表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

6. 戦略的撤退とはつまり逃げることである

 おいおい、俺たちを追い詰めたつもりか?

 甘いぜ。

 雑魚ゴブリンの集まりよりも俺が鍛えたスライムの方が強いに決まっている!

 俺はゴブリンキングを見ながら、そう思った。


 ゴブリンたちが一斉に襲いかかってきた。

 ただし、単体の戦闘力はこちらの方が上だ。


 特にドライ。

 ドライは好戦的だ。

 今もゴブリンを斬りつけていた。


 アインスはドライの次に強く、ゴブリンを二体同時に殴り倒していた。

 ゴブリンキングは後方でふんぞり返りながら俺たちの行動を見ている。

 余興だと思っているのか?

 その余裕が命取りになるんだよ。


「一点突破する! 俺についてこい!」


 包囲された状態では一点突破に限る。


 ゴブリンキングの纏う強者感を見て、今の俺では敵わないと思った。

 だから逃げの一手が最善だ。


 集中の原則――局所優勢を作り出し、包囲網を突き破る。


「行くぞ――!」


 俺の掛け声とともにスライムたちの声を上げる。


 狙うはゴブリンが少なく、かつゴブリンキングから遠いところ。

 それは真後ろだった。


 相手に背後を見せるのはあまり良いことではない。

 だが、仕方ない。

 俺を先頭にV字型の隊列を作って走り出した。


「はああ――――!」


 目の前のゴブリンを斬り倒す。

 そのまま足を止めず走る。


 三体のゴブリンを斬ると道が切り開けた。

 これなら包囲網を突破できる。

 そう思った瞬間だ――。


「――――グオオオォォォォォォォ」


 咆哮が聞こえた。

 反射的に体が震える。

 本能的な恐怖が呼び覚ませられる。


 振り返った。

 ゴブリンキングが空に向かって叫んでいた。

 そして、刹那――ゴブリンキングが俺たちに向かって走り始めた。

 その形相は鬼のよう。

 スライムたちが恐怖を抱くには十分だった。


「足を止めるなッ!」


 俺はスライムたちを鼓舞する。

 だが、ゴブリンキングの速度が早く、足音が少しずつ近づいてくる。


 ――ドンッドンッドンッドンッ

 ゴブリンキングの地を踏み鳴らす足音が聞こえる。


「――――」


 後ろを振り返った俺は焦燥感を覚えた。


 一番後ろにいるのはフィーアだ。

 ゴブリンキングがフィーアのすぐそこまで迫っていた。


 スライムたちを犠牲にすれば、俺だけこの場は離脱するのは可能だ。

 だけど、スライムとはいえ、みんな俺の配下だ。

 俺は配下を見捨てるようなことはしたくない。


「ああ、くそっ!」


 こんなところで配下を殺されてたまるかよ。

 俺はいずれ最強になる男だ。

 最強の男が配下を犠牲にしたら、それはもはや最強じゃない。

 ただのクソ野郎だ。


 俺は体をくるっと反転させる。


「ツヴァイ、擬態だッ!」


 ツヴァイが頷き、スライムシールドに変化する。

 スライムシールドを持った俺はゴブリンキングに向かって走り出した。


 ゴブリンキングが凶悪な棍棒をフィーアに振り下ろそうとしていた。


「ッ――――」


 ――――間一髪。

 フィーアとゴブリンキングの間に入ることができた。


 ズシン。

 重たい一撃をスライムシールドで受け止める。

 腕がはちきれそうな衝撃を受けた。


「くッ……!」


 ゴブリンキングが棍棒に力を込める。

 俺の足がめりめりと地面にのめり込む。

 重い。

 支えている左腕が、体が悲鳴を上げる。


 一瞬がはてしなく長く感じる。

 息が苦しい。

 と、そのときだ。


 横からドライが走り込んできた。

 そして、大きく跳躍。

 ドライはゴブリンキングの目に向かって斬りかかった。


 ――――ザシュッ


「グガアアアアァァァァァァッ!」


 ドライによって瞼を斬られたゴブリンキングは叫んだ。

 その瞬間、ゴブリンキングの俺を押し込む力が弱まった。

 俺はぐっと左腕に力を込めて、棍棒を押しのける。


 ふらっとゴブリンがよろめいた。

 チャンスだ。


 このままゴブリンキングを殺るか?

 いや、だめだ。


 今はまだ倒せる自信がない。

 力が足りていない。


「撤退だッ! 逃げるぞ!」


 道は(ひら)けている。

 さっき俺が切り開いた道だ。

 アインスが先頭を走り、俺たちはそれについていく。


 ゴブリンキングが痛みに悶えている間に、なんとか逃げ切ることができた。


 だいぶ危なかった。

 こんなところにゴブリンキングがいるなんて聞いていない。

 ルッツは忠告を無視して森に入ったため、悪いのは(ルッツ)なんだが……。


 俺たちは洞窟内に身を潜めながら、今後の行動を考えた。


 一旦、冒険者ギルドに戻る。

 それが一番現実的な考えだ。


 だけど、帰り道がわからない。

 ルッツの記憶を辿ろうにも、ルッツは何も気にせずに森の中を歩いていた。

 我ながら馬鹿だと思う。

 こいつは自殺願望でもあったのか?


 街の方向がわからない。

 そもそも、戻りたいとも思わない。

 街では腫れ物に触るように扱われていた。

 あんなところに戻っても面倒なだけだ。


 と、なればやることは一つ。


「――ゴブリンキングに再戦を挑む」


 今回の問題はゴブリンキング単体の強さ以外にもある。


 ゴブリン群れに囲まれたことだ。

 さすがにあの数は多すぎる。

 単体で弱くても群れれば厄介だからな。


 再戦するときには、できればゴブリンキングと一対一の状況を作りたい。

 そのための具体的な方法は、


「ゴブリン刈りだな」


 ゴブリンキングが率いているゴブリンの数を減らす。

 なんだ、さっきまでとやることは変わらないな。

 方針は決まった。


 見てろよ、ゴブリンキング。

 お前に狩られる側ってことを教えてやるよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ