71:妖精の取り替え子の正体や如何に(SIDE:フォルフリッサ)
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牛を引き連れた私たちはまだ陽の昇る前に出発した。
牛六十八頭に対し ケアンが二人、槍で武装した牛追いが七人、彼の従者が四人という私からするとかなりの大所帯に見えるのだけど口は出さない。
このレテウスという子は何かが違う。話し方もだけれど早熟っていうのかしら?考え方自体が違う…いいえ、失礼だけれど何を考えているのか解らない。
父が失脚し、兄が喧嘩をふっかけた相手だと言うのに私にも母にも敵意が一切感じられないどころか私に希望まで施した。
それは私だけではない、見れば判る徐々に領地の民の顔が明るくなりつつ有る。たった一月の間にあの手この手で民の表情を変えてしまった子供。
そして彼の保護者であるヴァルヴェック様にも舌戦でも負けない子供。私はこの不思議な子供に興味を惹かれている。少しだけもうだいぶ前にだけどこの子について聞いたことは有った。父からエヴァン家の次男坊が取り替え子だったというもの。
妖精の取り替え子と言えば誰しもが恐れるお話だけど、本当に居るのだと知った私はとても怖がった事を覚えている。でも実際に出逢ったこの子は恐ろしい顔もしていなければ大食漢でもない、聡明で私なんかよりよっぽど物知りだった。
「しゅっぱーつ」
声を聞けば普通の子供、だけれど彼は道を補修するのだという。
牛の群れとはだいぶ先を行く私たちの馬車には樽が四つ、うち二つは石と牡蠣殻で売り物は残りの二つに載っている。商品を削ってでも道を直す…私の父ではそんなことはしなかっただろう。
道の補修だってせがまれて、せがまれて、やっとしたくらいでしかない。余りにも補修してくれないせいでもう領民たちは諦めてしまっているくらいだ。
「止まって!ハミッシュ出番だよ」
「はい!」
背丈は彼とそう変わらないハミッシュと呼ばれた男の子、親が付けた従者候補とも思ったけれど違うみたい。
「ハミッシュ、あそこね」
レテウス様は彼に指示を出すが、私にはあそこが何処か解らない。そう思っていると詠唱が聞こえ水たまりの水が突風で吹き飛ばされる。
「はい、あそこですね」
声を出して指示するだけかと思えばこの方は魔法まで使えるのか…
同じ背丈くらいの子と一緒に魔法で石と牡蠣殻を水たまりの有った場所へ飛ばす…というよりも浮かばせて置く、魔法を戦ではなくこんな労働に使うなど聞いたことがない。末は魔道士か賢者様か…
牛たちが追いつく前に作業は終わり、あとは牛たちが勝手に踏み固めていく…なんという要領の良さでしょう。
陽が昇り切る前には樽は空…二人の作業スピードもだけれど、それはそれだけ道が悪かったということ
「やっぱり全然足りなかったね」
「特訓になると思ったんですけど、これじゃあ村にいた方が練習になりますよレテウス様」
ハミッシュと言う子のこれでは物足りないと言った顔に驚いてしまう。これだけ魔法が使えれば氏族いえ…大氏族や貴族の家でも雇い手には困らないのに。まだまだこれからという自由闊達なレテウス様とハミッシュの顔を羨ましく思ってしまう。
私もこの子達の様に何か…何でもいい目標を持ちたい!
事もなげな子供たちの様子にフォルフリッサの心は揺さぶられるのだった。たまにぶつぶつと独り言をしていることも含めて。
行程の中で緊張が走ったのはケアンのお一人が弓を引いた時の一度だけ、それも結局射ること無く終わった。
昼もだいぶ過ぎた頃、二つ目の集落で投宿となり村を治める伯父様に挨拶に向かう。
牛の群れで気づいたのでしょう。伯父様伯母様も既に表に出て待っていてくれた。
「伯父様、お久しぶりです。」
「おお、フォルフリッサ無事であったか!ワ―バインに酷い目に合わされなかったかい?」
「この通り無事です。お母様も…お父様は…」
「判っておる…息子のワ―バインが起こしたこととは言え死罪は免れることは出来まい」
「私はお前さんが生きていてくれただけでもほっとしたよ。」
伯母様が強く私を抱きしめてくれる。言葉は少なくともそれだけでどれだけ心配してくれていたのかが判って胸が熱くなる。
「伯母様、ご紹介しないと」
「ああ、ごめんよ」
抱擁を解いた伯母様は涙を拭う。
佇まいを正し
「こちらが代官様の補佐をなさっているレテウス様です」
私が手を広げレテウス様を紹介すると案の定驚く伯父夫婦
「はじめまして、エヴァン家が当主サーロンの次男レテウスと申します」
私との顔合わせの時もそうだったけど切り替えが早い。まるで大人なの…
「君が…貴方様がエヴァン家の…」
言葉に詰まる伯父様、無理もないわね
「はい、次男坊で跡継ぎになるつもりはないので、もっと普通に接して頂ければと思います。」
それでは普通に接することは出来ないと私は思う…、ましてやレテウス様は勝者の御子息、何か粗相があれば首が飛びかねないというのに、何ていうか彼は変な所抜けてるのよね…
「あ…ああ、そうさせてもらってもいい…のかな?…」
ほら伯父様たちも困ってるじゃない!
「伯父様、伯母様大丈夫ですよ。レテウス様もそんな固い挨拶では伯父様たちも普通に接することなんて出来ません。お気をつけ下さい」
「えっ!ああ、ごめんなさい!」
テヘヘと頭を掻くレテウス様、やっと子供らしくなった。でもさっきまでの方が彼の本性のように見えるのだから不思議よね。
「ささ、もう外は寒いですから中へ入って」
伯母様が気を利かせて中へと誘ってくれる。久しぶりに入る伯父夫婦の家、案内役を買って出たけれど本当はインヴァクスへ行くのは久しぶりだった、伯父夫婦の顔も老け込んでいて一瞬戸惑ったのは内緒。
ケアンの二人と牛飼いの皆さんも牛を逃げられない柵の中へ閉じ込め終わり夕餉の時間になった。レテウス様は伯父様に作物の出来をしつこいくらい聞き、ハミッシュ君はケアン達の武勇伝に聞き惚れて一日目が終わった。
レテウス様の行動には子供特有の質問したいとは別になにか目的が有るような気がしてならない。明日聞いてみたい…
二日目、短い時間だったけど伯父様たちに感謝の言葉を述べ出発し行程は続く、昔の私ならもう一日と駄々をこねていたかも知れない。
やることの失くなったレテウス様達と牛たちの距離は近くなった。レテウス様は弓を持つケアンと何やら話し込んでいた。
多分だけど、子供だと馬鹿にしていたであろう弓使いのケアンはレテウス様との会話がさぞ楽しかったのでしょう。気がつけばずっと話し込んでもう一人のケアンに怒られている。
やはりこの人は人を引き込む何かがある。
本当に不思議な人…世間の言う『妖精の取り替え子』とは違うけれど妖精がこんな存在ならいいのにとフォルフリッサは思わずにはいられなかった。
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