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『妖精の取り替え子』認定喰らって即寒村送り!弱小氏族次男坊の独立戦争記  作者: くろすーおーばー
第二章 グレンガルト・トゥア発展編

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68:帳簿と元領主の娘

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教会へ行き、一通り帳簿に目を通す。


 そこで頻繁に目にするインヴァフィジ、『インヴァ』という言葉には覚えがある。そしてグレンガルト・トゥアやラーグの位置関係からしてスコットランドのインヴァネスに当たる土地だろう。インヴァは河口を意味する言葉でありネスはネッシーで有名なネス湖を意味する。そこから意味する察するにインヴァクスとはクス湖の河口もしくはクス川の河口という地名だ。


 しかもインヴァネスにおいてはスコットランドの歴史で言えばロイヤル・バラ(王権直属特権都市)、行政・軍事・交易の中心…王が亡くなった後は、誰だったか…確かコミン家が統治していたんだっけな


 コミン家は後世で一番有名なのは共に王位を争ったロバート・ザ・ブルースに教会で口論の末に殺されるという痛ましい事件だが、実際はそれだけではない王位を争ったと有るようにブルース家並に経済力・血筋文句無く大氏族にして爵位も有る大貴族だ。


 俺が危惧する第一次スコットランド独立戦争以前に一度決まった王もコミンの血統だった。直ぐにイングランドとの戦いに負け王位も剥奪されてしまうのだけれどね


 だけど此処でも同じとは限らない。

 強くそう感じさせるのがこないだ届いたロンダー家が起こしたボーダー(国境付近)でのスコットランドの歴史には登場しない小競合いの報が飛び込んできたばかりなのだから…もしかしたら本当はスコットランドの歴史にも同じ小競合いが有ったのかも知れない。


 だが文献に載っていなければ実際の所何が有ったのかは解らない…歴史を知っている=未来を知っているにはなり得ないのだ。


 もしかしたら小競合いに見せかけてロンダー家はロマウバリウクと何らかの密約を…それならば小競合いに見せかけることもないか。いや敵対しているように見せかける必要があった?推測ならばいくらでも出来るが答えは解らない。


 この問に意識を持っていかれるのはスコットランドの歴史、地理から見てロンダー家はブルース家(未来の王家)なのだ。このままインヴァフィジに鉄を卸せば、きっとインヴァフィジを管理するコミン家に相当するカーヴィン家と繋がるだろう。それが非常によろしくない、カーヴィン(コミン)家はロンダー(ブルース)家とも仲が悪い、我がエヴァン家の後ろ盾であるローデル(サザーランド)家とも仲が悪い…そしてローデル家よりも力を持っている


 避けて通りたい…でもそれも出来ない。


 未来の王家(ロンダー家)と敵対してでも俺はカーヴィン家との繋がりが欲しい


 まずはローデル家の傘下に居ながらカーヴィン家と接触を持っても裏切り者として処罰されない方法を考えなければ…


「あの…こちらが我が家と町の人々の昨年のやり取りになります」


「ありがとうございます」

 帳簿を持ってきてくれたのは前族長ムーボの娘で十四歳になるフォルフリッサさん。ちなみに奥さんの名はデアドラさん。


 二人は正確には逃げ込んだのではなく、だいぶ前に別居状態であったことで今回の難を逃れることが出来たらしい。


 フォルフリッサさんはこうして手伝ってくれるが奥さんのデアドラさんはショックで寝込んでいる。正直寝込んでいる彼女にまで手伝って貰わなければならない程の忙しさではない。


 この世界のすべての帳簿がここまで簡単だとは思はないが、この地の帳簿は簡単というかそこまで取引が事細かに書かれてないのだ。


 ムーボが教会に牛を何頭、羊を何頭寄贈しただの、どこからどこまでが教会の土地であるとかその程度、そしてその寄贈された品々の行き着く先はどれもインヴァクス


 俺は確認を取る意味でフォルフリッサさんに聞いてみる


「このインヴァクスってどんな場所ですか?」

「そこは王権直属特権都市(ロイヤル・バーグ)といって交易都市ですがハイランドで一番の都市であり防御の要ですね。」


 彼女は優しかった…立場で言えば俺は彼女の親兄弟の敵の血筋だというのにだ。


 俺の視線で察したのだろう


「…私、こんなこと言ったらお母様に叱られると思うんですですけど…」


六歳の子供に言う話でもないが、俺自身も六歳らしくない黙って彼女の独白を聞く


「ちょうど私が貴方様くらいの頃まで父は尊敬できる父であり、この領地も貧しくとも愛すべき故郷でした。ですが何時の頃からか父は変わり始め母の言葉も届かなくなりました。それでもお母様は別れず教会に残ったのです。」


 この世界とスコットランドの法はあまり変わらない。変わるとすれば妖精関連の法があることか…女性の側からでも正当な理由があればちゃんと離婚…正確には婚姻の解消をする事ができる。それでも別れずにムーボの傍にいた…


「善き頃の父が忘れられなかったのでしょう。そんな母が哀れで私は兄上にも相談しましたが何もしてはくれませんでした。きっと兄上の頭には自分が族長になった時のことしか無かったのでしょう。そんな兄上も帰ってきたワーバイン兄上の手で殺されました。」


 一連の流れに俺が絡んでいる。だけど俺は謝るつもりはなかった。謝ればソーサの家族の殺した相手を討ったことが間違いになる…


「今こうなっている事に感謝しているのです。」


 ?


「これで私は自分の道を歩く事ができる。カウトールの名は滅び、自分の名だけで生きて行けるのです。」


 一瞬だけ彼女は壊れてしまったのではないかと思った…だが彼女は続ける


「苦労の多い人生になるのでしょうね。」


 荒(すさ)んだカウトールを見続けて彼女は農民と同じ様な生活になると思っているのだろうか?そんな事はない


「フォルフリッサさんの母方は氏族ではないのですか?」

「ええと、そうですね氏族ですけど」


「それならそんなに悲観しなくても良いんじゃないですか?」

 父カウトールの名は消えたが母方の名が残っているのなら、いきなり小作人になるなんてことはない、母方と仲が悪いのなら可能性はあるが


「でもでも、母様のお祖父様にもお祖母様にもお逢いしたことは無いのですよ」

「僕もお母様に嫌われてて逢えません。けど…」


 まあ!と仲間でも見つけたようなフォルフリッサさんは

「けど?」


 食いついてきた。


 俺は彼女にこの世界、正確には13世紀末のスコットランドの法律を教えて上げた。元々今回の件で自分の力で生きて生きたいと願っていた女性だ話を聞いて益々やる気に満ちていった


「まずはお母様の実家のことを調べないと」


 この世界ではないがこの時代のスコットランドには女傑と呼ばれる女性が歴史によく出てくる。


 イングランド相手に五週間も籠城戦を耐え抜き、挙句の果てには投石機の攻撃に対して着飾った侍女を城壁の上に立たせハンカチで拭かせた


『あんた達の攻撃なんてハンカチで拭けば綺麗になるわ!』


 と煽った逸話『ハンカチの挑発』で有名なアグネス・ランドルフ別名ブラック・アグネスなど夫の留守を護ったという、行動力が半端ない女性が沢山とまでは言わないが居る。


 フォルフリッサさんもそのタイプなのかも知れない。凄いぐいぐい来る…


 でもお母さんの面倒は自分でみるということで情を忘れない辺りスコットランドの女性らしい、アスピコットだけどね。


 数日間のやり取りを通じてギブアンドテイクな関係になり自分はフォルフリッサさんからインヴァクスの情報を聞く、スコットランドのバーグ(交易都市)と同じく資格制で無許可で物を売ってはいけないそうだ。


「僕らの場合はどうすれば?」

「エヴァン家は代官なのだし教会に卸すだけで良いんじゃないかしら」


 フォルフリッサさんはもう儚げな表情をしていない、夢を探している様な眩しい笑顔のお姉さんだ。


「教会を通すのが無難だとは思うんですけど」

「エヴァン家として商品を卸したいの?」


「いえ、それも有りますけど代官としてこの地の商品はローデル家のものとして帳簿に書かなきゃいけないじゃないですか教会を通してだと余分にお金というか牛とかを渡すと計算が狂うんじゃないかなって」


「そうね…それなら神父様に聞いてみましょ」


 たしかにその通りなんだけど教会は嫌がらないだろうか?そんな事を考えていたのにハツラツとしたお姉さんは、俺の手を掴んで神父様の元へと連れて行かれるのだった。

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