伍堂衛(ごどうまもる)
「ゼェ、ゼェ、カハッ」
「……藍、いくらなんだってこんなところで無理し過ぎじゃない? しかも大体無駄だし」
「うるせぇ!」
「大方、僕と張り合おうとしてたんでしょ? 自分で言うのもなんだけど無理でしょ、それは」
何しろ光速が出せるのだ。多少のハンデでは勝負にもならない。
「うるせぇ! ……何、やってるんだ?」
「今、直にメッセージ送ってるから、それまで休んでなよ」
「『魔界』って、電波、届くのか?」
そもそも美愛子達が連絡しなかった理由である。忙しい、などの理由ではなく、そもそも手段がないのだ。
「普通は届かないけど、直だし」
「それもそうだな、……ここか?」
「うん、そう」
手元をいじりながら適当な返事を返しておく。
「フリック入力って苦手なんだよね」
「意図しない入力が多いよな」
などと無駄な会話を続けることしばし。
「これでよし、っと」
衛が直へのメッセージを送り終え、通信端末をしまう。
「で? どうしようか? 黒なのは間違えなさそうだけど」
「2人とも別の所にいるし、二手に分かれるのが無難だろう」
『情報世界』にアクセスして二人の居場所を確認した藍が提案する。
「そうだね。じゃあ僕は右側――花岡さんの方に行くよ。藍は弓削さんの方をよろしく」
「おう」
伍堂衛が右側――つまり茉莉の方を選んだ理由は単純である。
敵の人数が多いから。
万全ならばともかく、今の藍では無理ではなくとも、きついだろう。
藍は広域殲滅魔法というのを持たない。である以上人数が多ければ単純に魔法の発動回数が増えるのだ。
もっとも殲滅魔法を持たないのは衛もであるのだが、そこは疲労の有無の差がある。
先ほど聞き出した美愛子の番号に電話をかけ、突入する旨を伝える。もちろん止められたが、藍が既に突撃したことをいいことに、一方的に告げて電話を切る。
決して意図していた訳ではない。予想通りの展開ではあるが、決して藍を唆した訳ではないのだからセーフだろう。唆すまでもなかったとも言う。
衛は落ち着いて行動していた。
「『我が身に宿れ『光』の力、この身は『光』である。【光ノ伍番――瞬】』」
<状態変化>『光』
半実体化状態を維持して歩みを進める。
衛の適正であれば省略も可能だが、余裕があるなら完全詠唱に越したことはない。
情報世界から敵の正確な人数や位置を割り出す。
道に迷うこともない。
敵の屯する大部屋の前を素通りして、付近の小部屋へと向かう。
目的は茉莉の奪還。その小部屋に茉莉がいるのだ。無理に戦う必要はない。
「【瞬】」
部屋の前に立つ見張りを<身体強化>して蹴り倒す。
銃器による武装をしていたが、文字通りの光速で移動可能な衛からすれば、取るに足らない。
男が守っていた扉は特に鍵などかかっておらず、あっさり開いた。
「やあ、助けに来たよ」
「ま、まもる君! なんかピカピカしてる!」
「うん、元気そうで何よりだ」
「『封魔石』の手錠か。大人しく鍵を探すのが賢明かな?」
「これ、やっぱり簡単には取れないよね……」
「直や藍、レイスなら簡単に壊せるんだけど、僕には厳しいな」
「壊せるんだ……」
「『封魔石』だって、魔法のルールから逸脱するものじゃないからね」
「?」
ともかく。
「一度手首を切って繋げるのなら、すぐにできるよ」
『神聖術』を使える衛にとって、それが一番早くて簡単な方法だ。付けるのが嫌なら新しく生やすのもありだ。手を新調する機会など、魔法師と言えどもそうそうない。この機会にどうかと衛は勧める。
「鍵で! 鍵を探す方向でお願いします!」
「まあ、すぐそこの大部屋を探してみるよ。どっちでも構わないけど、ここで待ってる? それとも一緒に行くかい?」
「つ、ついていきます」
一人では心細い。
ここまで来ても、敵に慌てる様子はない。いまだにこちらに気づいていないということは、どうやら敵に魔法師はいないと見ていいだろう。いたとしても『情報世界』にアクセスできなかったり、定期的にアクセスするような習慣のない小物のみ。
<身体強化>
衛は先ほど通り過ぎた大部屋にたどり着くと共に、徐に扉を蹴り抜く。
「『光よ集え――」
操作系統魔法。『光』を“収束”。暗転する。
前触れもなく吹き飛んだ扉。続けざまに奪われた視界。
中に居た者達の混乱は想像に難くない。
「『【光ノ弐番――旱】』」
衛が矢を番えるようして立てた指先から、閃光が迸る。
そのまま一閃。
運よく物陰に隠れた者、どうにか身を伏せた者を除く過半数が薙ぎ払われた。
「…………」
実に容赦がない。絶句した。
これで攻撃は本職でないとか嘘だ。茉莉は確信する。
「いやー、日没前で助かったよ。思ったよりも残ってるけど、丁度陽も沈んだし、後は地道に頑張るかな」
「な、なんだお前は!?」
「じ、銃だ! 撃てー――グハッ」
完全詠唱で<状態変化>を使った衛は、半実体化状態から無詠唱で『光』になれる。
正しく光の速さで敵の懐に潜り込み、半実体化して<身体強化>の掌を打ち込む。あるいは蹴りを、あるいは肘を。2度3度と繰り返す。
近くの敵、などと言わず、光速の機動力を贅沢に、銃をこちらに向けた相手から。
「クソッ! 足さえ止めれば!」
しかし、そこからさらに2度も同じことを行えば、敵も対応を変えるというもの。
衛自身は止められない。
ならば――
「女だ! そっちの小娘を狙え!」
一斉に茉莉へと向けられた銃口。
直後に瞬く発火炎。
魔法を封じられた茉莉には反応することすら許されない。安易について来たことを後悔した。
衝撃に備えて目を瞑る茉莉。
轟いた銃声に反して、しかし来るべき衝撃は来なかった。
「そんなに身構えないでよ。言ったでしょ。付いて来ようが来まいが関係ない、って」
両腕に構えられた一対の【盾】。
その光輝く魔力の大盾で、衛が銃弾を防いだのだ。
「柄じゃない、って自分でも思うけど『そう在れ』と名付けられたんだ。どうにかするさ」
それこそが彼の誇る矛盾の【盾】。ありとあらゆるものを阻む『最強』の【盾】である。
「まもるく――」
「バ、バカな!」
ありがとう。と礼を告げようとした茉莉の言葉を、敵の声が遮った。
敵の動揺は、茉莉が思うよりも遥かに大きい。
銃弾を魔法で防ぐ。確かに困難であるし、出来る者も限られる。だがそれは魔法さえ使えれば茉莉にもできることであるし、その程度には容易である。そもそも魔法師として重用される基準の一つでもあるのだから、本来ならそこまで驚くべきことではない。
―――そう、本来なら。
すなわち例外がある。茉莉の手錠は『封魔石』でできていた。ならばその可能性は容易く考えられる。
「『封魔石』の弾丸だぞ!」
魔法を封じる『封魔石』の弾丸。これに触れた魔法は打ち消されるのが普通であり、よって魔法では防げない、というのがのが定説だ。
「だから?」
継続して放たれる銃弾を防ぎながら、その一言で断絶する。
本来の担い手であるならともかく、あるいは正当な簒奪者であるならばともかくだ。
ここにいるのは、それが何とも知らない、有象無象。ただの残骸を振るう、愚か者共だ。
文字通りに格が違う。そんなもので、彼の【盾】は砕けない。奪えない。
やがて銃弾が尽き、攻撃が止む。
「そろそろいいかな。――【瞬】」
Q:『封魔石』とは何でしょう? また魔法を封じる原理は?
やや虫食いもありますが、大体の設定は既に出てるので、たどり着けないこともないと思います。
よくあるアイテムですけど、それが何かって、中々書かれていないですよね。
気が向いたら考えてみてください。




