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「アイリスはこの国に住んで長いのか?」
ふと目の前の男、ラディが聞く。
それまで黙っていたので食べることに夢中になりすぎていた。住まいのことを聞かれてなんと答えたものかと思考を巡らせ、結局思いつくまま言葉が出てくる。
「長くはなくて、ここ半年……くらいですね」
「へえ。それでなんで港で昼メシ忘れるほど船なんか眺めてたんだ?半年もいるなら見慣れたもんだろ?」
「それは、特に理由はないんですが。なんとなく、港に限らず変わっていく景色を眺めているのが好きというかなんというか」
そう、私は眺めていたいのだ。目の前をじっと見つめて大きな船が港を出入りするのを、船が動くたびに揺れる海面を、空の色が少しずつ変わっていくのを、多くの人々が通り過ぎていくのを。
特に理由なんてない。ただ視界が次々変化していくのを眺めていたい。
「変わってんなー。暇なのか?」
「暇なわけでは!」
またしても失礼な発言だ。
「アンタただでさえその銀髪で珍しい瞳の色してんのに、ぼうっと突っ立ってると余計目立つぜ?」
「髪の毛と瞳ですか?」
肩下まで伸ばしたまま下ろしてある髪を手に取りまじまじ見る。特に変わったことはない銀色なのかグレーなのかという髪。目立つだろうか?
私が考えていることが伝わったのかラディは続ける。
「その髪、陽の光に当たってると光って見えるから結構目立つぜ。で、瞳がオーロラの虹彩って珍しいだろ」
「オーロラ……」
確かに見るたびに瞳の色が違って見えると言われたことはあった。だけど目立つというほどだろうか。髪の毛も陽の光の下では誰しも輝いて見えるものではないだろうか。
「自分ではわかりません」
「なんにせよ、突っ立ってるのは目立つってことだ。実際オレにナンパされちゃってるじゃん」
「ナンパ」
なるほど。なんだかよくわからないまま勢いで着いてきてしまったがこれはナンパだったのか。
「アイリスは王城には入ったことあるか?」
「王城ですか?私はただの一般市民ですから入る機会なんてありませんよ」
「ガラノース王国って国民たちの慰安にって大広間開放してもてなしてくれるって話聞いたことあるけど」
「ああ、豊穣祭のことですね。城下町でお祭をするんですけど、その時に王城の開放日もあるんです。毎年春の時期みたいですけど、私はまだ経験してないです」
「半年って言ってたもんな。春なのか」
「興味あるんですか?」
あまりに落胆しているように見てたのでつい聞いてしまう。他の国では城が開放されることなどないんだろうか。
「城にっていうより、王家に伝わる‘虹の雫’が見てみたかったな」
「虹の雫、ですか」
それなら私も知っている。ガラノース王家に代々伝わるという大きなオパールだ。王妃のネックレスになっているんだとか。そんなに有名だとは知らなかったけれど。
「噂を聞いたんだよ」
「噂?虹の雫のですか」
どんな噂だろう。私にはなにも思い当たらず聞き返す。
「願えばどんな場所にでも連れていってくれる、だとか神話の時代の女神様が授けた石、だとか大型のダンジョンの鍵だとか。眉唾もんだけどおもしろいと思ってな」
そんな噂ひとつも知らなかった。




