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エスリーンの為なんだろ?

――天蛇の塔 最上階

 サーベルを構え、ダッシュする俺。

 狙うは、魔道師ラスディンの首。


『喰らえ……“光槍”!』


 しかし、ヤツの呪文の完成の方が早い。


「クソッ!」


 咄嗟にサーベルに魔力を集中する。

 直後、発射された光の槍をその刀身で受けた。


「うがっ!」

『ぬうっ!?』


 光の槍は衝撃波とともに弾ける。

 俺はまともにそれを喰らい、後方へと弾かれた。

 やはり近距離にいたラスディンも衝撃波を喰らったようだ。

 揺り椅子ごと落下。イスの脚部が床にあたり、大きな音を立てる。

 が、ヤツ自身には大したダメージはなさそーだな。

 だが、スキは出来た!


「喰らえ……“迅雷”!」


 指先から迸る雷霆。

 それは、過たずヤツを直撃した。


『がぁあっ!』


 ヤツの絶叫。


「父様!?」


 エスリーンの声。

 だが、止めるワケにはいかん。

 サーベルを床に突き立て、右手で結印。


「“光弾”!」


 右手からは、無数の光の矢。

 それらはラスディンの身体に突き立ち、貫く。

 だが、まだヤツは倒れねェ。だいぶHPはケズったんだけどな。もうひと押しが必要みてェだ。


『クカカ……やるではないか』


 ヤツは穴だらけの身体で、嗤う。


『だが、所詮は青二才。わが魔術を受け、塵となるが良い』


 ……!

 ヤツの魔力が急速に膨れ上がった。


『喰らえ……“爆炎”!』


 その掌中に、死と破壊をもたらす灼熱の火球が現出する。

 クソっ! 炎系最上位の呪文か! こんな場所で使うんかよ!?

 だが……予測してなかったワケじゃねェ。ホットスポットから得た魔力を惜しみなく注ぎ込み、結印。


「“光槍”……“結界”!」


 俺の掌から光の槍が射出され、火球を貫く。

 直後、爆発。俺とヤツとの中間地点で炎の嵐が吹き荒れる。

 無論、威力は相当落ちる。おそらくは炎系中位の“大炎”にも満たないだろう。

 だが、結界が効いている。

 その炎は、半円形に張られた結界で遮られ、ほとんどこちらには影響がない。一方、ヤツの側には結界で誘導された炎が猛然と襲いかかった。

 無論、強烈な熱は俺の結界程度じゃ遮断出来ねェし、結界そのものも一発で消し飛んじまった。

 けど、ジューブンだ。

 おそらく水分を相当失っていたヤツの身体は、既に炎で包まれていた。


『うっ……ぐっ……』


 ラスディンの呻き。


「父様!」


 エスリーンは駆け寄ろうとし……立ち止まった。


「と……とどめを」


 そして迷いながら、印を結ぼうとする。

 彼女にやらせるべきか? それとも……

 ふと気づけば、ヤツの身体からは、今までまとっていた邪気が消失しつつある。


『え……エスリーンか?』


 ラスディンの声。

 今までの冷たい響きとは違う、温かみのある声。

 やはり正気に戻ったか。


『か……感謝するぞ。彼奴に殺されてゾンビとされた時に、何とかして意識を残そうとしたが、かえって邪気に囚われてしまったのだ』

「なるほど。じゃあ、ヤツにはワイトを作り出すほどの能力は無い訳か」


 自分でワイト化したのか。無論、そんなコトすりゃ意識は暗黒に飲まれちまう。そうまでして心を残さなきゃならなかったのか。


『ウム。せいぜい呪具を用いてゾンビを作る程度だな。剣技こそ凄まじいが』

「なるほどな。ところで……アンタがそうまでして意識を残そうとしたのは、エスリーンの為なんだろ?」

「と……父様!?」

『そうだ。エスリーンよ。お前の父は、私ではない。とある方よりお前を預かったのだ』

「そんなっ!」


 やはりか。アルなんたらというのが実の父親なんだろう。


『私はお前がただの娘として成長し、幸せに生きていくことを望んでいたが……そうは行かなかったようだな。お前を守りきれなくて、済まなかった』

「そんな……。私、は……」


 泣き崩れるエスリーン。


『すまんが、時間がないようだ。リラ!』


 ん? リラって……


『ニャー』


 どこからともなく、猫の鳴き声。


「え?」


 周囲を見回すエスリーン。

 よく見たら、彼女の頭の上に、半透明の黒い山猫っぽいモノが現れていた。

 あー、エスリーンと出会った時の姿だ。


『我が僕よ。エスリーンを頼むぞ。そして少年。我が娘を護ってくれ』

『ウニャ』

「分かったぜ」

『エスリーンよ、幸せにな。私はお前を、本当の娘と思っているよ』

「父様!」

『では……さらばだ。“浄炎”!』


 突如、ラスディンの身体を包む炎が一際大きくなった。

 これは、アンデットを浄化する呪文。

 俺達の見ている前で、その身体は火柱と化した。

 先刻までの熱さではない。心の中に染み入る暖かさを持つ炎。


「父様……」


 エスリーンは涙を流し、その前で頽れる。

 それが、大魔導師ラスディンの最後だった。



 しばしの後、俺達の前に残されたのは黒焦げの椅子と、その上に乗ったわずわかな骨片。そして、拳大の魔導石であった。

 魔化した人間――いわゆる魔人――は、その体内に魔導石を宿すという。そして、その魔導石は、その魔人の“力”を現れ。

 これほど大きな魔導石を宿した魔人の力は、推して知るべきであろうか。

 魔導石を胸に抱き、泣き崩れるエスリーン。


「とりあえず……親父さんを弔おう」


 俺は彼女にそう声をかけるしかなかった。

 それにしても……あの『力を貸そう』という言葉は、誰のモノだったんだ?

 あの占い師か? いや、違う気がする。

 もっと馴染みのある声に似た……けれど違和感のある“声”。

 あれは、一体……。

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