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翌朝私は朝日が昇り海が輝きだすところをじっと見てから市場へと向かう。住居区画を抜け宿屋の区画を曲がり歩いた先に市場が見える。この国の人々が出す露店も多いがそれに負けず劣らず今日は外からの商人も多い。
賑わう市場の露店を眺めつつ歩く。
目当ては昨日船でやってきた商人たちの露店だ。あんなに一度に船が同じ日にやってくるのは珍しい。どんな品が並んでいるか楽しみだ。
「見てってねー!異国のスパイスが揃ってるよ!」
「珍しい染め物を持ってきたよ!今なら気に入った色のもの選びたい放題!」
「隣国で流行りのアクセサリー!恋人に贈るのが若者の間で流行中の品さ」
商人たちはいかに素晴らしい品であるかを声高々にアピールしている。
色とりどりのガラスが光に照らされて美しいランプも繊細な装飾の施された燭台も煌めく宝石も、どんな味がするのか想像もつかない野菜や果物もある。
ただ歩いているだけで世界を旅しているかのような感覚になってくる。外からの商人、とりわけ船の多い日の市場は楽しい。必要なものがあるわけではないが、必ずしも買う必要もないのだ。私のような客も多いだろう。
賑わう市場が見える広場へ移動しベンチに腰掛ける。今日はお昼を食べ損ねることがないよう屋台で肉を挟んだパンも購入済みだ。
行き交う人々をぼんやり眺める。この国の住人だけでなく旅行者や冒険者もたくさんいた。
手強い魔物や難解なダンジョンがあるわけではないがギルドもあるのだから冒険者の姿があるのだ。戦士ならば掘り出し物の武器が手に入るかもしれないし、魔導士ならば杖やロッドに使う宝石が手に入るかもしれない。装備品の素材を取り扱う店もあった。
食材を取り扱う店で足を止める者たちの中には料理人もいるのだろう。どこかの船のお抱えコックかはたまた有名レストランの料理長か。究極の食材を追い求める旅人かもしれない。
他にもお忍びの王族や貴族なんて方々もいるのかも。
そんなことを考えながら行き交う人々を眺め観察する。
そんなことをしていると雑踏の中に昨日知り合った背中を見つけた。ラディは軽い足取りで歩き商人たちといくつか言葉を交わしている。何かを購入している様子はないが相手の表情も緩んでいるのを見るにコミュニケーション力が高いのだろうか。
そういえば昨日は私も初対面だったのに共に食事をしてお喋りをしていたんだった。
なんとなくラディから目が離せなくなり背中をじっと追っていると振り返った彼とパチリと目が合った……ような気がする。それなりに距離はあるはずだが彼はそのままこちらに向かって歩いてくる。私も視線を逸らさないので見つめ合っているようだ。
「またぼけっと暇つぶしか?よっぽど暇なんだな」
「今日は突っ立っていません。きちんと座っています」
返事を間違えた気がする。
なぜそうなったのかよくわからないがいくつか言葉を交わしたのちラディもいくつか食べ物を手に入れてきて私の座るベンチに座っている。またも一緒に食事をする流れのようだ。
「今日は市場をぼけっと眺めてたわけ?」
「ぼけっとしていたわけではありません」
毅然と言い返すが笑われてしまった。心外だ。
「そういうあなたも商船に乗ってきたというのに売り込みはしなくていいんですか」
「オレ商人じゃないし」
「では……船の整備とか」
「技術者でもないからな」
「えっと………料理人?どこかの貴族の放浪息子?」
「なんだそれ」
よほどおかしかったのかラディは大笑いしている。お腹を抱えて苦しそうだ。なんだか申し訳ない。
昨日言っていた船に戻って仕事、とは何をしているのだろう。他に思いつくのは航海士とか操舵士とか用心棒とか?
「オレのことそんなに気になる?」
「はい。未知の仕事をしているようなので」
「………………」
なんとも言えない表情で固まってしまった。言えないようなことをしているんだろうか。
「あ!世界を股にかけた女たらしの遊び人とか!?」
「違うわ!!」
「申し訳ありません!」
あまりの否定に咄嗟に謝る。もっと普通に考えて冒険者となのかも。
「オレからするとアイリスの方が謎だけどな」
「私ですか?……どのあたりがでしょう」
なんの変哲もない普通の女だが。
「連日ぼけっとしてるところとか。まじで謎」
「ええと、趣味なので」
ふーん、と何か言いたげな返事だがそれ以上何も言ってこなかった。
なんだか気まずい。




