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幼なじみと俺

2018.11.17 本文、台詞の一部を修正。

 そして結局。

 何があろうと学生の本分は勉強なのであって、そこは変わり様が無い。


 よって、俺と月乃は相変わらず毎日坂を上って学校に向かい、週に二回塾へと通う。

 南町とは、だから週に二回は必ず会うし、一緒に帰ってくる事も多い。

 頭の回転が速くて口が悪くて駄洒落が好きで、双子の妹の親友で、幼馴染み。


 ……もっともアイツが何を考えているかなんて事は、相変わらずわからないのだけど。



 焼き肉から数えて2週間ほど。

 六月もまもなく終わり、梅雨明けにはまだ遠いのだけれど。

 でも、雨が降らなければ。凍えるほど寒いと言うことは無くなった。


 だからといって東北の片田舎の事である。

 暑くなった。と言うほどでも無いわけで、朝夕はやはり肌寒い。

 学校から通達された夏服への移行期間は今週いっぱい。

 俺達兄妹含め、半数以上がまだ上着を着ている。



 塾の帰り。霧雨模様ではあるものの、せっかく朝に持ち上げた髪の毛がしおれて上着の表面に小さな水玉が無数に出来る程度。

 だから今夜は傘をさしていない。


 そして月乃と共に自転車を押して俺の前を歩くのは。百ヶ日中学女子の夏服、色が白になったセーラー服に校章が付いたタイ。

 一足早く衣替えを済ませた南町である。

 とは言え長袖にカーディガンだけど。



「ランさんから貰った薬。あれ、凄いのよ? つっきー」

「まぁ、本人が超不眠症だからねぇ。その割に朝は絶対自分では起きてこないんだけど。もう、どうせ起きてるなら朝ご飯まで寝なきゃ良いのに。って私思うの」

 ……鬼かお前は。


「私も不眠症気味なのかなぁ。なんて思ってたんだけどあの薬飲んで寝ると、朝起きた時、頭がやたらスッキリしててね。勿体ないから一個ずつ一日おきに飲んでるんだけど」


「そうそう、南町に心理学者の人から伝言。――中坊が夜寝んのに薬に頼るようじゃあ未来はくれーぞ。……だそうだぜ」

「変に似てて言葉の意味が入ってこないから、ランさんの真似は辞めて」

 


 別に嫌みとかでは無く、言葉通りにランちゃん本人からの南町への言づてだ。曰く、


 ――眠れねーのは何かのバランスがおかしーんだよ。中学生くらいだったらふつーは何もしねくても眠れるモンなんだからよー、会ったときで良いから基本的には薬に頼らねーように言っとけよ。


 との事だそうで。だからそれはそのまま伝える。



「わかってるわよ。生活のリズムを作るのが大事だってランさんからメール来たし。それにあの薬、あるうちは使って良いって言われたよ?」

「飲むなとは言ってなかったよ、確かに。そういやあの薬、お通じも良くなるって?」

「な、……ば、莫迦ばか! 陽太の、バカー!」


 いつの間に南町のメールアドレスを。言霊使いは情報収集も欠かさないんだな。

 つうか、生活のリズムって……。何時もにーちゃんからランちゃんが言われてることじゃないか。自分が出来ない事を中学生に強いるなよ。



「あぁ、おほん。……そうそう、つっきー。今日、寄ってく?」

「ううん、今日は帰るよ。にーちゃんが残業でランちゃんが家に居るんだ」

「つまり、俺達が夕飯の準備をしないといけない。と言う事」



 時刻は現在二十時十七分。引きこもり博士が本格的にお腹を減らすのは9時くらい。

 店屋物を3人分頼まれる前に料理を初めて、残ってるキャベツを使わないと不味い。

 この季節だし明日は多分もう傷んじゃって使えなくなる。


 だいたい。

 出前を頼むなら良い方で。もしかすると晩ご飯を食べる事自体を忘れる可能性だってある。

 にーちゃんが居ないたんびにそれじゃ、そのうち本当に体を壊す。


 本人も忘れてるきらいがあるけど、先月三十歳になっちゃってるんだし、無茶ばっかりしてて良いはずが無い。

 こっちが気にかけてないとランちゃんの場合、なんかの拍子で簡単に死んじゃいかねないし。

 つくづく手のかかる人だなぁ。



「最初に餌付けしたのはにーちゃんなんだけどね」

「あのね、つっきー。餌付けっていくら何でも……」 



 まぁ。もともと野良猫みたいな人だから、月乃の言う事も間違ってはいないのだけれども。

 でも多分一番最初に餌付けしたのは、そう言う意味では大学生のランちゃんにご飯を作ってた母さんって事になるんだろうな。



「逆に木曜日さ、寄ってっても良い? さっき言ってたマンガ、持ってくるよ」

「うん、良いよ。明後日ね。部屋、片づけておく」

 あれ以上どこを片付ける気だ。机やベッドを捨てる他には、もう片づけようが無いぞ。


「陽太も寄ってくでしょ? またお母さんにお菓子作ってて貰うね」

「あ、……うん」

 幼なじみとは言え、女子の家に行き来してるのは中学生男子としてはどうなんだろう。

 お母さんのお菓子が、捨てがたい魅力なのは事実なんだけど。




 南町の家の門の前で別れた俺達は自宅へと向かう。

 自転車に乗らずに押して歩いてるのはサドルがすっかり濡れてしまっているから。

 どうせ家まで徒歩五分かからない。わざわざ立ち乗りとか、疲れるし。



「なぁ月乃、ところでさ」

「ん? なによ、改まって」


「南町の好きなヤツって誰だか知ってるか? こないだそんな話を急にされたんだけど、有耶無耶になっちゃって結局名前は聞かなかったんだよ。今になって気になってさ」


「チカが自分から陽太に? ……むぅ、意外な。――陽太も気になるんだ、そういうの」

 ――あれ? なんか反応薄いな。もっとがっつり喰い付いてくるかと思ったんだけど。



「ああ言う頭の良いヤツが好きになるのは、どういうタイプなんだろうなって」

「彼女の場合、スゴく分かり易いと思うんだけど。……ホントに気付いてないの? わざとやってない?」


「俺が知ってるヤツって事? わ、すげー気になる。誰だよ、知ってるなら教えろよ」

 ――でも私、直接聞いたわけじゃ無いし。の台詞と共に、……ノー。のゼスチャ。


「私は知らないし、知らないことは教えらんないでしょ。……本人に直接聞いたら?」

『自分で本人に聞きなよ?』


 なんか怒ってるらしいのはわかる。わかるんだけど怒らすような事、なんか言ったか?

 いずれこの時点で自宅の門を通過してこの話はここで終わりになった。



 カギを開けつつ押したインターホンには、東北訛りの女性の声。

「あれ、リビングに居たの? ……ただいま、ランちゃん」

 さて、キャベツ。何に使おうか。




 と言う事で、南町の好きなヤツが誰なのかは結局わからずじまい。

 俺達兄妹以外にも結構能力者はその辺に居そうだ。と言う事はわかったけれど。

 だからといってそれがわかったところで何が変わる訳ではもちろん無く。


 明日もお勉強のために俺と月乃は山を登り、週に二度塾へと通う。

 学生というカテゴリに所属している以上は勉強こそがメインであるからだ。


 最低あと四年とちょっと、俺と月乃は毎朝自転車で坂を登る。お勉強のために。 

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