3回巻き込まれているらしい
前半は最後の三行だけ読めばいい。読み流してくれ。
聖条魔法学園 生徒会役員の仕事は極めて多岐に渡る。
それはもう、教師の手伝いに始まり、生徒間のトラブルへの対応、各種イベントの催しと準備はもちろんのこと。生徒が関わる事件の対処まで必要になる。
学生でありながら、何故刑事事件の対応を求められるのかと言えば、もちろん理由はある。別に警察組織の真似事をしている訳ではないし、そもそもこの社会に警察組織が存在しないという落ちもない。
警察組織の人材が足りないからだと言えば、確かに存在しないのと似たようなものかもしれないが、これには止むを得ない事情がある。
聖条魔法学園の生徒は優秀だ。
それはもう「この上なく」と言っても過言ではない。
毎年全国各地から集まった同期のうち、上位200人、ある程度他校に分散するとしてもせいぜいが500人程度の上澄みである。母数が何十万であるのだから、その優秀さも分かろう。
これが勉強の順位であれば何も問題ない。通常の身体能力テストでもどうにかなった。しかし魔法である。
5トン10トンの重量を動かし、音速の弾丸をばら撒く魔法師――その卵である。
一般人がいくら鍛えたところで、簡易な武装で身を固めたところで、干渉することは不可能だ。
銃弾も牽制程度にはなるだろうが、それで解決できる問題がどれだけあるかと言えば、ほんの一握りの少数だろう。
つまり、聖条魔法学園の生徒が関わる事件というのは、一般の警察には対処できないのだ。
もちろん、警察の中にも魔法師はいるし、中には聖条魔法学園のOBOGもいる。
だが、彼らは一般の警察という枠組みには入らない。皆それぞれに任務を与えられていて、対応させるには時間が必要になってしまうのである。
しかしそんな悠長なことを許さないのが事件である。
なんならその隙をついて慣行されるのが事件なのだ。
そう都合よく対応できる筈もない。
ところが前述の通り、魔法師の数は圧倒的に足りていない――と、そこで思い至ったのだ。手の空いた優秀な魔法師がいるではないかと。
そう、聖条魔法学園の生徒である。仮に生徒Aが対応しきれなかったとしても、より成績の優秀な生徒Bならば、あるいは2人ならば、対応の幅はずっと広がる。一般の警察が対応するのに必要な人員の数、それによる被害を考慮するなら、学生と言えども頼らない手はなかった。
よって聖条魔法学園を初めとする一部の魔法学校には、刑事事件への介入が許可されているのである。
とはいえその都度生徒の選定を行うとなると非常に手間――もとい、迅速性に欠ける。
ならば予め優秀な生徒を集めておけばいい、となるのも自然の流れであろう。
そこで白羽の矢が立ったのが生徒会である。元より優秀でまじめな生徒が集まり易い性質があるのだから、利用しない手はない。
要するに、聖条魔法学園の生徒には刑事事件への介入が許されている。
基本的には生徒会役員が対応を行うが、現在は不在。
普段から行動を共にしている藍達に話が回ってきたのだ。
丈の連絡を受けて藍が向かったのは学校である。
するとそこで衛と合流した。
「衛も来たのか」
「うん、呼ばれた以上はね」
それよりも衛には気になることがあった。
「想像通りと言えば想像通りだけど、バテバテじゃない?」
何しろ散々父親に扱かれていたのだ。万全である筈がなかった。
想像通り、というのは日課であるから。今回は特にハードではあったのだが、いつも通りといえばいつも通り、誤差の範囲なのだ。
「うるせぇ」
それに――
「いざとなればどうにでもなる」
「ま、そのための左手だろうしね……」
「生徒会室に来いって言ってたよな?」
「僕もそう聞いてるよ」
昇降口に相当する(靴の履き替えはない)場所で鉢合わせた2人は、そのまま生徒会室に向かう。
「なんだかんだ初めて行くがどっちだ?」
「藍は初めてだったね。一番上だよ」
「何とかは高いところが好きってことなのかねぇ?」
「ははは、聞くところによると、デメリットしかないから移動申請してるのに、何故か通らないんだって」
最上階には実験室や資料室が集まっている。ちなみに職員室は1階。学園長室もその隣。部室は別校舎。生徒が集まるような場所はない。
「意味ねぇじゃねえか?」
「だから何故かって話になるんでしょう?」
そんな雑談を交わしながら目的地に到着する。
中にいたのは、教師2人と生徒1人の合わせて3人。
一人は雪村明日香。1年Aクラスの担任でもある彼女は、生徒会の顧問でもあるらしい。
そして南条丈。藍に連絡を入れた張本人だ。いなくては困る。
そしてもう一人。
「初めまして、生徒会会計、3年の一条 美愛子です。伍堂さんと久賀さんでよろしいですか?」
「はい、初めまして。伍堂です」
「久賀です」
名前だけは聞いていたのだろう。二人も自己紹介は簡単に済ませた。
「全員が揃ったところでまずは意思確認を。弓削さんと花岡さんが連れ去られてしまった可能性があるという今回の件について、お二人も生徒会にご協力いただけるということでよろしいですね?」
「「はい」」
「と言っても、今回だけですけどね」
返事の後に付け加えたのは衛である。
「深谷君がごめんなさいね」
それに対して美愛子が謝罪する。
直とレイスが生徒会に入った際のひと悶着と関係があるのだろう。
「それを知っているなら、逆に手伝うのはいいんですか?」
「ええ、私としては戦闘能力が必須だとは思っていませんから」
事実私も戦闘は苦手ですからね。と付け足した。彼女がこちらに残っているのもそれが理由だとか。
「それにあの二人を見ていれば分かります。我妻さんはともかく、レイスさんも、あなたの言葉に耳を傾ける程度には、あなたの力を認めてるんですよね? ならば私から言うことはただ一つ、お力を貸していただけるなら大変ありがたい、と言うことだけです」
「さすが生徒会のナンバー2。話が分かる」
「あらあら、深谷君は本当にもったいないことをしましたね。……来年一体どうするんでしょう」
そこまで言ったところで「これは私の考えることではありませんね」と話を戻す。
閑話休題。
「そもそも、どうして誘拐されたと分かったんですか?」
疑問を口にしたのは藍である。二人が今日遊びに行っていたとは聞いているが、まだ夕方、いくら何でも早すぎる。
それに答えたのは丈である。
「弓削の母親から連絡があったんだ。娘が変なところにいるって」
「……いや、確かに港は変なところだが」
漁港ならばまだともかく、この付近にあるのは貿易港である。確かに用事があるとは思えないが、それだけで誘拐に結び付けるには早計だろう。
「言いたいことは分かる。……あいつ、なんでもこれまで誘拐事件に3回巻き込まれているらしい」
「え? なんで?」
実家が金持ちとかそういう話は聞いていない。
「そこまでは知らん」
本当に知らないのか、それとも個人情報の開示を避けたかったのか、藍には判断がつかない。
思わず口に出た疑問ではあるものの、重要なことではない。話を進めてもらう。
「ともかく、そんな訳で普段からGPS持ってたり、出かけるときは誰とどこに、って連絡は徹底してるらしい。そこまで聞くと、学校としても一緒にいる花岡に確認位はしない訳にもいかなくてな」
「それで茉莉――花岡の方にも連絡したが、連絡がつかないと?」
「大体そんなとこだ」
「そこで、この一件は生徒会案件としました」
背景的な話が終わったところで、明日香が引き継いだ。
「まず第一の目的が、状況の確認。潜入程度なら場合によりどうにでもなりますが、弓削さんと花岡さんが事件に巻き込まれているという確証がない以上、特に戦闘は絶対に回避してください」
「勘違いでは済みませんしね。当然でしょう」
衛が納得を示すと明日香が一つ頷き次の目的を告げる。
「次が弓削さんと花岡さんの奪還です。事件性の確認ができてからの話になりますが、今回の任務の達成条件はこちらです」
「犯人は抑えなくていいんですか?」
「学園にそこまでの責任はありません。言い忘れましたが、前提としてあなた達二人の安全が第一です。警戒が厳重で突破できない、敵に強力な魔法師が現れたというような場合、目的の1も2も捨てて退避してください。特にペナルティなどもありません」
「なるほど」
藍が明日香の回答に興味なさげに答える。言葉とは裏腹な口調が、彼がその選択肢を考慮していないことをうかがわせる。
「こちらからの説明は以上だ。何か質問は?」
「弓削のGPSの正確な場所は?」
丈はそれを指摘したりせず、話を打ち切る。
「それはこれからの作戦会議で説明する」
「必要ない。大体正確な状況が分かってないんだ。そもそも作戦の立てようもないし、状況の確認も急いだ方がいいだろう」
「それは、そうだが……」
「衛と俺が先行、状況を確認して場合によっては突入。あんた達は後から来ればいい。別について来れるなら同行しても構わないが、俺だって港までなら5分もかからないぞ?」
「分かった。一条、場所を――」
[槍]を組み上げ、石突を地面に叩きつけると、藍がそのまま[槍]の柄に飛び乗った。槍一本で体を支える曲芸じみた挙動だが、その様子を見ている衛には驚きがない。
「衛、先に出るぞ」
「行ってらっしゃい」
「先に行ってろよ」
『風魔法』・<飛翔>“加速”
『風』の属性魔法で真空を生み出し、風の抵抗をなくした状態で宙を飛び“加速”する。
単純ではあるが精度が高い。優に音速を超えて、視界から消えていく。
一見すると[槍]は必要ないと思われるが、あれは超が付く高等な魔道具だ。ランクとしては『禁書』に分類されるほどである。穂先から“切断”“温度変換”“術式伝達”“魔力制御”の術式を持っている。“切断”の術式はさすがに不要だが、それ以外の術式補助があるとないでは大違いなのだ。
「速い!」
「言うだけのことはありますわね」
驚きは明日香、納得を示したのは美愛子だ。ちなみに衛の感想は、
―――飛ばし過ぎじゃない?
であったが、それはともかく。
「そういえば、生徒会――『魔界』に行ってる人達には連絡したんですか?」
「? いいえ、手段もないですし、連絡したところで対応もできませんから、しておりません」
「そうですか」
「?」
終始疑問符を浮かべていた美愛子に、衛は一人で納得したとばかりに頷いていた。
「連絡と言えば連絡先を聞いてもいいですか? 向こうに着いてから報告も必要ですし」
「あ、それもそうですね」
当たり前のように連絡先を聞き出す。美愛子が番号を伝え、衛がワン切りする。
「生徒会に用事があるときはここに掛ければいいんですね」
「……いえ、私の個人的な番号なので、あまり多用されると困ります」
手元にそれしかなかったのだ。生徒会の備品ではなく、プライベートの番号を教えたのも、やむを得ない。
「副会長のこともあるので、僕としてはむしろ都合がいいですけどね」
いろいろと失敗だったと美愛子は悟る。
「ところで、あなたはそんなにのんびりしていても大丈夫なのですか?」
「いいえ、急いではいけないからのんびりしていたんですよ」
「?」
疑問を尋ねれば尋ねるほど疑問が増えるというのもなかなかおかしな状況である。
「でもそろそろ行った方がいいかもしれませんね? さて、たまには僕も手の内を明かすとしましょうか。
『我が身に宿れ『光』の力、この身は『光』である。【光ノ伍番――瞬】』」
「<状態変化>!?」
「それも『光属性』!」
「それでは、お先に失礼します」
一礼と共に閃光が迸り衛が消える。
「手の内を明かす」と言いつつ完全詠唱しているあたり嘘である。
<状態変化>の詳しい説明はまた別の機会にする予定ですが、大体想像通りだと思います。




