吸血鬼の末路
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フェルドの手元に、黒い魔力が集中し始める。
やがてそれは形を取り、剣となった。
「この程度で死んでくれるなよ、小僧」
自らの魔力で形成した剣を構え、フェルドは口角を吊り上げる。
その禍々しい魔力は恐ろし気な威圧を颯斗に与え、剣自体が持つ危険性を十分に知らしめる事になる。
吸血鬼フェルドの本領は巧みな魔力操作よりも、剣の方にある。
永い時を生きる中で研鑽を積んだその剣技は、実際に名だたる剣士を葬ってきた経験があった。
フェルドは颯斗の答えを待たず、地面に砂埃を残すだけの静けさで瞬く間に颯斗に迫り、無防備に見える颯斗の右腕に向かって刃を振り下ろした。
その速度は颯斗が知る誰よりも疾く、そして鋭い一撃だ。
ほんの一瞬、反応が遅れた颯斗だが、フェルドの剣は宙を斬るだけに留まる。
だがそれだけに留まらず、剣を避けた颯斗の後方より黒い槍が颯斗の頬を掠める。
「つっ」
頬にわずかに走る鋭い痛みは、颯斗に懐かしさすら与えた。
颯斗の頬に、一筋の赤い線が走る。
ここにきて――この世界に召喚されて初めて、颯斗は傷らしい傷を体につける事になった。
「ほう、そんなかすり傷程度で何を驚いている? よもや自分は不死身だとでも思っていたのか?」
驚きが顔に出ていたのかと、颯斗は口元を手で隠す。
颯斗の身体は、その膨大な魔力によって常に過剰に身体強化されている状態だ。
それでも極力抑えられている状態だが、フェルドの魔力によって魔力に異常をきたしている今、颯斗は自身の魔力を上手く扱えず、普段の状態よりも明らかに衰弱した状態だった。
それがフェルドの魔力の槍が颯斗に傷をつけた理由になる。
先ほどの攻撃も、もし反応が遅れていれば颯斗の右腕は身体から離れていた事だろう。
魔力を攻撃される、というのは颯斗にとって初めての経験であり、そういう意味ではフェルドはこの世界で初めて敵と呼べる存在となった。
「貴方こそ、僕にかすり傷を付けた程度で随分と嬉しそうに見えるけど……まさかこの程度で僕を倒せるとでも思っているのかい?」
「ふんっ、まだそれだけの軽口が言える元気があるか」
颯斗は自身の頬に回復魔法を施し、その傷を癒やす。
神官や巫女だけが使えるとされる回復魔法を颯斗が詠唱なしで使った事にフェルドは驚かなかったが、未だに颯斗が生きている事にフェルドは疑問を感じていた。
フェルドの魔力は、生物に限らずあらゆる魔力に対して効果的な猛毒となる。
あらゆる生物、無機物に宿る魔力を侵すならば、フェルドはあらゆる生物、無機物に対してより優位に立てた。
特に魔法使いや、身体能力を魔力に頼り切った者に対しては、フェルドはほぼ無敵となる。
(ふむ、まぁいい。どうせ次で終わる)
フェルドは、颯斗に毒の回りが遅いのは颯斗の魔力総量が原因だと考え、次の一手で決める事を考える。
殺しさえしなければ、どれだけの深手であろうと吸血鬼に変えるのは叶う。
自らの命が死に向かう最中、フェルドが示すほんの一筋の吸血鬼化という希望を与えれば、颯斗も容易く自身に忠誠を誓うだろうと考えていた。
フェルドは再び颯斗から距離を取り、一撃を決めるべく構える。
そして剣を構えたまま、颯斗に向かって迫る。
先ほどよりも疾く、フェルドの剣が肉を貫いた感触があった。
不敵な笑みを浮かべるフェルドだが、すぐに貫いたはずの剣が身動き一つとれない事に気づく。
「捕まえた」
ゾッとするような、底冷えた颯斗の声にフェルドの全身に悪寒が走る。
見れば、フェルドの剣は颯斗の腹ではなく、その左の手のひらを貫いただけで、颯斗はその事に構わず、貫かれた手でフェルドの剣を掴んでいる。
「ぐっ、貴様っ!」
「まずは一回」
フェルドが咄嗟に剣を手放して逃れようとするより速く、颯斗の右手がフェルドの心臓を貫く。
「ごふっ!」
抜き取られた颯斗の右手には、今も脈を打つフェルドの心臓があった。
颯斗はその心臓を地面に投げ捨て、踏みつぶす。
「き、貴様……っ!」
「さっきまでの威勢はどうしたんだい? あぁ、もしかして、僕が貴方の毒で死なないのが不思議なのかい? それなら簡単な話だよ。貴方の毒を解析して、抵抗しただけさ」
「何っ?! バカな!」
「もう再生したようだね。じゃぁ二回目」
颯斗は間髪入れず、フェルドの頭に向かって拳を振るう。
殴り方も素人でしかないが、その一撃はフェルドの頭部を吹き飛ばすほどの威力があった。
一秒もしないうちにフェルドの頭部は元に戻るが、脳を失ったショックか、その顔に混乱の様子が見て取れた。
「三回目」
「ガッ?!」
颯斗の蹴りがフェルドの胴と下半身を分断させる。
その余波で吹き飛んだ下半身は、洞窟の壁に直撃して肉片と化した。
「四回目」
フェルドの下半身が再生した頃合いで、フェルドが何かを言うより早く、その頭頂部に手を置いた颯斗は力任せにフェルドの身体を上から押しつぶす。
フェルドは血と臓物を地面にぶちまけ、残ったのは剣を握る腕だけだった。
颯斗は手に残ったフェルドの血と内臓を払いながら、フェルドが再生するのを待つ。
「五回目」
フェルドが再生した瞬間を見計らって、颯斗は左手に刺さったままのフェルドの剣を抜き、フェルドの残った腕を外してその剣でフェルドの身体を正中線に沿って縦に分断する。
その切れ味と、剣の速度にフェルドの身体は遅れて二つに別れた。
颯斗は左手の剣で貫かれた傷を回復魔法で癒やし、フェルドが再生するのを待つ。
「六回目」
「――グアアアァァァァアアアアアアアアアア!!」
颯斗が回復したフェルドの身体に触れた瞬間、フェルドの身体が激しく燃え上がり、洞窟中に響く大絶叫がフェルドの口から出る。
数秒でフェルドの身体は灰となり、その後再生した後、今度は氷の槍がフェルドの両目を貫き、脳を貫通してフェルドを殺す。
惨殺、撲殺、絞殺、殴殺、鏖殺、圧殺、溺殺、焼殺、刺殺――。
殺しの見本市のような様々な方法でフェルドは死を重ねていく。
その数が一万を超え、颯斗自身に飽きが来たところでようやくフェルドの死は一時的に止まる事になった。
「ア、アァ、ァ……」
夥しい死を体験し、フェルドはうめき声を漏らすだけになっていた。
周囲は、フェルドの血と肉片で溜まりが出来ている。
周囲に漂う悍ましい悪臭に、その原因である颯斗は顔を顰める。
だが一度颯斗が指を鳴らすと、全ての血と肉片は黒い闇に飲み込まれ、途端に新鮮な空気が流れ込む。
これは錬金術師が使っていた、特殊な転送魔法だ。
「さて、そろそろ十分かな?」
実際の所、颯斗は十分に満足していた。
フェルド自身の結末は呆気ないが、だが彼は一つの可能性を示してくれた。
それは颯斗に大いに傷を与える事の出来る存在の証明だ。
つまりは颯斗と対等な存在の有無を示してくれた。
それが颯斗にとっては、何より重要な事だった。
「たぶんまだ壊れてないよね? じゃぁ言った通り、貴方を貰う事にするよ」
最後と言わんばかりに、颯斗はフェルドの頭に手を置く。
フェルドは、抵抗もせずに虚ろな瞳のまま虚空を見つめていた。
度重なる死と激痛に、一時的にフェルドの精神は砕けてしまっている。
そして颯斗は、フェルドに魔法を施した。
それは獣人たちに使った魔法に、記憶を書き換える魔法だ。
それが終わった頃、八百年を生きた吸血鬼・フェルドの姿はそこにはなく。
ただ偽りの記憶と感情によって突き動かされる吸血鬼の姿しかなかった。
颯斗の笑みは、ますますその陰を濃くしていく。
本人さえも、それには気づかずに……。
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