経験値なんぞ入らんモンな〜
――翌朝
またしても、俺はうなされつつ目を覚ます。
昨晩と同じ状況だな。
とりあえず、寝ぼけた彼女にかまってやりつつ、完全に目覚めるのを待つ。
今回はバレんかったゼ。
ヘヘっ……。
ちなみに昨晩の夕食には“例”の名物料理が出た。ついでに喰い残した例のジャイアントスコーピオンはエスリーンが店に渡し、他の客にも振る舞われたという……。ちなみにあの鋏は珍味だそーな。尻尾の毒腺も、香草と酒で漬け込んだりすれば喰えるよーになるってハナシだ。どこにも命知らずの美食家はいるモンだナ。
トーゼンそんなモノ喰ったせーで精神耐久力はケズられちまったが……一晩寝たおかげで完全回復だ。
エスリーンが完全に目覚めたら、二人で朝食に向かう。
朝食は、幸いアルタワールで食べたモノと大差なかった。
朝一で正気度ケズられんで良かった……
そして朝食をとったのち、今後の予定を話し合う事にした。
「出来れば近いうちに、塔へと行ってみたいの」
と、エスリーン。
「う〜む……」
確かに彼女の気持ちは分かる。だが、もし俺達がアルタワールからいなくなっている事をヤツが知ったら? いや……それどころか、俺みたいに“探索”の呪文を使ったら?
……後者はないか。もし呪文を使ってたのなら、依頼を出す必要はねェよな?
いや……待てよ。
「なあ、エスリーン。確かナイフで脚を傷つけられたんだよな? もしその血を触媒に、“探索”を使ったらどーなる?」
契約書なんかに押す血判ぐらいの血の量でも、ある程度の精度で相手を探すことができるらしいしな。
「確かに体毛よりは正確な位置を推定出来るけど……それはあくまで十分な量を確保できた場合ね。私の場合は大丈夫よ。ナイフは少し離れた場所で抜いて、下水に捨てたわ」
「なるほど。それなら良いか」
一安心。いや……
「な、なあ。もう一つ確認したい。もし地面に落ちた血を使ったら?」
「う〜ん……量にもよるわね。あの時落ちた程度の血の量だと、相当精度は落ちるでしょうね。でも、大体の場所は分かるかもしれないわね」
「そ、そうか……」
大体の、か。
つまり、街を移動しちまった場合、それが分かっちまう訳だよな。
アルタワールを離れたのは少々マズったか? あの宿から少し離れた別の宿でしばらく身を隠してた方が良かったのかもしれん。
いや、そー決め付けるわけにもいかんか。
ヤツがソレに気付いていたとは限らんしナ。
どのみちヤツはどうにかしなきゃいかん訳だし、塔の現状を確認しておく必要がある。
もしヤツが、エスリーンが街を離れた事に気付いてこちらに向かったとしても、到着は少なくとも今日昼過ぎになるだろーな。それまでの間に塔へ行って、確認して来るのも一つの手だろう。
――約30分後
俺達は宿を出、ティフレス村へと向かう事にした。
ティフレス村までは、歩いて約三十分。
今はおそらく9時前だから、何とか昼前には戻れるだろう。
確認だけして帰って来るのならば、だがな……
そうして、さらに歩く事暫し。
アルタワールやリシュートのモノとはとは比べものにならないが、そこそこ堅牢そうな城壁が見えた。
ティフレス村を囲う壁だな。
門も見える。
だが、今回の目的地は、この村じゃない。その向こうに見える塔だ。
そこに行くには、二つのルートがある。
一つは村の中を通り、裏手の門から出て塔へと繋がる小道を行くか。
もう一つは村を迂回し、城壁の外側に広がる森の中を通るか、だ。
俺達は村に入ることを避け、森を通るルートを選択した。
――小径
俺達は村を守る壁を迂回し、森へと向かった。
その森を抜ける小道を、慎重に歩く。
森、といっても日本にある様な鬱蒼と茂ったものとは違い木自体の密度は低い。木もマツみたいなのが多いな。
乾燥地帯だけあってか、枯れ木も目立つ。
一方、低木の藪はそこかしこにあり、見通しは良くない。
「確かこの森って、トロールか何かが出るんだっけ?」
ゲームでは、確かそうだった。実際はどうか。
「昔はね。十年以上前の話よ。今はせいぜいゴブリンが出る程度ね」
ふ〜む。一安心。
トロールは、厄介な敵だ。
巨人の一種で、強靭な肉体を持つ種族。怪力で凶暴、強力な再生能力を持つという厄介な相手である。弱点といえば、直射日光に当たると動きが鈍くなったりするぐらいか。
もっと小型の亜種も幾つかいるらしいが、それらはごく少数らしい。
正直、今は戦いたくねぇ。
「へぇ〜、何かあったんかな?」
「分からないわ。もしかしたら、盗賊がいなくなった事と関わりがあるのかもしれないわね」
「なるほどな〜」
う〜む。もしかして、盗賊やらトロールやらをまとめて倒したヤツがいたんかいな?
「どこかの軍が掃討でもしたのかな?」
「違うと思うわ。その当時はどこも再建途上で、街道上の盗賊やモンスターの掃討作戦なんて実行できる余裕のある街なんてなかったわよ」
「なるほどな〜」
と、なると……
トロールと盗賊がどこかに移動したか……それとも、それらをまとめて倒したバケモノがいるか、ってワケか。
だとしたら、トロールより厄介な敵じゃねーか!
……いや、敵とは限らんか。
どのみちもうあの森にはいねーと思うが……急いで通り抜けた方がよさそーだな。
――森の中
俺達は森の中の小径を進んでいた。
道、といってもひどく荒れ果ててる。
灌木や雑草がやたらと生い茂ってるんで、まるで獣道みてーなアリサマだ。
おそらくここを通るヤツなんて、ほとんどいねーんだろーな。
ツル草や木の根に足を取られ、何度も転びそーになった。
クソッ、ウゼェ。
とりあえずサーベルを抜いて切り開いて行くが……コレをこんなコトに使いたくねー。
ナタか何かを買っとくべきだったか。
しばらくアルタワールで過ごすツモリだったから、後回しにしちまったんだよな。で、今回買い忘れるという……
とりあえず必要なモノがあれば、その場で買っとくに限るな。まだまだリュックに余裕はあるよーだし。
……などと考えつつも、サーベルでツルを切り裂いた。
あ〜、メンドクセぇ。
経験値なんぞ入らんモンな〜、コレ斬っても。
「ねぇ……その剣、そんな事に使っていいの?」
心中でボヤく俺に、エスリーンが問う。
「まーな。ナタか何かでもありゃいーんだけどさ」
俺は肩をすくめ、またツルを切る。
ちなみにコレの原型は錆びた大ナタだしな……。
「それ、占い師から渡された剣よね。聖剣の類かしらね」
「それはワカランけどさ。なかなか良い剣だろ?」
足を止め、サーベルをまじまじと見る。
まぁ確かに、よくあるコンピューターRPGじゃ後半で手に入る剣っぽい外観だ。元がアレとは思えんぐらいに柄には綺麗な装飾が施されている。
……俺がそうイメージしたからな。中途半端だけど。
にしても……“聖剣”、ねェ。
スマホゲーム“アストラン大陸戦記”だと、勇者ヴァルスラーナのヴァルファザーンとその父イルムザールのクルトエルカあたりがあったか。古代の勇者の剣なんかも出てきたっけ? まぁソレはいーや。
「その剣から感じる“力”は、とてつもなく強いわ。その占い師って……何者?」
「さぁ? もしかしたら、カミサマか何かが遣わせてくれたのかもしれんね」
神様であれば良いんだけど……
エスリーンは黙り込んだ。
どうしたんだ? ……まぁ、いいか。
いーかげんツルを斬るのも飽きてきた。
塔の方角は……ヨシ。
「な、何するの?」
「道を切り開くのさ……“斬輪”!」
印を結ぶと、二枚の光のカッターが眼前に現れる。
そしてそれは、道の両脇に沿って塔の方へと向かって飛んだ。
つる草や道にはみ出た枝なんかが切り裂かれ、落ちて行く。
オシ。これで幾らかは通りやすくなったな。
まー、落ちたつるや枝なんかは片付けにゃならんケドさ……
とりあえず俺達は、風魔法でツルや枝なんかを片付けつつ、歩を進めることにした。




