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店内に入った瞬間、私は思わず気圧されそうになった。
大理石の床がピカピカに磨き上げられ、天井からは巨大な魔導シャンデリアが吊り下がっている。店内にいる客たちは、皆揃って着飾った上流貴族や、裕福そうな大商人たちばかりだ。
(うっ……ちょっと場違い感がすごい……。でも今の私には、2000金貨の潤沢な資金があるんだからビビる必要はないわ!)
私が胸を張って店内を進むと、展示エリアには重厚な金属製品たちがズラリと並んでいた。
前世の白物家電といえば、清潔感のある白いプラスチックやスタイリッシュなステンレスデザインが主流だった。
しかし、この世界の「魔道具」は一味違う。
どれもこれも、ずっしりと重厚な真鍮製で出来ており、表面には緻密なギア(歯車)や蒸気パイプ、ルーン文字の刻印が露骨に見えているのだ! まさにファンタジーの世界観そのものである!
「うわぁ……いかつい……。歯車が剥き出しになってるわ……」
私は展示品に添えられた説明プレートを覗き込んだ。
ドワーフ語を直訳した難解な漢字(というか古代文字)の名称がズラリと並んでいる。
「……えーっと? 『固相異物分離機』……? 『対流式空間熱媒換熱循環機』……? なにこれ、名前が難解すぎて一瞬頭がバグりそうになるわね……」
「ルキア様、お分かりになりますか?」
後ろから覗き込んできたカシウスに、私は「ええ、前世の……じゃなくて、なんとなく直感で理解できるわ!」と頷いた。
名前は難解極まりないけれど、構造と用途を見れば前世の知識で一目瞭然なのだ。
同時に、「古代ドワーフたち、マジで前世の家電とまったく同じ発想で機械作ってたのね……恐るべし……!」と戦慄せざるを得なかった。
「……それにしても、1つ1つがやっぱり意外と高額ね……」
プレートに書かれたお値段を見て、私は引きつった笑いを浮かべた。
さすがは古代技術の復元品。庶民にはおいそれと手が出ない超高級品ばかりである。
しかし、昨日買った「怪しい試供品リップ(※効果なし)」と違って、このお店は実に良心的だった。
店内では専門の技師たちが、実際に魔石をセットして「実機による動態デモンストレーション」を行ってくれているのだ! ちゃんと効果を目で確かめてから買えるのはありがたい!
「いらっしゃいませ、お客様。何かお探しでしょうか?」
高級感漂うローブを着た店員が、丁寧にお辞儀をして近づいてきた。
「ええ! 生活に必要な基本的な魔道具を探しているの。まずはあの……『固相異物分離機』から見せてちょうだい!」
「承知いたしました。あちらが最新型の衣類用・固相異物分離機でございます」
案内された場所に置かれていたのは、高さ1.5メートルほどの巨大な円筒形の真鍮製マシンだった。
お値段は、エントリーモデルの最安品で【60金貨……】!
「ろ、60金貨……! 洗濯機に60金貨……!」
私がひるんでいると、店員さんが「実演をお見せしましょう」と、泥で真っ黒に汚れた布束を機械の投入口へ放り込んだ。
カチッ、ガコン!
水晶ボタンを押すとと、内部の真鍮歯車が「ガラガラガラ!」と激しい音を立てて回転し始めた。
「おっ!?」
驚く私とカシウスの目の前で、信じられない光景が繰り広げられた。
円筒内部の透明な水晶窓の向こうで、汚れた衣服がバシバシと左右に激しく打ち付けられている。
すると次の瞬間――衣服に付着していた黒い泥汚れや埃が、まるで「無重力状態」になったかのように、プカプカと空気中に浮かび上がっていったのだ!
浮かび上がった汚れ粒子は、吸い寄せられるように内部の上面フィルターへと引っ付いていく。
「水を使わずに、風圧と反重力魔場によって、汚れと臭い、さらには衣類に付着した『腐敗魔力』までも完全に浮かび上がらせて分離・除菌するのです」
店員さんが誇らしげに解説する。
「わずか3分で、新品同様の清潔さと乾燥状態に仕上がりますよ」
「……買うわ。60金貨でも買うわこれ!!」
水を使わずに3分で洗濯と乾燥が終わるなんて、前世のドラム式洗濯機すら凌駕する神機能じゃない!!
「続いて、あちらの『対流式空間熱媒換熱循環機です!」
これは要するに冷暖房機だ。
壁でもどこでも、取り付ける真鍮製のファンユニットで、設置するだけで部屋全体の温度を一定に保ち、夏は涼しく冬は暖かくしてくれる。
お値段は最安モデルで【70金貨】。これも即決で購入決定!
さらに、一番重要な生活必需品――
『氷素定着式局所低温維持機』
要するに「冷蔵庫」である!
内部に細かな氷の魔石が液晶ドットのように組み込まれており、食材を腐らせずに長期間新鮮なまま保存できる巨大な真鍮製の観冷蔵庫だ。まあ開ける時は、銀行の金庫扉みたいなのだが。
お値段は最安モデルで【100金貨】!
食材の保存は命に関わる。これも迷わず購入カゴ(伝票)へ投入!
「ふぅ……これで洗濯機、エアコン、冷蔵庫の三種の神器は揃ったわね……」
高額さに汗を拭う私だったが、広大な店内を歩いていると、どうしても誘惑に抗えない魅惑の最新魔道具たちが目に入ってきてしまった。
「あ……あれは……!?」
私が吸い寄せられたのは、小型の真鍮製筒型デバイスだった。
ノズルから「ゴォォォ!」と心地よい温風が吹き出している。
『熱流体式温風機』――ドライヤーっぽいもの!
最安で【50金貨】!
「お風呂上がりに髪を乾かすのに、ドライヤーがないなんてあり得ないわ! 髪の毛を痛めない神性温風(イオン温風?)機能付き!? 買うわ!!」
さらに、その足元で「シャカシャカシャカ……」と円盤状の真鍮マシンが自動で床を走り回り、ゴミを吸い取っていた。
『ルンバスⅩ(テン)』――自動掃除機っぽいもの!
お値段は最安で【10金貨】!
「ルンバスⅩ(テン)!? 名前の主張が強すぎるけど、10金貨なら安いわ! アパートのお掃除を自動でやってくれるなんて最高じゃない! これも買う!!」
「ル、ルキア様……!? 大丈夫なのですか、そんなに買い込んで……!?」
さすがに金銭感覚が崩壊しかけている私を見て、カシウスが蒼白な顔で心配してきた。
「大丈夫よカシウス! これらは全部、私たちの快適な生活と時間を節約するための『投資』なの! 手で洗濯したり、部屋を掃除したりする時間を節約できれば、その分他のことに時間を使えるでしょ?」
「は、はあ……なるほど……!」
こうして、私が選んだ魔道具(家電)の一覧はこちら。
本体の合計金額は【290金貨】。
そこに、アパートへの大型精密機械の輸送費、専門技師による据え付け工事費、さらに3年間の修理アフター保証プランを全て含めて――
「ちょうど【300金貨(約3000万円相当)】になります!」
店員さんが揉み手でニッコリと笑った。
「よし! 300金貨ね! キャッシュ(金貨現物)で支払うわ!」
私はバッグからズッシリと重い金貨袋をドカンとカウンターに提示した。
周りで買い物をしていた貴族や大商人たちが、「あんな貧相な若い娘が300金貨を即金で……!?」「あいつは何者だ……!?」「立派な騎士も連れているようだし、変装したどこかの財閥の御令嬢なのでは……」と驚愕の目で私を見つめていたが、知ったことではない!
「ありがとうございます! 本日夕方までに、専門の技師隊をお客様のご自宅へ派遣し、完璧に設置・設定を行わせます!」
「頼んだわよん!」
ホクホク顔で伝票を受け取り、私たちは高級魔道具店を後にした。
◈
店を出て、昼下がりの太陽の下を歩きながら、カシウスが深く感じ入ったような溜息をついた。
「……ルキア様。本当に驚かされました」
「え? 爆買いしすぎちゃったかしら?」
私が苦笑いすると、カシウスは首を大きく横に振った。
「いいえ! そうではありません。あのような難解で専門的な古代ドワーフの魔道具を、説明を聞いただけで瞬時にその構造と利便性を見抜き、迷うことなく必要なものだけを的確に選ばれるお姿……本当に見事でした」
カシウスの瞳には、私に対する深い尊敬と感心が満ちあふれていた。
「私など、あの歯車だらけの機械を見ただけで頭が痛くなっておりました。ルキア様は非常に深い見識と先見の明をお持ちなのですね」
(あはは……ただの前世の家電知識なんだけどね……!)
カシウスの眩しすぎる尊敬の眼差しに、私は心の中で冷や汗をかきつつも、胸を張ってニッコリと笑い返した。
「ふふん、任せなさい! これで今日から、私たちの部屋は快適な現代的空間になるんだから! 楽しみにしててね、カシウス!」
「はい! 心より楽しみにしております、ルキア様!」
夕方になれば、アパートに冷蔵庫も洗濯機もエアコンも届く。
美味しい食材を冷やして、アツアツのご飯を作って、快適な部屋でカシウスと一緒に食べるのだ。
没落伯爵令嬢のセカンドライフは、古代ドワーフ技術の爆買いによって、どこまでも快適で素晴らしいものになろうとしていた。




