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‘虹の雫’と呼称されるものはこの世界に複数ある。そしてエルフの里に伝わっているものは………。
「古来よりこの里のある森の奥に魔力の泉がある。普段は薬を精製するのに使用する魔力が潤沢に含まれた泉じゃ。その泉が七色に輝く刻を虹の雫と呼んでおる」
「そうですか。虹の雫はここ最近は現れていないですね?」
若いエルフのカーラは虹の雫を知らなかった。両親のペタラとフィロマにも聞いてみたが知らないようだったから虹の雫は廃れてしまっているのだろう。
「そうじゃ。儂も虹の雫はこの目で見たことはない。なんでも虹の雫が見られる、つまり魔力の泉が七色に輝くのは女神の信託を受ける刻だと言われておる。儂の前の代のエルフが一度だけ虹の雫の発現を見たそうじゃ。それよりも前は記録にない」
「そうですか」
やはりそうか。虹の雫が常に王家に伝わる宝石としてあるガラノース王国とは違い、存在そのものが伝説ともなるといくら長寿種とはいえ正しく伝承は伝わらないらしい。
「女神の信託に内容は伝わっていないのですか?」
「選ばれたものが女神の必要としている世界へ赴き役目を果たす、とだけ」
「なるほど」
間違えてはないのかもしれない。女神が探し物を見つけて拾い上げるのだから、必要としている世界に赴いてはいる。確かに。
「アイリスよ。この世の理から外れた者よ。今一度問う。そなたは何を求めてここへ来た?」
さて、どうしようか。私は虹の雫そのものを求めているわけではない。必要ではあるが求めているものは神託でもないのだ。その先を求めている。だがそれを正直に話す必要もない。
「私はどこで知ったのかもわかりませんが心の奥にずっと虹の雫のついて知る必要がある、という焦燥感がずっとあるのです。虹の雫について何も知らなかった頃からずっと。だから答えを求め世界を旅しているのです」
「そうか。そなたはもしかしたら女神が遣わした存在なのかもしれんな。だからこそ霊魂も見えぬ特別な存在なのか」
どう解釈されても構わない。私について確信をもって正しく理解することは不可能なのだから。
「わかりません。でももっと世界を巡り、この世界のことを知りたいと思います」
これ以上話すことはない。もうこの長く生きているだけの老人に用はなくなってしまった。
「そうするがよい。ルルディオンの里はいつでもそなたを歓迎しよう。最後に虹の雫の伝説が残る魔力の泉へ足を運ぶがよい。カーラに案内をさせよう」
「ありがとうございます」
ルルディオンの里に来た目的も難なく達成できそうだ。
虹の雫は間違いなく輝くだろうから。




