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座らせた男に魔力を注ぐ。虚ろだった瞳に輝きが戻ってくる。
「……ここ、は……」
意識を取り戻した男は掠れた声で呟く。まだ朦朧としていることだろう。
「こんにちは。お名前は覚えてますか?」
「名は、グラフカ。……そうだ。ここは!?」
自らの名を口にしたことでしっかり覚醒したらしい。立ち上がり腰の双剣を鞘から抜く。流れるようで洗練された美しい所作だ。
「あなたは、アイリス嬢ではありませんか。なぜこんなところに?」
警戒を解かぬまま目の前の私の存在に気がついた。明らかに尋常ではない空間で呑気に紅茶に口をつけ茶菓子に手を伸ばしている私はよほど不気味だったのだろう。刃が私をまっすぐ捉える。
「グラフカさんこんにちは。ここには私たちしかいないみたいですよ。一度座って紅茶でも飲んだらどうですか?」
「……………」
まだ警戒されている。白い異質な空間に気がついたらいるのだから無理もないか。ただ、警戒されたところでどうにもならないのだから座ってほしいのだけれども。
「この場所がなんなのか知りたいならまず剣は鞘に収めて座りましょう?今私を害したとしても、グラフカさんに特にメリットもありませんよね?」
せっかくの紅茶も冷めてしまう。それに私は話したいのだ。あまりに抵抗を続けられると結局意識を奪って棚に並べておくしかなくなる。
時間が経過しすぎると記憶も曖昧になってくるし、今回の人生で得た知識や感情、倫理観などが失われてしまう。虹の雫でこちらに渡ってきた直後が地続きで一番いいのに。
「グラフカさん。きちんと質問には答えると約束します。座ってください」
「……信じましょう」
ようやく双剣を鞘に収めたグラフカが椅子に腰掛ける。勧めれば紅茶にも口をつけたのでよしとしよう。
「私はグラフカさんとゆっくりお話したいなと思ってます。あ、気が付きました?この紅茶アステーリ帝国の名産品のものなんですよ」
「アイリス嬢。あなたとは帝都でお会いしました。魔法師となる修行をするためにやってきたと語っていましたが、何者ですか?」
雑談する気はないらしい。さっさと疑問を解決することになってしまった。約束はしたのだからきちんと答えよう。
「私が何者であるか、これを正しく理解はグラフカさんにはできないと思います。わかりやすく言うならば神であるとしておきましょうか」
「ふざけないでいただきたい。神であるというならばなぜこんな場所に私を連れてきたのだ」
「グラフカさんが私に選ばれた人だからです。私の造る世界でどんなことを成し遂げるのかを観察するため。今回はどこで虹の雫に触れたんですか?」
アステーリ帝国周辺での虹の雫は何にしていたんだっけ。クッキーを噛み砕きながら思い出してみる。
「選ばれた、だと。なにを訳のわからないことを」
「だから、正しく理解できないとはじめに言いました」
もぐもぐクッキーを食べながら答える。
人間に私が理解できるはずもないのだ。だってそれは仕方ない。存在としての次元が違うのだから。私にだって人間を正しく理解はできない。
悠久の観察の中で理解しているふりをしているだけ。
でも興味深いのだ。だから観察することをやめられない。
「グラフカさんは選ばれた魂です。ここへ来たのだって初めてじゃない。でもそれを思い出してしまったから今回のグラフカさんとお話できなくなってしまうのでわからなくていいんです」
皿に並べたクッキーに手を伸ばすのは私ばかり。カップの紅茶が減るのも私ばかり。ここでゆっくりおしゃべりはできないのか。
「アステーリ帝国ではティールームでたくさんお話したじゃないですか。ここではあの時のように気軽にお話できませんか?」
「ふざけたことを……!」
怒らせてしまったらしい。ただ話したいだけなのに。




