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簡素的に作られた小部屋は体を休めることのできるベッドと一人分の椅子と机が置いてあるだけだった。
黒髪の長身の男がその小部屋の床に倒れている。動かずうつ伏せになったまま、目立って外傷はないが生きているのか死んでいるのかもわからない。
小部屋に向かって足音が響く。だんだんと近づいてきて二人の人間が入ってくる。
「っ!誰か倒れている」
さっと近づこうとするエルフの女を連れの男が腕を掴んで止める。
「なにがあるかわかりません。慎重にいきましょう」
「……それもそうか。大丈夫か?意識はあるか?」
エルフの女が少し離れた位置にしゃがみ込んで倒れた男へ声をかけると、その声に反応してぴくりと右手が動く。
「カーラ嬢、そのまま声をかけましょう。目を覚ましそうだ」
「そうだな。起きられるか?声は出せるか?」
カーラと呼ばれたエルフはそのまま声をかけ続ける。一方の男は双剣をいつでも抜けるよう警戒を解かぬままその様子をじっと見ている。
「……ん、聞こ……える……」
倒れた男から囁くような声が発せられた。
「グラフカ、この男反応があるぞ」
「そうですか。ではここからは私が対応します。カーラ嬢は周りの警戒を」
「わかった」
カーラは立ち上がり周囲を警戒する。倒れた男がいきなり襲いかかってくることも念頭にグラフカはそばに膝をついた。
「起き上がれますか?体を支えても?」
「……ヘーキ。ありがとな」
支えられつつ起き上がった男は床に座り直して息を整える。
「ふー。オレはラディ。覚えている限りではガラノースの港にいて商人たちと船に乗っていた。あんたらは?」
ラディが聞くと二人はしばし視線を交わし思考している。敵ではないか、信頼していいものか考え結局口を開く。
「カーラだ。ルルディオンの里近くの森で狩りをしていた。なぜここにいるかはわからない」
「ルルディオン?オネーサンってその耳エルフ?オレ初めて見たな」
「そうだ。エルフで間違いない」
ふーんとラディは頷きグラフカの方に視線を向ける。
「オニーサンは?」
「私の名はグラフカ。アステーリ帝国の騎士です。直前までなにをしていたか定かではありませんが、気がついたらここに。先ほどカーラ嬢と会いここへ来ました」
「じゃあここがどこだか全然手がかりナシってわけか。誰がオレたちをどんな目的で連れてきたのかも」
「アステーリ帝国もガラノース王国もルルディオンの里のある森も地理的に近いとは言い難いです。私たちの記憶が正しいのであれば数日間は目を覚ましていなかったということになりますね」
「そうか。私はあまり森の外のことは知らないが、数日間の移動を気付かないことはあり得るか?」
三人の状況を確認しあったところで疑問が浮かぶばかりで進展せず、互いに相手が信用に足る人物かもわからず打開策が出る空気でもなかった。
「今起きたところで何が何だかって感じなんだけど、グラフカとカーラはこの辺歩いたんだろ?どんなだったんだ?」
「魔物はいた。トロッコを走らせる線路もあった」
「どこかの使われなくなった鉱山ではないかと推測しています。場所までは特定できていません」
なるほどなー、とラディは頭を抱える。結局なにもわからない上に魔物が出るとまできた。
「グラフカは騎士だって言うから戦えるだろ?カーラは?」
「弓と矢はある。ただ狭くてこれは役に立たないだろうからナイフでなら」
「オレもちょっとは短剣と魔法が使えるけど、あんま自信ないね」
今短剣持ってないし、と呟きラディは深いため息をつく。
「現状三人で行動を共にするのが安全でしょう。鉱山の出口が見つかればそれでいい。食料や水、武器も見つかるかもしれません」
「賛成。他にも人がいるかもしれないしな」
「異論はない」




