あれ? 身体が動かねェ
――どことも知れぬ地下室
吹き出る汗。震える脚。
「あらあら。さっきの勢いはどうしたの? 私とシたいんじゃないの?」
トゥラミシュは、逃げ腰でジリジリと後退する俺を嘲る。
「いいいや、裸のマッチョ男に迫られりゃ誰かて逃げるわ! せめて服着せて、服!」
たとえオーガー相手の組み討ちだろーが、一歩も引くつもりはねェ。
ケド……全裸の男と戦うっつーのは一番避けたい展開だ。しかも組み合いにまでなった日にゃあサ……
「贅沢ね」
彼女がまたパチンと指を鳴らした。
と、ヤツの腰回りに光が……
おっと、布が巻きついたみたいな状態だ。褌っぽい?
「これならいいでしょ?」
「お、おう」
俺の方も、と思うが……手枷足枷のコト考えると、避けた方がいーな。いざという時に動きを封じられちまう可能性もある。
つか、俺も使えるんかな? あると便利そーだ。
さて、と。
呼吸を整え、構えを……
「……って、ヲイ!」
「オアァーッ!」
俺の心の準備が整う前に、ヤツが襲いかかってくる。
「クソッ!」
掴みかかる腕をかわし、脇腹にカウンターで左の拳を一発。
レバー直上。手ごたえアリだ!
「ガフッ!」
ヤツは呻き、よろめいた。
しかし……
「ぐぅっ!?」
俺の腕に走る痛み。
さっき枷をぶっ壊したトキに、骨にヒビでも入ったんか?
気がつけば、右腕もズキズキ痛んでやがる。
さっきまではアドレナリンがドバドバ出てたせーで、痛みはほとんど感じなかったんかナ?
慌てて跳び退り、距離をとった。
ちっ……やれるか?
「“治癒”!」
痛みをこらえて結印。
溢れる淡い光。
が、いつもの様な効力は発揮されない。かろうじて痛みは治まったがな。
チッ、やっぱし魔力の流動が悪い。ってコトは、枷じゃなくて俺自身に魔法行使を阻害する術が仕掛けられてるのか!
これじゃ攻撃魔法の威力も期待できんか。
だが、腕の痛みが治まったしな。
じゃ、こっちから行くぜ!
踏み込み、ジャブ一発。それをガードさせると側面をすり抜ける。
「逃げる気?」
トゥラミシュの声。
へへっ、違うぜ。
踏みとどまる。そして身体を反転させると、ヤツの膝裏めがけて下段のドロップキック。
「グアッ!?」
アーミルの上体がグラつく。
倒れねェか! でも、まだこっちのターンだ!
すぐさま起き上がると、アーミル背後から勢いをつけ、その首に手を回す。そしてすぐさま、背中合わせ状態で前方へジャンプ。
ネックビリーカードロップっつーんだっけ? プロレス技の。
ヤツの巨体が宙に浮いた。
そして、落下。
「グアッ!」
倒れこみつつ、ヤツの後頭部を床に叩きつけてやる。
アーミル、悪く思うなよ。まぁ、これで死ぬよーなコトはないと思うケドさ……
「ガ……ハ……」
アーミルの呻き。
よっしゃ、生きてた。が、喜び半ばかな? 気絶はしてくれると思ったんだが、甘かったか。
「ふふっ、可愛いのが見えてるわよ」
トゥラミシュの笑い声。
……へ?
って、腰に巻いた布が捲れ上がってら。
立ち上がり、慌てて直す。
つかさー、そーいう心をエグるよーな発言はナシにしてもらえませんかねぇ?
「ア……ガ……」
頭を押さえ、立ち上がるアーミル。
クソ、ボディも頭も効かねェのか? いや、少し動きがぎこちない気もするな。幾らか効いてるのか。
そんなら……
まずはフェイント。そしてローキック。ジャブを挟んでさらにロー。
焦れたアーミルが大ぶりのパンチを振り回すが、突き蹴りで距離を離し、更にロー。
アーミルの上体がグラついた。
やっぱ脚にきてるか? ケッコー本気でロー入れてるモンな。多分、通常のアーミルだったら脚をぶち折っちまうぐらいの威力だ。
さて……
少し離れた間合いで、数発ジャブを空撃ちして挑発。
そして踏み込むと見せかけ、軽くジャブ。
焦れた相手がつっかかってき所を、突き蹴りでカウンター。そしてローを二発。
う〜む、地味だ。
ケド、これは布石。
相手の間合いギリギリを出入りしつつ、またジャブを空撃ち。
そして踏み込んで、ローキックの体制に入る。
一方、アーミルはガードを固める。
オシ、チャンス!
キックを放つべく上げた脚を、そのまま振り下ろして踏み込む。そしてガラ空きになった顎先に、フック気味の掌打を叩き込んだ。
「ガッ!?」
上体をぐらつかせるアーミル。
効いたか! さすがに肉体を強化しても、脳を揺さぶられちゃオシマイだ。流石に脳自体の強化はされてねェよーだな。
今のうちに追撃だ!
更に突き上げるアッパー掌底。
ヤツの上体が跳ね上がる。
そして鳩尾に拳を一発。
今度は身体をくの字に曲げた。
オシ、トドメだ!
ジャンプ。そして、顎に膝を打ち込んだ。さらに、
「も一つオマケだ!」
空中で身体をひねり、逆の膝をアーミルのこめかみに叩き込んだ。
「ガッ!」
ヤツはもんどり打って倒れた。
……どうだ?
これでダメならチとヤバい。正直ヤツを殺すつもりで攻撃せにゃならんくなるからな……。
「ガ……ア……」
アーミルが上体を起こしかけ……
そして、力尽きた。
呼吸は……ある様だな。胸が上下してる。
と、次第にその身体がしぼみ始めた。
隆々としていた筋肉が細くなっていく。そしてしばし後には、いつもとほとんど変わらぬ状態のアーミルが横たわっていた。
……あー、良かった。しぼみ始めた時は、ミイラにでもなっちまうかと思ったぜ。
「……おっしゃあ!」
俺は思わず拳を突き上げた。
と、腰から落下する布。
「おぉう……」
あー、締まらねェ。
慌ててそれを拾い上げようと……
「……え?」
その手を掴まれる。
「と、トゥラミシュさん!?」
気がつけば、彼女がすぐそばまで来ていた。いつのまに!?
「ふふ……そんな無粋なモノはいらないわ。二人で楽しみましょ?」
彼女は俺の目を覗き込み……
あ、あれ? 身体が動かねェ。
まさか、あの時のアーミルと同じ状態か? 油断した!
「俺を一体……むぐっ!?」
そして開きかけた俺の口を彼女の紅い唇が塞いだ。




