつでもいーぜ? お姫様抱っこだってやったるよ?
とか考えつつ、硬直。
「あの……ソースケ、やっぱり嫌?」
「えええあのちょっと、ナなナニイッテンデスカ、えすりーん。チョットイミガワカラナイデスヨ」
素直におしゃべりできない。っつーか、マトモにしゃべれてねェ。
「ナースィル司祭は言っていたわ。私には、姫巫女の“稟質”があると。ならば、それを損なってしまえばいいのよ」
「そそそ、それは……急ぎすぎぢゃね? それを捨てるなんてとんでもない!」
そーカンタンに捨てちまっていーモンなんだろーか?
「で、でも……ナンで俺!?」
「だって……今まで護ってくれたじゃない。ロクにお礼も出来ない私を……」
それはまぁ、惚れたモンの弱みっつーか、下心っつーか……。いや、下ってほど隠してなかったケドな。
でも、ンなコトで抱きたかねーよ!
ケド、他人にやるなんざぁ真っ平ゴメンだ。
「あのさ、エスリーン」
考えもせず、口が動いた。
何言やいーんだ? いや、もうどーにでもなれ、だ。
「いいか? 何も考えずに俺を頼りゃあいーんだ。俺は天が遣わせた勇者サマなんだぜ……多分」
いつぞやもそんなアホなコト言ったな。
「ふふっ……」
エスリーンがまた笑った。失笑かもしれんが、さっきりゃあマシだ。
と、不意にその顔が近づき……
「へ?」
頰に柔らかい何か……
って、唇!?
「ふふっ、ありがと。またしばらくお世話になるわね」
はにかんだ様な笑み。
そうだよ。これこそ彼女らしい笑顔だ。
「なっ、ならさー、今度は唇で……」
「それはまた後!」
彼女に迫る。が、逃げられた。チェッ……。
「ちぇっ、ケチ。減るもんじゃナイのにさ〜」
「減るの! ……お腹も減ったし、どこかでお昼にしましょ」
俺の魔の手から逃れたエスリーンは、さっさと歩き出した。
「賛成、ってゴマかすなよ〜」
俺もその後を追う。
まぁ、この後は……なる様になれ。だ。




