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【完結】美容革命! 見栄を捨てた伯爵令嬢の私は、今日も溺愛騎士と幸せです  作者: 逆立ちハムスター


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8/14

ルキアの記憶によれば、ここは王国で唯一、帝国の最先端の「美容魔法道具」を輸入して販売している専門店らしい。かつてのルキアは恐怖と羞恥心で入店できず、遠目から眺めるだけだった場所だ。


「お邪魔しまーす……」


重い鋼鉄製ドアを押して中に入った私は、一歩目で固まった。


「……え? なにこれ?」


店内は静まり返っていた。

広い店内には、商品棚がズラリと並んでいるのだが……買い物かごもなければ、店員さんの姿すら一人も存在しないのだ。

私の他に買い物客が少しいる程度だった。


代わりに、出入り口の左右には、全高2メートルを超える重厚な金属製の甲冑マネキンが3体、仁王立ちで威圧感を放っていた。絶対これ、万引き犯を即座に踏み潰す警備ゴーレムね。怖っ。


そして、棚の上に整然と並べられているのは――商品そのものではなく、すべて「見本の展示品」だけだった。


システムが独特すぎる……。


入口の小さな台座の上に、金属製の小さなカードが何枚か置かれていた。

その横にある説明の看板(魔法文字)を読んでみる。


なるほど。この金属カードを持ち、店内を回る。

買いたい商品の見本台の横にある「水晶ボタン」にある「買う」または「戻す」のボタンを押す。すると、カード内部に購入データの魔法が記憶される仕組みらしい。


「見本だけ置いて、会計まで無人で運用する……!? 前世のカメラゴテゴテの無人店舗やオンラインショップよりハイテクじゃないの!」


私は金属カードをサッと手に取ると、目を輝かせて棚へと突撃した。


「さあ、吟味開始よ!」


まずは、ヘアケアコーナー。


「あった! 『静寂の木櫛』!」


可愛らしい花の装飾が施された木製の櫛だ。説明文によると、微弱な風魔法が込められており、髪を通すだけで静電気を完全に除去し、キューティクルを整えてツヤを与えるらしい。デザインも機能性も完璧!

見本横の水晶の『買う』ボタンをポチッと押す。


次に、シャンプーっぽいボトル。

『華精の洗髪液』。泡立ち豊かに頭皮の汚れを落とし、天然のローズの香りを数日間持続させるという。これも『買う』をポチッ!


さらに棚を進むと、怪しげな小瓶を発見した。

魔力浸透遮断液まりょくしんとうしゃだんえき』?


説明文を念入りに読む。

『太陽から注がれる有害な魔力素(※UVのことだ!)が肌に浸透するのを防ぎ、赤み、黒ずみ、シミの発生を完全に遮断する塗布液』


「これ、完全に日焼け止めクリームじゃない!!」


日焼けは美容の最大の大敵! 前世でもオールシーズン日焼け止めを塗りたくっていた私にとって、これは神の恵みだ。迷わず『買う』を連打したい勢いでポチッ!


続いて、工具のような金属の器具。

滑過かっかの魔導剃刀』。


説明文:『低出力の微弱分解魔法を帯びた刃。肌に触れさせるだけで、皮膚を一切傷つけることなく、表面の不要な産毛や毛髪を根本から安全に消滅・除去する』


「なにこれすごい!! カミソリっていうか魔法の脱毛器じゃない!!」


これさえあれば、顔の産毛も、鼻の下のうっすらした毛も、体毛のケアも一発解決だ! 即座に『買う』をポチッ!


「順調、順調! 次はリップね!」


テンション高めでリップコーナーに足を踏み入れた瞬間、私は驚愕した。


そこには、巨大な壁一面に、数千本ものリップ(口紅)の筒がズラリと並んでいたのだ。


赤、ピンク、オレンジ、ローズ、ベージュ、果ては紫や青まで……微妙な色合いの違いごとにズラリと分類されている。


しかし――大きな問題があった。


「……試せない!! テスターがどこにもない!!」


無人店舗だから当然なのだが、手に取って手に塗ってみることも、唇に試すことも一切不可能なのだ!

細長い金属筒には、色の見本すらついておらず、ただ『紅桃色・三番』『薄妖精色・十七番』といった、抽象的すぎる魔法記号が刻まれているだけである。


「全っ然分からん!!」


私が欲しいのは、普段使いができる自然で血色の良い可愛いピンク系だ。


だが……。


ホーリーローズ。サンクチュアリピンク。セイントマゼンタ。ニルヴァーナブラッシュ。ヴァチカンコーラル。セレスティアルピンク。ジンクウロータス。メシアフラミンゴ。カルマシェル。エンジェルフェザー。カバラローズ。セラフィムブラッシュ。パラダイスダスティ。スーフィーマゼンタ。オラクルピンク。ミスティックピーチ。グレイスローズ。リバースピンク。アセンションブラッシュ。ソウルローズ。


最初は「えーっと、桃色系だから……この『ピュアピンク』かしら? いや、こっちの『エンジェルピンク』も捨てがたい……」と真剣に魔法記号を読み解こうと吟味していた。


しかし、15分が経過した頃、私の脳みそは完全にキャパオーバーを迎えた。


読むだけで、ゲシュタルト崩壊してきて、前頭葉がカッ! としてきたのだ。


試せないリップが数千本。まったくイメージできない意味不明な名前達。


「キーーーーーッ! 買ってみなきゃ分からないじゃないのよ!!」


理性が吹き飛んだ私は、目についた筒5本に向けて、自暴自棄気味に『買う』ボタンを連打した。ポチポチポチポチポチッ!

当たればラッキー、失敗したらカシウスにあげる!


「ふぅ、ふぅ……取り乱したわ。……さて、一番肝心な『アレ』を探さないと」


そう、今日ここへ来た最大の目的。

地獄並みに荒れ果てた肌に、生命の芽吹きを与え、ぷるぷるに復元するための「美容液(保湿化粧水・オイル)」である。


私は店内を穴が開くほど舐め回すように探し回った。


しかし。


「……ない」


どこを探しても、ない。

ペット向けの化粧品までも出てきて、無駄に多い香水コーナー。


「嘘でしょ!? 保湿よ!? スキンケアの基本中の基本、水分補給と油分補給の美容液がないなんてことある!?」


尋ねようにも、店内にいるのは仁王立ちしているイカつい警備ゴーレムだけ。「すみません、保湿美容液ってどこですか?」と聞いたら、不法侵入者とみなされて踏みつぶされそうである。


「うそでしょ……この国、肌に水分を与えるっていう概念がないの……?」


絶望的な現実に打ちのめされつつも、ないものは仕方がない。美容液については後日自作するか、錬金術師に相談するしかないだろう。


「……お会計に行きますか……」



私はトボトボと、店舗の中央に配置された会計コーナーへと向かった。


そこは、円形で青く怪しく輝く、太い鉄格子で厳重に囲まれた特殊なスペースだった。まるで銀行の金庫か、犯罪者を収容する牢獄のようだ。防犯対策が極端すぎる。


鉄格子の隙間に、購入データが入った金属カードを差し込む。


ブウン……と低い駆動音が響き、空中に青い光の文字が浮かび上がった。


『お支払い合計金額:102銀貨』


「あ、小銭(銀貨)を持ってないわ」


私はバッグから、昨日手に入れたばかりの金貨を1枚を取り出した。

鉄格子の投入口に、金貨をチャリン、と投入する。


直後――。


ジャラジャラジャラジャラジャラッっっ!!!!


激しい金属音が響き渡り、受け皿に大量の銀貨が吐き出されてきた。


私は受け皿の銀貨を拾い上げ、枚数を数え始めた。


10、20、30……70、80。


「……ん?」


手が止まった。


もう一度数え直す。


10、20、30……70、80。


銀貨が、ぴったり「80枚」しかなかった。


「……あら?」


私は首を傾げた。手元の現実が一致しない。


投入した金額:金貨1枚=200銀貨。

商品の代金:102銀貨。


おつりは当然「98銀貨」でなければおかしいのだ。

なぜ、私の手元には「80枚」の銀貨しかないのか?

差額の18銀貨はどこへ消えた!?


「え、なにこれ!? 魔法の機械が計算バグを起こしたの!? 返して私の18銀貨!!」


焦った私は、青く光る鉄格子の筐体を上から下まで穴が開くほど凝視した。


すると――。


筐体の最下部、地表からわずか数センチの暗がりの中に。

米粒どころか、ゴマ粒ほどの小ささで、かすれた魔法文字が刻まれていた。


『※決済手数料および自動召喚術式利用料として、一律手数料8銀貨を頂戴いたします。また、金貨から銀貨への両替差益として10銀貨を控除いたします』


「ちっっっっっっっっっっっっさ!!!!!!!!」


店内(無人)に、私の心の叫びが響き渡った。


「何その米粒みたいな注意書き!? 悪徳業者かっ!!」


銀貨18枚といえば、さっきの絶品猫サンドイッチが4セット以上買える大金である!


私が一人で地表の米粒文字に向かって激怒していると――。


ガシャン!!


威勢の良い音とともに、青い鉄格子の一部が勢いよく跳ね上がった。

その下の台座から、ウィーンと煙を上げながら、先ほど選んだ商品たちがせり出てきた。


静電気防止の木櫛。

ローズの香りのシャンプー。

日焼け止め(魔力浸透遮断液)。

魔法のカミソリ。

そして、適当に選んだへんてこ名リップ5本。


「……くっ……! 品物は……品物はちゃんと本物が届いたようね……!」


私は悔しさに唇をかみ締めながら、せり出してきた美容道具たちを、古びた革のバッグの中に一つずつ詰めていった。


一番の目的だった「美容液」は手に入らなかった。

リップは一試行錯誤もできず適当に買った。

そして米粒文字のせいで、手数料と両替料を毟り取られた。


「……帰ろ」


私は、なんとも言えないモヤモヤとした、敗北感と疲労感が混ざり合った「ビミョーな表情」を浮かべながら、重い足取りで無人店舗を後にしたのだった。


(絶対に……絶対にいつか、美容グッズを売るお店を自分で作ってやるんだから……!!)


革バッグをギュッと抱きしめ、私は街道を、ふくれっ面で歩き出すのだった。

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