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「ここはどこだ?目的は!?」
ガタンとテーブルが大きな音を立てて揺れる。グラフカは騎士然とした態度を崩し感情を露わにしている。ずっと冷静で淡々としていた人物とはとても思えない。戦場でだってもっと紳士的だっただろうに。
「ここはアサナシア。あらゆる時空から切り離された特別な場所です。ここは永遠であり一瞬でもある」
「帝国へ帰る方法は?」
「グラフカさん自身が帰ることはできません。魂が戻ることは可能です」
「俺は死んだのか?」
「いいえ。虹の雫によってここへ還ってきたんです」
グラフカと話す時はいつだって人目のある場所で、グラフカは騎士だったから帝都へきたばかりの私には丁寧だった。こんなに口調が変わるとは公私はきっちりわけるタイプだったのか、ここまで激情するようなことが起こらなかっただけなのか。
ふー、と長く息を吐き出している。冷静さを取り戻そうとしているのか。
「先ほどから言う虹の雫とはなんだ」
思い出した。アステーリ帝国では虹の雫の伝説も伝承も何もない。いつも戦場となる地に置いた鉱石の中に紛れ込ませておいたんだった。
戦での活躍の褒美にでも戦利品としてなにかもらったものの中に触れたのだろう。
無意識に虹の雫を求めるようにできているのだから。
「そうでしたね。虹の雫なんて聞いたことありませんでしたよね。きっとグラフカさんが受け取った鉱石だか宝石だか、そういったものの中にあったんだと思います。それがここへ来るための鍵ですから」
「……あの短剣の輝きか?」
「ああ!そうですね!!」
古い短剣にしてたんだった。刀身が薄く七色に輝くから装飾としての価値を見出して戦利品として持ち帰ってもらえるようにしてたんだ。
「皇帝陛下より賜ったあの短剣が……」
ぶつぶつ呟いている。
ここへ送られる直前、短剣の七色に揺らめく輝きに無意識に触れたのだろう。そしてラディやカーラと同様輝きが広がりそのままここへやってきた。
魔力の渦に巻き込まれる上世界から切り離されたここへ来る衝撃は大きい。直前のことを忘れていても不思議ではない。
「色々と思い出したようでなによりです。もっと私とおしゃべりする気になりました?」
「なにをバカなことを。今までの話を聞くにお前は人間を弄ぶ化け物だということだろう」
すっとグラフカは立ち上がり双剣を抜く。私を敵とみなしたらしい。戦ってどうするというのか。
「やめてください。勝てませんよ」
「たとえそうだとしても、ここで飼い慣らされるつもりはない」
帝国で名をあげた騎士として私は断罪されるベキであるらしい。こうなってしまうともう終わりか。正体を明かし世界の真実を伝えてもいいことはないようだ。
「仕方ないですね」
隙のない構えをとるグラフカをチラリと見てもため息しか出ない。ここでおしゃべりするには人選ミスだったか。
テーブルに肘をついたまま、グラフカが動き出したのをチラリと確認したのでもうひとつため息。
「意味ないんですってば」
こちらへ到達する前にグラフカはぐらりと倒れる。意識はもうない。
さっさと手のひらサイズに戻してお気に入りたちが並ぶ棚へ運ぶ。
今した会話の記憶は綺麗さっぱり消去しておくことも忘れない。
「次はどこの世界に置いてこようかな」
お気に入りたちを眺めておもしろいことが起こらないか考えてみる。
だいぶパターンが限られつつあるのだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
これでアサナシア編は完結です。




