64:ラーグ
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季節が秋だから…という理由だけでは少々濃過ぎる赤茶けた丘陵にヒースが点々と被う大地、所々には木も生えているが森というには寒々しい景色だった
「ここから先は道からはみ出すなよ」
ヴァルヴェックの言葉は少々遅かった様だ
「うわぁ」
馬を降り歩いていたレテウスが足を取られる
「ぬ、抜けない」
「言わんこっちゃ無い」
ハウベルに手伝ってもらいズボッと泥から抜ければ黒い水が泥の穴から湧く
「水が黒い…」
「この辺りは平原の様に見えるが実際には泥の沼地が点在してまともの歩ける土地じゃない…と言おうと思っていたんだが身をもって解っただろう」
「はい…」
そこら中か、そう言えばスコットランドの歴史においてもそれでイングランドがしてやられたんだった…
バノックバーンの戦い
それも歴史が変われば無くなる
再度馬に乗り込んだレテウスは高い視点から見渡す
「畑が無い」
聞いてはいたがここまで畑が無いとは思ってもいなかった。そりゃあ牛が生命線なのも頷ける。
グレンガルト・トゥアでも見かけたが、赤茶けた沼地からは沼鉄鋼が見つかる事が多い…一面に広がる赤い丘陵湿地帯、一体どれだけの沼鉄鋼が埋蔵されているのか、想像するだけでウハウハ…とは行かない
どれだけ沼鉄鋼が有ろうとも銑鉄にはその十倍位以上の木炭が必須、莫大な森を消費しなくてはならないからだ。
現代スコットランドが雄大な自然を讃えている様に見えても本来のスコットランドの自然には全く戻れていない事を知れば製鉄が鉄のみに在らずだと嫌でも知る事になるだろう
道を進むと教会とタワーハウスが見えて来た。この辺の地盤はしっかりしていて田畑も伺える。
流石にこの広大な旧カウトールの土地全てを土壌改良するのは無理だが…この辺りの土地ならば牡蠣殻…石灰の効果も認められるだろう。
どうやらこの辺りが中心部の様だ。前に来た時は夜で教会に気付いてなかった、というか要件が要件だったから他には目もくれていなかったからな、懐かしむ様なものも無い
教会関係者だろうか?人々が門の前に集まっている。
教会か、グレンガルト・トゥアには無かったからどう接するべきか、ここはヴァルヴェック様に習うしかないな
「我らはローデル家より命を受け参ったエヴァン家の代官代理である。其方達は?」
「ようこ、神精教会ラーグ支部は精霊様のお導きに感謝し皆様を歓迎いたします」
教会は今の感じ悪くない、問題は…目を移すと村人達の
どうせ何も変わらない
という冷めた…諦めが感じられる、これはだいぶカウトール親子にやられたんだろう。
それと目先の話だ、領主が誰に代わろうがこの冬の見通しなんてそうそう変わるわけが無い、明日食うにも困る人にとって代官が誰とかどうでもいいもんな…
それに周りの荒れ荒んだ町の様子を見れば、まともな治世では無かったと判る
ヴァルヴェックおじさんと事前に決めていた事は合っていた様だ
事前に決めていたのは先ずは救済から始める事、取らなければならない地代は有るが、これ以上疲弊させない事、目先の利益確保に走っても、来年以降が人が居なくて立ち行かなければ意味が無い。
その為にした訳ではないけどここに来てグレンガルト・トゥアの作物の生産向上が生きた。
ここの土地を確認出来るまでは作物はグレンガルト・トゥアから運搬させ食い繋ぐ
それにしても
牛が本当に多い…見渡すだけでもグレンガルト・トゥアより遥かに多いと判る。何故エヴァン家から牛泥棒をしたのか理解に苦しむ
肝心の前カウトール家氏族長のムーボはローデル家の牢屋で代官引き継ぎが終わるまでは生きているそうだ。
自分達の仕事が上手く行くと
人が死ぬ…
そういう世界
勿論、親氏族に対する反逆と見做されたのだし、エヴァン家も被害を受けたのだからローデル家の判断に不服はない、不服はない筈なんだけど…これは自分の持つ倫理観の所為だ
ぶるぶると頭を振って切り替える。
あと!真っ先にやらなきゃいけない事が有る!
有るのだが…
目を戻せば教会の面々と挨拶をしているおじさん、話が長い…夏休み前最後の校長の話くらい長い
「ええ、ですので教会への〜」
「それに関しては今まで通りで承っていますので」
ヴァルヴェックおじさんも悠長に付き合っていて、先にやるべき事に気付いていない
「教会としても〜」
嗚呼〜もう焦ったい!こっちは急ぐのだというのに!
おっとりした話し方は、おそらく人を癒し穏やかにさせる為のものなのだろうが今は無性にイライラさせる。
結局我慢出来なかった。教会とヴァルヴェックを尻目に
駆け出してラーグの村人に声を掛ける
「坊ちゃん一人で動いちゃなんねぇですぜ!」
判るけど、こっちは直ぐにでも聞かなくちゃいけないんだ!
「牛!牛の屠殺はもう行ってしまいましたか?」
突然代わりの代官がやって来たと思ったら挨拶がわりに牛の事を聞いて来た、それも年端もいかない子供がださぞかし面食らった事だろうが、屠殺前と屠殺後では状況が違うのだ後回しにしている暇はない。
「明日にでも絞めますが、それが?」
驚きはしたものの諦めているからだろうか覇気はない。
「その牛達買い取らせて貰えませんか?もしくはこの冬の貸し出しはどうですか?来年の春にはお返しします!勿論代価は通貨じゃなくて食料で!」
「はぁ!?」
今度こそ村人達は仰天したのだった
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