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そんな理由で

「あれ? もしかして」

「【エグゼキュート】。直の魔法だ」

()()()がないってことはもう終わったみたいだね」


 水平線の彼方に現れた無数の魔法陣を、一同は揃って目撃していた。

 水月には覚えがあったのだろう。藍がその正体を告げる。

 衛が戦況を分析すると魔法陣が消えた。

「え? 直ちゃんの?」

 と疑問を示すのは茉莉だ。

 美愛子や明日香は魔法自体に驚いているが、そこで直がいることに疑問を覚えるのは茉莉らしいと言えよう。


「さっき呼んだんだ。ダメ元だったけど気づいたんだ」

「電波受信してるとか、さすがだよな」


   ターンッ


 銃声が響く。倒れた藍がひたいを押さえてのたうち回る。

 騒然とする一同を、衛はため息しつつ、宥めるのだった。




「たぶん、戦闘中で悪意に敏感だったんだよ。うん」

「誰もまだ何も言ってねーよ」


 そんな言い訳がましいことを言いながら、直が(吉彦の襟首引っ掴んだ状態で)“転移”したのは、それからほんの数分後の出来事。


「あれ? あーちゃん先生や美愛子先輩もいる。やっほー」


 先輩の方だけちゃんと呼ぶのがミソである。片方だけを普通に呼ぶことで、あたかも「周囲そうしてるから自分もそうしている」というような演出をしているのだ。


「お前、今生徒にそんなかわいい呼ばれ方されてんの?」

「いえ、そんな馬鹿な……」


 丈の疑問に明日香が動揺しているが、付き合いの長い藍と衛は理解している。愉快犯()の気まぐれである。

 どうも場所という場所に爆弾を落としていかないと気が済まないらしい。

 一瞬何かあったのかと勘繰ったが、何もなくてもそういうことをする奴だったと思い直して、思考を放棄する。


 ともかく。


「捕まえておきましたよ」


 左手に引き摺っていた吉彦を放り捨てれる。雑だ。丁寧に扱う道理もないが、同情を禁じ得ない。

 衛は無言で手を合わせた。藍も横で似たようなことをしている。


「でもこいつ、詳しいことは何も知らないようなこと言ってたな」

「そういえば魔法力が高ければ誰でもいいみたいなこと言ってましたね。どなたかに頼まれた様ですが、その相手についてもよく知らないと」

 藍が吉彦との会話を思い出す。水月も似たような話をしていたことが知れたが、進展に繋がるようなことが何もないことしか分からない。

「物心つく前の小さい子なら、そういう話も結構多いけどね」

 比較的力の弱い幼い頃から教育することで、強力な手駒とする。直の言う通りそれなりにあることだが、水月ほど成長し、価値観等も凝り固まっているとそうはいかない。

 殺せというならともかく、攫えというのは、やはり不可解だ。

「う~ん、よく分からないね」

「おまえ、何か知ってんの?」 

「今分からないって言ったばっかりだけど」

「おまえ、俺がそれを信用すると思ってるの?」

「信用して、くれないの……?」

 目の端に涙を浮かべ、声を震わせながら問うてくる。

 大抵の人間はそれで篭絡できるだろうことは想像に難くないが、藍が誤魔化されることはもうない(過去にはあった)。

 声・表情・そして上目遣いの角度・さらには魔法に依る演出まで加えて、()()を作り上げてくるのだから、藍の疑念はより深まる。

 もはや誤魔化す気があるのか怪しい態度であるが、どうも言う気はないらしい。

「はあ、もういい」











 後日のことである。

「あ、らん君おはよう!」

 さすがに翌日は二人とも学校を休んだが、その翌日――すなわち今日には登校したようである。

「おう、今日は来たんだな」

「へへへ、わたしが登校しないと、らん君が一人になっちゃうからね!」

「衛がいるから、心配には及ばないぞ」

「クラスメイトを挙げて欲しかったんだよ!」

 それはそれとして、

「水月はまだだな」

「みつきちゃんも、今日は来るって言ってたよ。メガネなくしてなかったら昨日も来るつもりだったみたいだし」

「え? あいつそんな理由で休んでたの?」

 本人がそう言っていたのだ。茉莉に言われても困る。


「おはようございます」

 噂をすれば影が差す。水月が登校した。

「みつきちゃん、おはよ――、ダレ?」

「? 水月ですよ?」

 水月からすれば、確かに訳が分からないだろう。名前を呼ばれ、挨拶もほぼほぼ終わっていたのだ。そこで誰何すいかを問われるのは確かに不自然である。

 しかし茉莉にも言い分があるのだ。

「メガネは?」

 そう、彼女はそれで昨日学校を休んだのだ。

「はい、そのつもりだったのですが、店員さんにコンタクトレンズを強く勧められまして」

 押し切られたという。

 なるほど、それはいい。

「髪は?」

「はい。コンタクトに変えたのは良かったのですが、目に入るのが鬱陶しくて……。髪を切ってもらおうとしたら、美容師さんにバッサリと」

「あ、うん。正解だったんじゃないかな?」

 もちろん、メガネ屋の店員さんと美容師さんの判断が。

 メガネを止め、髪を整えた水月は、美人だった。おそらく十人が十人認めるだろう。

「はあ、今日は何故か、いろいろな人に見られているのですが、どうしたんでしょう?」

 確かに水月を見る男子は、普段よりも多い。

 そのうちの何人かは藍へ恨みがましい視線を向けるが、藍は特に気にしていない。




「今頃高校デビューとか、遅えよ」

「あなたは最低です!」




 もうすでにバレてるでしょうが広げた風呂敷のたたみ方が、よく分からないんですよね……。


 それはそれとしてここまでお付き合い、ありがとうございました。

 やたら細かく区切られていたために時間がかかりましたが1章終了です。


 次回は1.5章です。はいごめんなさい。2章ではないです。

 もともと2章の予定だったんですけどね? 内容的にもボリューム的にも「ぽくないな」ということで1.5章としました。

 今回の反省を活かして、1話にまとめて投稿しようかと。

 そのためしばらく時間をいただきます。気長にお待ちいただければ幸いです。

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