無理にフォローしなくていいっす
――オアシス都市リシュート 城壁
リシュートの城壁は、これまた巨大で頑丈そうだった。
乾燥地帯において水源は、何より重要な財産だ。当然、それを持たぬ連中から狙われる事も少なく無い。
故に、こうして周囲に城壁をめぐらし、防御を固めるってワケだ。
しかしその城壁も、魔王軍の猛攻の前には無力であったらしい。
悪魔王ヴォルザニエスと魔竜王レスィード率いる魔王軍先遣部隊による空陸からの攻撃で、脆くもこの街は陥落したのだ。
その戦訓から、人間側による奪還後、城壁には大きく手を加えられたそうだ。
壁自体はより高く、頑丈に。そしてその壁の上には弩砲なんかが設置され、いかにも堅牢な作りになってんな。
上空には不可視の結界まで張ってあるそーな。
今はそーカンタンにゃ陥ちねェだろーナ。
――城門
俺とエスリーンは城門の前までやって来た。
そこでは門番が目を光らせている。
通行証を見せ、所定の通行料を払ってその中へと入る。
「なあ、エスリーン、この街のこと、詳しい?」
大通りを歩きつつ、彼女に聞いてみる。
一応ゲームの知識はあるが、現地の人間の情報の方が役に立つだろう。ゲームの情報は、どうやら十何年か古いらしいしナ。
「ええ。父様と一緒によく来たわ。だから、それなりには知ってるつもり……ごめんなさい」
彼女は不意に涙を浮かべた。
……しまった。
オロオロする俺。
う〜む、こういう時のスキルがあれば良かったんだけどな〜。自分でどうにかするしかねェか……。
「大丈夫よ。ちょっと思い出しちゃっただけ」
気丈に振る舞う彼女。
だが、心の傷は、まだまだ癒えんのだろう。
と……とりあえず、話題を切り替えた方がいーな。
「まずは、宿を確保しないとね。出来れば、大通りからちょっと離れたところのほうがいいかもな」
「そうね……。それなら、『祈りの小径亭』あたりが良さそうね」
と、エスリーン。
知ってる所なのか?
……どうしたモンかね。いや……
「よし。じゃあ、そこへ行ってみよう」
とりあえずは、彼女の言葉に従うコトにした。
――しばしのち
大通りの一本裏手の小路をしばし歩いた俺達は、一軒の宿の前にたどり着いた。
「ここが、『祈りの小径亭』よ」
「へぇ……」
古いが威厳のある造りの建物だ。
「この街でも老舗よ。でも、一本入った裏通りにあるから、『知る人ぞ知る宿』って所ね」
「なるほどな〜」
身を隠すにゃ丁度いーか。
ケド……もしヤツが、『知る人』だったらどーなる?
追放されたとはいえヤツは聖堂騎士団の元No.2。そして今や、逃亡する身……
ソイツがこの宿を知っていたら?
……いや、そこまで考えちまったら何も出来ねェ。
なるようになれ、さ。
「じゃ、ココにしようか」
俺と彼女は店の扉をくぐった。
「いらっしゃい〜」
出てきたのは、若い女だ。
年は二十歳ぐらい?
出るところが出て引っ込むところが引っ込んだ体つきの、陽気そーなネーちゃんだ。それほど美人って程でもないが、結構可愛らしい。一緒にいたら、楽しそーなタイプだ。
さりげなく俺の脇腹をツネるエスリーン。
つい見ただけだってば。
それでもポーカーフェイス。
と、彼女は俺を……いや、隣のエスリーンを見た。
「え? エスリーンじゃない!? どしたのさ? 塔が火事になったって聞いて、心配してたのよ?」
「ごめんね、ティシア。その……塔に山賊が押し入ってきてね。私は逃げ延びたけど……」
「そ、そうなんだ……。お父さんは?」
「その時、賊に……」
「そう……辛かったわね」
彼女はエスリーンを抱きしめた。
――しばしののち
うん。そろそろいーだろう。
「な、なあ。エスリーン。その人は?」
「あ……ごめんなさい」
エスリーンは慌てて若い女――ティシアつったっけ?――から身を離した。
「彼女は私の古い友人よ。ティフレス村にいた頃の……」
「へぇ。そーなんだ」
ふ〜む、この店に働きに来てるとか?
「あっちにいた頃は、この子とよく遊んだりしたのよ。数年前にこっちに嫁に来て、あまり会えなくなってたけど……」
「ナルホド……」
あー既婚者ですか、そーですか。
ちっとザンネン。
「ところで、その人……あなたのコレ?」
ティシアが俺を見、ニヤニヤしながらエスリーンに問う。
「違います」
おおう。あっさり言ーよった。
思わずヘコむ。
その俺を、ちっと同情混じりの目で見るティシア。
「そ、そうなの? ちょっと頼りなさげだけど、顔は……まぁ良いんじゃないの」
無理にフォローしなくていいっす。つか、あんましフォローになってねぇ。
「あ……ま、まだそんなコト考えられる状態じゃないの。父があんな事になって……」
「そ、そうよね。とりあえず今はここで休みなさいね」
「ええ……」
ティシアの言葉に、エスリーンは頷いた。
・人物、用語など
ティシア
祈りの小径亭の女将。エスリーンの友人。




