『約束』
「『約束』したら、ちゃんと守らないとダメなのよ!」
彼にそう言ったのは誰だったか?
いや、覚えている。母親である久我蒼奈だ。
しかし、本人がそれを律義に守っていたかというとそうでもない。
約束の時間に遅れたなどと細かなことを言い出したら、両の指ではとても足りない。
それでも「『約束』ね」と彼女が言ったときは、必ず守っていた。気がする。正直覚えていない。
それでもそんな話をされていたからだからだろうか?
自分が『約束』を守るようになったのは。
今となってはそれで良かったと思っているが、たまに「何故?」と思うときがある。
『約束』は『契約』だ。
「――――」
声がした。
「――ちゃん」
誰かの呼ぶ声。
「お兄ちゃん!」
否、自らを「兄」と呼ぶ者など、この世に一人しかいない。
目を覚ます。
「……青葉、か」
「うん、おはよう。学校から電話。なんか用が急ぎみたいだから、持ってきたよ」
「ああ、悪いな」
礼を言いつつ受け取り、保留を解除する。
「もしもし」
「久賀か? よかった、ちょっと確認したいことがある」
早急に話を進めようとする声の主は南条丈である。
「あんたか、久賀家の電話で取り次いだんだから、久賀以外の人間が出る訳ないだろう?」
「お前それ、俺がお前の名前を呼ぶことになるけどいいのか? ちなみに俺は呼びたくねえ」
「…………」
条件反射で反発する藍だが、難なく丈に言い包められる。まだまだ甘い。ちなみに丈の最後の一言は、教師として明らかに余計である。
ともかく。
「おまえ、弓削と花岡が今どうしてるか知ってるか?」
「……何の話だ?」
「いいから答えろ」
口答えしたものの、返る丈の真剣な声音に素直に答えた。
「二人で遊びに行くみたいな話は聞いた。買い物って言ってたから、駅の辺りをうろついてるんじゃないか?」
「だよな」
それがどうしたというのか?
「港の近くにいるらしい」
「は?」
藍が問いただすよりも先に、丈が次の言葉告げた。
意味が分からない。
「弓削と花岡――正確に分かってるのは弓削だけなんだが、どうも港にいるらしい」
「なんでそんなとこに? あんなところ、港の職員か後ろ暗い『組織』の連中しか用なんてないだろう?」
港の職員というのには港近くの工場の職員なども含まれるのだが、それはどちらでもいいだろう。
ともかく人気がなくコンビニすらないのだから、付近で働いてる人間か、あるいは人目を避けなければならない後ろ暗い者しかいない筈である。
「実際その後ろ暗い連中に攫われた可能性がある。……まあ、連絡がつかないってだけなんだが」
「どういう状況なんだ?」
「詳しい話は学校でする。手伝う気があるなら来い。ただの興味本位なら話はここまでだ」
丈としては確認したかったことはすでに済んでいるのだ。これ以上無駄な時間を取ることはできない。
「分かった。30分位でそっちに着く」
「了解。大抵のものはこっちで用意するが、魔導具だけは持ってこいよ」




