別の意味でピンチ!?
――地下の一室
俺はそれを覗き込んだままの姿で硬直していた。
奥のベッドで絡み合う裸の男女。男が横たわり、女がその上に跨っていた。
と、男の顔が見えた。
あれは……アーミル!? ナンでヤツが?
しかし、ヘンだ。
アイツ、あんなに立派な体格だっけ? 筋骨隆々とまではいかんけど、かなり逞しい体型だ。まさか着痩せしてたとかじゃないよな?
あるいはよく似た兄弟がいたとか? いや、聞いた事ないな。
そして女は……
長い黒髪。そして透き通るような白い肌。顔は見えない。
ま、まさかエスリーン? だったら俺、立ち直れないぜ?
いや……よく見ると、背中側からもたわわな胸が踊っているのが見えた。
あー、絶対違うわ。
いや……アーミルがあーなってるんなら、エスリーンがああいう体型になってても不思議じゃない? ……いや、ナイナイ。
とはいえ、どーするよ。
逃げるのもナンだし、このままここにいるのもアレだし。
と、女の方が俺を見た。
チッ、気づかれた!? すぐに突入を……
しかし、その顔を見て、俺は愕然とした。
「と……トゥラミシュさん!?」
な、なんでアンタが?
しかしその顔は、昼間みた清楚な尼僧とはまるで違っていた。
「ふふ……後でじっくり可愛がってあげるつもりだったのに……悪い子ね」
俺を見、蠱惑的に笑う。
「そんな……」
トゥラミシュさんはそんな事言わない。
……とは思ったが、やっぱし彼女も人間なんだしさ。そーいう一面もあっても仕方ねェ。
が、妙だ。彼女から感じるこの“力”は何だ!?
何か……ヤバい気がする。
逃げるか? いや、アーミルは放っておけん。
なら……
突入!
地を蹴り、ベッドの方へと……
直後、彼女が指をパチンと鳴らした。
「ン?」
と、その途端に手足が重くなりやがった。
……って、ナンだ、こりゃ。
そうか、この枷か! 魔力を帯びてたもんな。マズったぜ。
そのまま俺は、地面にくずおれる。
それなら魔法で……って、ダメか! 指先まで魔力が行かねぇ!?
「くっ……そ……」
「ふふっ……そこで待ってなさいな。私は逃げないわ」
彼女は俺に声をかけると、また行為に没頭し始めた。
……クッソ、どーなってんだよ。アーミルもちっとは反応しろや。自分だけ気持ちよさそーな顔しやがって。早いトコ終わらせて、とっとと代われ……じゃねーよ。
つかどっちにせよ、この枷のせーでマトモに動くコトも出来ん。
ナンとか……ダメか。思いっきり力を込めたら少しばかし腕を浮かせられたがな。ケド、たったそんだけにこれほど体力使っちまうとなると、逃げるどころかまともに動くコトもままならんゼ。クソっ、角度が悪い。見えそで見えな……
……ゴホン。
う〜む、集中できへん。
このままじゃ、どーにもならねェか? この性欲がジャマしやがる。
妄執を捨て、無心の境地に……って、俺じゃムリか。
……いや、違うな。欲望を“力”に変えりゃあイイんだ。
オシ、やってみっか。
まずは深呼吸。
『……なぁ、俺よ。ヤりたいんだろ? なら、こんなトコロで這いつくばってちゃ始まらねェぜ? だからよ、こんな枷引きちぎってあの女とキモチイイコトしようぜ?』
自己暗示だ。まー、かなりアレな内容だが。
……おっ、来た来た。
身体の奥から湧いてくる力。
『そうだ。そうこなくちゃな。捌け口は、すぐ目の前にあるぜ?』
よしよし。このまま理性をぶち割り、ケダモノになってやんぜ!
「ん゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛……」
頭をつき、両腕を持ち上げる。
その間にも、両者の行為は激しさを増していた。女の嬌声が、俺の欲望を刺激する。
下っ腹、ヘソの下あたりに熱いマグマのよーな塊が現れた。
それはドクンドクンと脈打ち、出口を求めて俺の中で暴れまわり始める。
いいぜ、その調子だ。
『あんなイイ女が他人に抱かれてるのに、お前は指をくわえて見てるだけかい?』
全身が熱くなって来た。
少し。もう少し。
う〜む、我ながら妄想パワーの凄まじさよ。
そうする間に、とうとう両者の行為はクライマックスを迎えた。
アーミルの呻き。そしてトゥラミシュの甘い叫び。
そして、
「ぬりゃあ!」
俺の咆哮。
持ち上げた両の腕を、石畳に叩きつけた。
散る火花。飛び散る石クズ。そして……
床に転がる、破壊された二つの手枷。
「へっ……へへっ……」
枷をぶっ壊してやったぜ。
両の腕はズキンと痛む。だが、それは些細なコトだ。
腕に力が戻る。この枷に宿る魔力が、俺の筋力を萎えさせていたのか。
次いで足枷にも手をかける。そして、
「おぉっ!」
一気に引きちぎった。
我ながら、凄まじい怪力だな。
オシ、これでもう自由の身だ。
後は……
俺は仁王立ち……いや、前屈みの体勢でベッドの上に目をやった。
「あらあら……」
トゥラミシュは上気した顔に、呆れた様な表情を浮かべて俺を見る。
「そんなに私としたかったの?」
彼女はアーミルから身を離すと、俺の方を向いてベッドの端に腰掛けた。
少し脚を開いているので、当然全部丸見えだ。
その瞬間、俺の中で何かがブツリと切れた様な音がした。あ、理性が……
“獲物”、だ!
俺は興奮に身を任せて、彼女に襲いかかろうとし……
「でも、ダメね」
「!」
何かに突き飛ばされた。
「……アーミル!」
身を起こした俺の前に仁王立ちするアーミル。
あ……れ? コイツ、さっきよりもマッチョになってるよーな?
ふと我に帰ってしまう。
「ふふっ、私としとしたければ、この子を倒してみなさいな」
「……へ?」
アーミルがずいと前に出た。
太い首、荒縄をよじった様な筋肉で覆われた四肢。逞しい胸筋と、割れた腹筋。そして未だ臨戦態勢の……って、
一気に興奮が冷めた。同時に血の気も引いて行く。ナンっつーか、空気の抜けた風船みてェだ。
「え? ちょっ、待ってくれよ〜!」
思わず後退り。
「さあ、やりなさい」
トゥラミシュの声。
そして俺に掴みかかるアーミル。
「うわ〜っ!」
俺は思わず絶叫を上げていた。
こ、コレ……別の意味でピンチ!?




