儲け儲け
――旧ベルカント邸中庭 礼拝堂
女神像の足元にあいた穴を覗き込むと、地下へと向かう階段が見つかった。
降りてみっか。
俺は一歩一歩確かめつつ、階段を降りる。
階段を降りた先は、小さな部屋だった。
壁際の本棚には怪しげな魔道書が並び、壁際の机には妙な実験道具っぽいモンがある。そして中央には、人一人が寝転がれるぐらいの大きさの台。
ふむ。ここは何かの実験室だったらしいな。あのゴーレムなんかを造ったのはココか。多分、この台の上にヤツが寝てたんだろーな。
そーいえば、何か役に立ちそうなモンはないか?
まずは魔道書から見てみっか。
一冊を手に取り、パラパラとめくってみる。
金属の変成や生命の創造に関わる文献らしい。
へぇ……錬金術の類か。オモシロそーだな。
あとは、魔法陣を使った大規模な儀式魔術やら、世界の成り立ちについて論じた書物もある。
この辺はもらっといてもいいな。
あとは……机上や棚の実験器具とかか。
蒸留装置っぽいのとか、小型の炉とか。あとは、水指しみたいのや下に小さな穴の開いた、吊り下げるタイプのポットなんかもある。
使い道は、さっきの魔道書を見ればわかるんかいな?
他には……あの戸棚か?
戸棚を開けてみる。
「うげっ……」
そこのあったのは、ビンに入った内臓やら得体の知れない生き物の標本やらだ。
フレッシュゴーレムを作った時の余りパーツかもしれん。
……見なかったコトにしよう。
さっきは凍ってたからまだ良かったけど、コレらは生っぽい。っつーか、動き出しそうだな。
あんまし凝視すると、また精神耐久度が減りそーだ。
俺は静かに扉を閉じた。
う〜ん、あとは……
ん? 台の下にも引き出しがあるな。上段が四つ。下段には両開きの扉が二箇所ついてる。
開けて……
いや、またアレなブツが出てきても困るな。どーすんべ?
…………
ちっと開けてみるか? とりあえず、一番右からだ。
入っているのは、小型のナイフやハサミ、ピンセット、針……
手術道具の類か。
おっと、こっちから魔力を感じるな。開けてみっか。
その隣の引き出しを開けてみる。
これは……
中には色とりどりの石が入っていた。錬金術に使う材料かねぇ。何かの鉱石みたいのもある。あとはビンに入った銀色の液体も。
それ以外には……
「へぇ……」
幾つか中には宝石っぽいモノも混じってるな。
とりあえず、“識別”だ。
硫黄の塊やら塩の結晶、ビンに入った水銀、と。この辺は、錬金術でよく使われるモンみたいだな。それに、銅や鉄の鉱石もある。赤っぽい鉱物……辰砂ってヤツもあるな。地球じゃ別名“賢者の石”とも言われるらしいが、コイツからはなんの“力”も感じねぇ。あとは、宝石……。カットされてないから価値は低いが、まぁそれなりの額にはなるみたいだな。そして、魔導石が一個。感じた魔力の元はコレか。
儲け儲け。
じゃ、次。
……何種類かの薬剤だな。
アルコールとか、理科室にありそーなモノがいくつか。それにくわえて、幾つかの水薬。肉体の治癒に役立つらしい。回復アイテムだな。もらっとこう。他には幾つかの毒薬もあるな。
次行ってみよー。
出てきたのは、紙の束だ。
手書きのメモなんかな? なーんかグチャグチャ書き込んである。
一体何が書かれているやら。ボーションの作り方だったら儲けもんだが……翻訳されん。アカシックレコードにも記録されていない言語で書かれているのか、それともただ字が汚いのか。……見る限り、どーやら後者っぽいな。
次は……カラか。
で、下の扉も開けてみる。まずは右。
……ゴッツイノコギリやらハンマーやら、ノミや手回し式ドリルもある。
う〜ん……次!
左の扉を開ける。
ん? 何だこりゃ? 金属でできた、手の形をした何か……そうか、義手か!
へぇ……こんなモノも研究してたんか。どうやら装着者の魔力で動くらしい。
……大体コレで一通りかな? かなり役立ちそうなモノも見つかった。
う〜む……持って帰りたいが、さすがに一人で持ちきれる量じゃねぇ。何か手は……四次元ナントヤラの類がありゃいーんだけどな〜。
ま、持てるだけ持って帰るか。
一旦納屋に戻るとリュックを持ってくる。
さて、何を持って帰るかだな。まずはポーションと宝石、魔導石はいけるだろうな。紙の束も……だが、読めねぇんだよなぁ……。
後は……
ン? またスマホが鳴ったな。
慌ててポケットから取り出す。
「はい」
『私だ。調子はどうかね?』
例の占い師だ。
「おかげさんで。今はアルタワールさ」
『そうか。順調なようだな。レベルアップは順調かね?』
「ゴブリンの群れ一つとチンピラ連中を倒したんで、LV3さ。で、今フレッシュゴーレム一体を撃破したから、LV4になると思うんだけどね」
『そうか。それは何よりだ。とりあえず、困っていることはないか?』
「う〜ん、そーだな……。強いて言えば、持ち物に関する事ぐらいかな?」
『と、言うと?』
「ああ。アイテム類が多くなると、持ちきれないこともあるだろ? ソレ、何とかならないモンかねぇ?」
『なるほど。そんな事か。なら、適当な大きさの袋を用意してくれ給え』
「袋ね……今持ってるリュックとかでもでいいか?」
『ああ。それならちょうどいい。中身全部も出してくれ』
「わかった」
リュックから中身を出し、再びスマホを手に取る。
「出した。どうすればいい?」
『では……必要な呪文を君に送る』
「送る? ……うおっ!?」
魔力の使い方をダウンロードした時と同じだ。脳内にデータが流れ込んでくる。
が、あの時ほどの量じゃないせいか、頭の痛みはほとんどなかった。
『受け取れたかね?』
「ああ。“圧縮”の呪文っぽいな」
“圧縮”とは一時的に時空を歪め、ポケット状の空間を作る魔法だ。その中に物を隠すことができる。その応用っぽい呪文だ。
『左手で持ってくれ。後は、こちらがやる』
「おう。こうか?」
『十分だ。では……』
「おおっ!?」
サーベルの時と同じだ。
俺の左腕が、勝手に動く。
印を切り、リュックにかざした。
『さっきの呪文を唱えてくれたまえ』
「わかった」
俺は呪文を口にした。
直後、光が溢れる。魔力が弾け、空間が歪むのを感じた。
……失敗はともかく、リュックがロストすんのはカンベンしてくれよ。それなりに高かったんだからな、コレ。
しばらくのち、光が収まった。リュックは無事なよーだ。
……うまくいったかな?
リュックの形は変わらないな。とりあえず口を開け、中を覗き込む。
中は真っ暗闇だ。手を突っ込むが、袋の内側に触れることはできない。内部は広大な空間とつながっているみてぇだな。
うまくいったよーだな。
『どうだね?』
「袋の中が別の空間とつながってるみたいだ。上手くいったようだぜ」
『それは何より。何か入れてみてくれ』
「わかった」
手近な魔道書を放り込んでみる。本は暗闇の中へと吸い込まれていった。
……大丈夫なんか?
「入れたぜ」
『ステイタスの“所持品”欄をチェックしてみてくれ』
「“所持品”、ね」
おおっ。“リュック内”という項目ができてるな。
これをクリック。
おっ、魔道書が収納されてる。
「確認した。便利そうだな、コレ」
『うむ。活用してくれ。内容量は、使用者の魔力に依存する。現時点では、入れすぎに注意してくれ』
「わかった。取り出し方は?」
『中に手を入れ、入れたモノを念じればいい』
「やってみる」
中に手を突っ込み、魔導書の形を思い浮かべる。と、手のひらに何かが触れた。それを取り出すと、先刻放り込んだ魔導書であった。
「……おおっ!? 取り出せた」
『そうか。では、今回はこれで。健闘を祈る』
「あっ、ちょっ……」
そこで通話が切れた。
まだ聞きたいこともあったんだがな。
まぁいい。コイツを有効利用させてもらうとするか。
まずは手当たり次第に本や実験器具を放り込む。
流石にリュックの口より大きいモノは入りきらないようだ。そーいうのは残念ながらおいてくしかないか。あと、標本なんかもこのままにしとく。アレを持って帰ってもな〜。
そうして魔導書などをめぼしいモノを放り込み終えると、俺は地下室を後にした。




