年齢は誤魔化してないさ
衛が茉莉の下へ向かっていた、一方そのころ。
藍もまた、建物の中を進んでいた。
既に息は整っている。が、蓄積した疲労が抜けた訳ではない。少し動けば、それだけですぐに息は上がるだろう。
「まあ、どうにでもなるだろう」
ここまでの道のりで、特に誰とも会ったりはしていない。
というよりも、こちら側の建物には水月ともう一人しかいない。
そしてそのもう一人というのも、知っている者だ。
なんと言ったか? 確か彼の名は――
「――大谷吉彦」
「来たのか、思ったより早いな」
待ち構えていた。
藍が吉彦を認識していたように、吉彦も藍を認識していたのだ。
「まさか、そんな奴だったとは……」
「君が僕の何を知っているのさ」
部室で一度話したことがあるだけだ。
「この状況で冗談が言えるとは、なかなか余裕だね」
「そうでもないさ」
何しろ疲労困憊である。
それはそれとして、仕事はしなくてはならない。
「水月は無事か? ここにいるのは分かってる」
「彼女ならそこで寝てるよ」
吉彦の視線を辿れば、水月が壁にもたれて眠っていた。
「お前、水月に何した?」
「やめてくれ、誤解だ。ただの居眠りだよ。……なかなか肝が据わってるよね」
険を向ける藍に、勘違いされてはたまらないと否定する。
「聞くところによると、攫われるのは4回目らしいぜ」
「……この子、何者?」
「おまえも知らないのかよ」
「僕はただ魔法力の高い子を連れて来るように言われただけで、彼女である必要はなかったんだ」
「なるほどな。……おい! 水月、起きろ! こんなところで寝てるんじゃねぇ!」
「――藍君? ――っ!? なんでこんなところ来てるんですか? 警察呼んでくださいよ、警察!」
何しろ警察に対処できない事態と見られたから学園が対処することになったのだ。水月と茉莉、学園の底辺とはいえ、『世界』全体で見ればトップクラスの魔法師である。起き抜けにこれだけ話せるのだから、どうやら寝起きはいい様だが、藍には腹立たしくてならない。
「……このまま帰ってやろうか?」
だから藍の怒りは正当なものである。決して藍が短気という訳ではない。決して。
「君達、ふざける場所と状況は考えなよ……」
「元凶のお前が言うんじゃねぇ!」
口など挟まず強襲すればいいのだ。
ともかく。
「いい加減話を進めよう。生徒会の依頼により、水月を連れ戻しに来た。一応勧告してやろう。おとなしくしろ、そうすれば罪は軽くて済む」
「それはもう手遅れだから止めておくよ」
「お前その年で何したんだよ。……年齢誤魔化してないよな?」
「ノーコメント、としてもいいけど、大して支障ないから答えるよ。年齢は誤魔化してないさ」
「年齢なんてどうでもいいから、何したか言えよ」
「君が聞いたんじゃないか」
「悪かったな! ……お互い御託はもういいだろう、どうせ平行線だ」
[槍]を構える。
「その通り」
<魔装>“硬化”
吉彦もまた答える。吉彦は手足の魔力を“硬化”した。
「水月、下がっておけ」
そして、互いに扱うのは同じ魔法。
<身体操作>“移動”
“切断”
藍の[槍]により繰り出された斬撃を、吉彦は手甲で受け止めた。
“切断”術式を使用してなお、吉彦の肉体には届かない。
どうにも簡単に行く相手ではないらしい。
そして何度か打ち合って、吉彦は気づく。
「君、やらた息が上がってないか?」
「丁度いいハンデだ、気にするな」




