この4歳児は天才ですか?
セラとランの温かい視線をヒシヒシと感じながらも、なんとかユーラ様への手紙を書き上げた私は気持ちを落ち着かせる為に散歩に行くことにした。
アルラリア家の庭はお母様の好きな薔薇が沢山植わっている。薔薇にも色々種類があるが私が特に好きなのはこの青い薔薇だ。「ミヨゾティ」という名前らしい。私の瞳の色に似ているとお兄様が褒めてくださったことがあるのだ。
綺麗な薔薇を眺めながら歩いていると、家の方からランの声が聞こえてきた。
「お嬢様、リオン様が客間にお呼びです」
「お兄様が?分かった、すぐ行くわ」
そう言って客間に向かう。客間ということは誰かお客様が来ているのだろう。お兄様にお客様が来ることはたまにあるが私が呼ばれたのは初めてだ。少し緊張する。深呼吸をしてから扉をノックする。
「失礼します」
そう言って扉を開ける。
お兄様は客間のソファに腰掛けていて、向かい側にはお兄様と同じくらいの背丈の男の人と、小さな少女が腰掛けていた。
「お呼びでしょうか、お兄様」
「あぁ、こちらは僕の友人のカイル・ライアス。隣の子がカイルの妹のアイラ・ライアスだ」
お兄様がそう言うとカイル様とアイラ様は立ち上がって私の方を向いた。
「初めまして、リオンの友人のカイル・ライアスだ。妹共々よろしく頼む」
「は、初めまして。アイラ・ライアスと言います。よろしくおねがいします」
カイル様は堂々とアイラ様は緊張したようにそう言った。
「初めまして。リリー・アルラリアと申します。よろしくお願いいたします」
私も2人に頭を下げる。
「アイラ嬢はリリーと年が同じらしいから話し相手になってやってくれないか?年の離れた男2人とじゃ話が弾まないだろう」
そういうことか。たしかにお兄様とカイル様の会話に4歳の女の子が混ざるのは難しいだろう。それに同年代の友達を作るチャンスだ。話し相手がメイドと家族だけの私がアイラ様と友達になれるかどうかは分からないが、まぁなんとか頑張ろう。
「はい。ではアイラ様お庭に行きませんか?うちの庭は薔薇が自慢ですの」
「で、では、是非……」
アイラ様はまだ緊張しているらしいが取り敢えず庭の東屋に移動する。
「アイラ様はお好きなものはありますか?」
「えっと、本を読むことと、考えごとをするのが好きです」
きた!本好き!
仲良くなれる可能性が途端に高くなった。私は前世でも本好きだったが、前世の記憶を取り戻す前から本が好きでお父様の書斎や図書室に入り浸っていたのだ。前世の記憶を取り戻してからは難しい本も読めるようになって楽しみが増えた。
「考えごととはどんなことを考えますの?」
好きなことが考えごととは初めて聞いた。私も本の内容や疑問に思ったことについてじっくり考えるタイプだか考えごと自体が好きなわけではない。
「いろいろなことです。例えば、昨日は世界がどうやって出来ているのか考えていました。他にも神様がこの世界をなぜ作ったのか、とか」
…………私はまたもや4歳児に頭脳で負けたようだ。
ふふふ、しかし!
前世の私はとても頭が良かったのだ!
なぜならテストで良い点を取らないとゲームができなかったから。なのでアイラ様の考えも理解できる。大学のオタ友が哲学が好きで似たようなことを言っていたのだ。
「アイラ様はどう思いますの?」
「私は神様は優しいと思います。だってこんなに綺麗な世界をつくってくれたんですもの。この世界には沢山の美しいものがあります。例えばこのお庭に咲いている薔薇や、薔薇によって来る蝶達。綺麗な青色の空にキラキラと光る海。これらは全て神様によってつくられたのですから」
私が聞くとアイラ様は堰を切ったように語り出した。スイッチが入ると饒舌になるらしい。ただ少し詰めが甘いのは4歳児だから仕方ないだろう。黙っている私を見て引いていると思ったのかアイラ様が凄い勢いで謝りだした。どうやらスイッチが切れたようだ。
「ご、ごめんなさいっ‼︎いきなりこんな話されても困りますよね……」
「いえ、とても興味深いお話でした。……ただ、私は神様を優しいとは思いません。」
アイラ様はジッと私を見つめている。自分と違う意見を聞いてみたいと思ったのだろうか。
「だって神様が本当に優しいのならこの世に貧富の差や戦争なんてないはずでしょう?この綺麗な薔薇は人の手で改良されて色鮮やかで美しくなり、蝶は自らの為に進化して美しくなったにすぎません。空が青く見えるのにも理由はあるし海がキラキラしているのも太陽の光を反射しているからです。この世の全ての事象には理由があり、原因があります。人々は皆自分たちの理解の及ばない物事を神様によるものだと考えているだけなのですよ」
そう言って紅茶を一口飲む。アイラ様を見ると呆気にとられた顔をしていた。少し喋りすぎただろうか。というか私、今生で海見たことなかった。
あっ!もしかしてこの世界にはこう言った考え方は神様への冒涜になってしまうのだろうか⁈
どうしよう、と内心頭を抱えているとアイラ様が急に立ち上がった。
「……っ素晴らしいですわっ!リリー様の理論は素晴らしいです!あぁどうしましょう。こんな素敵な方に出会ってしまうなんて!リリー様、もっと語り合いませんこと⁈」
「えぇっと、とりあえず落ち着きましょうか……。語り合うのは構いませんよ」
私が宥めるように言うとアイラ様も我に返ったのか恥ずかしそうに椅子に腰かけた。
「取り乱して申し訳ありません……あのリリー様は先程空が青いのには理由があると仰いましたがその理由を教えていただけますか?」
しまった。この世界ではプリズムで太陽光が何色かに分けられるということが発見されてないのかもしれない。プリズムを使って「太陽の白い光は全ての色が混ざったもの」というの見つけたのは17世紀。今のこの国の文化と17世紀のヨーロッパの文化を照らし合わせると…………分からん!もういいや、分かんないし。
「……これはあくまでも私の考えなのですが太陽の白い光には全ての色が混ざっています。空の青色は太陽の光の中の青色が見えているだけなのだと思います。だから夕方になれば太陽の中の赤い色が見えて空が赤くなるのだと思います」
「……なぜ太陽の光の中に全ての色が混ざっていると言えるのですか?」
「アイラ様は虹を見たことがありますか?」
「ええ」
「虹には沢山の色が混ざっているでしょう?だからです」
アイラ様は私が答えるごとに目をキラキラさせて質問して来る。可愛いなぁほんとに。
「あの、でしたら海の色が青く見えるのも同じ理由なのでしょうか?海の水は青く見えるのにすくってみると透明なので」
……えっ?この子天才じゃない?普通そこまで気づくか?
「え、ええ。同じ理由だと思いますよ。私は海を見たことがないので分かりませんが」
なんとかそう答える。やっぱり私はまた4歳児に頭脳で負けたようだ。
神様!この世界の4歳児凄すぎませんか⁈
また負けました…………。




