幼少期7:変化と成長
帰ってからも大変だった
シェーナさんはカンカンでベルテにはまた泣かれ、帰ってきた俺とレテウス君は叔父上に叩かれてボコボコになった顔のまま村の見回りに連れて行かれた
おそらくだけど腫れ上がった俺の顔を村人に見せることで氏族長の息子でも甘やかされていないという表明
確かにヨゾとマザがボコボコで俺だけ綺麗な顔をしていたらそれだけで不満を抱く者も居ただろう
ヨゾマザ兄弟も帰ってからしこたま怒られてボコボコ、向こうは逆に助けに来た直系がボコボコなのに庶民の子が大して怒られていないと知られたら示しがつかなかったんだろう
しばらくの間、三馬鹿ならぬ三ボコと呼ばれるのは恥ずかしかったがなんか連帯感みたいなのが生まれたのも事実だ
叔父上は村で集会を開き妖狼様の子達を授かった事を報告、微妙な言い回しの違いだが託されたと授かったでは受け取る側のありがたみというか神聖さが違うのだろう
それでも農民、特に酪農をする者たちからすれば狼を育てることに不安の声が上がるのは至極当然、牛や羊たちを飼っていると言っても実際は氏族の財産で彼らに所有権はない
それなのにもし襲われて家畜が減っても税の取り立ては変わらない、出来ることなら狼など殺してしまいたいのだ
ここで意外だったのはヨゾとマザが妖狼様を熱心に擁護したことで渋々ではあるが受け入れることが出来たこと、ここから先は俺とレテウス君で努力して人を襲わないようにしっかりクラウとソラスを躾ける番だ
行方不明騒動後の村の変化といえば
あれだけサボりまくっていたヨゾマザ兄弟が真面目に出るようになり影でレテウス君を嫌っていた他の子を説得して回るようになった事だろうか、あまり話を盛らないでくれると助かるんだが…
俺とレテウス君の間にも変化があった
感情の伝達だけでなく声が聞こえる様になった、これが妖狼夫妻から頂いた贈り物なんだと思う、もしかしたら他にも贈り物の能力があるのかもしれないが今はまだ判ってない
出来る限り農作業を手伝いたかったが毎日魔力をクラウとソラスに搾り取られる俺は必然的に回数が減る村人たちからの不満を買うんじゃないかと思われたがこれもヨゾマザ兄弟が積極的に変わってくれて助かった、逆に兄弟の両親から息子たちが真面目になったと感謝されてしまったけど俺とレテウス君がというより妖狼との出会いがそれほどまでに二人を変えてしまったのだろう
二人はクラウとソラスの子育てにも積極的だ、亡くなった弟と二頭の姿を重ねているのかもしれないがとても助かっているのだけど…
クラウとソラスも日に日に大きくなり魔力がいつもカツカツだ、叔父上からは託されたからには全責任を取れと厳命されているがレテウス君の情操教育を考えれば良いことだと思う
(じょうそうきょういくって何?)
子供の頃に経験しておくと良い事ってこと
(ふ~ん)
レテウス君とこんな感じで直接やり取りが出来るようになったから本当に助かる、これならばブラウニーとの一件みたいにクイズをしなくて済むしね
ところでそのブラウニーだが今もうちにいる
「無理だろうがもしお前が生きて帰れたら『何でもいうこと聞いてやる』からよ、じゃあな」
この余計な一言で自分の首を絞めたからだ
「無事に帰ってきたから『お前一生うちの世話をしてね』」
と言ったらどうやら口約束でもそれなりの拘束力があるらしく俺かレテウス君が任を解くか俺達が死なない限り止めることは出来ないそうだ、口は災いの元とは正にこの事
とはいえ別に粗雑に扱ってボガートにさせるつもりはない、二頭の子育てで手一杯で家事を手伝えないからブラウニーに居なくなられては困るのだ、子育てって当然だが授乳(魔力)をすればいいだけじゃない排泄に寝床の清掃から体調管理に魔法で遊具作りに至るまでとにかく目が離せなくて忙しい
(にいに、クラウとソラスが『まんま』って)
ああ俺にも聴こえた
これはここ数日で起きた変化だがクラウとソラスの言葉が解るようになった、まだ赤ちゃんだけど託されてから二週間も経ってない事を考えるとこの様子ならあと半年くらいで普通に会話できそうな気がする
あとレテウス君が言う『にいに』は俺とアンガス兄上を分けるためらしい、年の差で言うと兄弟より親子に近いが父上も居るしこうなった、どっから『にいに』なんて呼び方が出てきたのかはかなり謎だ
叔父上は今本家に行っている、今回の一件を報告しに行ったんだろう心配ではあるがどうこうできる話でもない、どんと構えて待つしかないな
(にいに!まんま)
はい…
例に漏れずガッツリ魔力を搾り取られた
何もする気しねぇというか気力でどうにか出来るレベルじゃねぇ、今すぐにでも寝たい
だがここからもうひと波やってくるんだよ…
それは陽が沈みかける農作業の終わりから夕食までの僅かな時間にやってくる
「「「こんにちわ~」」」
もう『こんばんわ』だ帰ってくれと言いたいところなんだがぐっと堪える
この時間になると村の子供達が入れ代わり立ち代わりやって来てクラウとソラスを観察しにやってくるのだ
「寝てるね~」
(俺の魔力搾り取って満腹だからね)
「可愛い~」
(それは同意する)
「また大きくなった!」
(そりゃあもう毎日すくすく育っております)
(にいにのおかげ)
そう言ってくれてありがとう
放っておいて寝ればいいじゃんと思うかもしれないが個人個人の魔力量を測るのにこれが効率が良いのだ、向こうから来てくれるからね
魔力が見えるようになってからこうやって村人たちの魔力量を測っている、大人たちはパンを焼く共同釜を見に行って確認してる、個々で身体から溢れている魔力量には違いがあるが全く漏れていない者は老人くらいで若くなればなる程溢れている傾向にある、魔力量を測ると同時に
「君、初めてだよね名前教えて」
「僕?うん初めて名前はね~ギブ」
「ギブって事はギルバート?」
「うんでも父ちゃんですらギブってしか言わないよ」
「そっかそれじゃあギブこれからよろしくね」
「うんレテウス…さま」
「様は恥ずかしいから無しで」
「わかった!レテウス」
(ギブ覚えた)
こんな感じで子供たちの名前と顔を覚えてるある種の戸籍調査というか住人を頭に登録してるみたいな
不思議と覚えやすいというか忘れないのは頭脳が二つ入っているからなのかもしれない
村人を覚えていて困ることはないと思うからこっちは趣味みたいなもんなんだけどね
一月が過ぎた頃から徐々に授乳の回数と言うか飲む量が減り始めた、昔ドキュメンタリーで狼の子育てを見たことがあるが期間は覚えてないんだけど、授乳や量が減り始めると乳離れの兆候だと言っていた、となると肉に移行となるんだけど親が噛んで柔らかくした肉食べるんだっけ…反芻…いやいやミンチにしてあげれば良いだけだけど問題は肉だ、肉は高級品であり庶民が食べる事は許されてないんだよ(隠れて食べてはいただろうけどさ)いくらレテウス君が氏族長の息子といっても今の地位ではせいぜい月イチが精一杯、そして叔父上がそんな贅沢を許すわけがない
なにせ叔父上自体がストイックで村の人と同じものしか食べないようにしているくらいだ
どうする…
シェーナさんに相談してみた
無言で弓を渡された…男なら自力で獲ってこいということか、さすが戦士の嫁…教え方がスパルタ式だ、でも自分が知ってる学んだ知識だと狩猟も氏族からの許可制だったと思ったんだけどここでは良いのか?それとも氏族長の息子だから良いのか?こういう時は半端に知っている知識が疎ましい、知らなければ何も疑問を持たずにやったれやーって出来たのに…
しかし背に腹は代えられない、弓矢を持ち授乳までに帰ってくる予定で森に入る
目標は鳥だ!それは何故か!イノシシを狩っても三歳児には持って帰れないから!
魔法ではなく弓を使うのは速いから!詠唱いらないし見つけたらすぐに撃てる!
だがしかし、圧倒的に力、純然たる筋力が足りない
本日の結果は言うまでもないゼロだ、こういうのなんて言うんだっけボウズ?
このままではクラウ達が飢え死にしてしまう
随分と大きくなったソラウに授乳(魔力)しながら悩んでしまう、こういう時は大抵集中できなくて魔力の出が悪いストレスの所為だ
(にいに?)
どうした?
(矢に風魔法)
oh!shit!ソンナカンタンナカンガエモオモイツカナイナンテ
(にいにシットって何?)
レテウス君は覚えなくていい言葉だから忘れて、お願い
翌日の再チャレンジ
フハハハハ!ヒャッハー山鳥三羽ゲットだぜ!
でも捌いたこと無いのでそこだけはベルテにお願いしましたごめんなさい
細かい肉になった山鳥さんに感謝をしつつクラウとソラスに振る舞ってみたが、う~ん食べない…興味は有るのだろうクンクンしてはいるんだけど食べない、やはり初めての食べ物は警戒心が勝ってしまうのか
恥も外見もかなぐり捨てて三歳児に聞いてみた
レテウス君何か気づいた事ない?
(魔力を一緒にする?)
試しに肉に魔力を掛けてみる
食べた!食べたーーーー!
流石レテウス君やっぱり天才!なんでこんなに頭良いのさ!
声は何も帰ってこないが感情で判る、これは照れている!可愛い!!
三歳でこれならば二十歳で国王になっても我が国は安泰なのではなかろうか
浮かれる馬鹿な独身パパもどき
こうして子供たちの離乳食問題は解決した
魔力に依る体力の低下が収まった俺とレテウス君は農作業の手伝いに復帰した…クラウとソラスを連れて
もっと怖がられるかと思っていたが村の子供たちが話してくれていたお陰で大人たちも二頭の様子が気になるのか休憩時間になると見に来てくれる人が多かった
「めんこいねぇ」
大人しい二頭の頭を普通の犬みたいに撫でて行く村のおばさん
黒と白の二頭は気持ちよさそうに眠っているが心のなかで(この人たちは皆家族だからね、怪我とかさせちゃ駄目だよ)と二頭に向けて語りかける
体重は五~六キロといったところか、あと数ヶ月もすればレテウス君の体重をあっさり超えるんだろうな、顔も鼻が伸び幼さと精悍さが同居している感じになってきた
今日は去年の秋に植えたそら豆の収穫をしているのだが状況は芳しくない、モルトおじさんは去年の夏の収穫も悪かったと言っていたし結構ヤバいのではないだろうか、今収穫している物も数は少ないし豆も小さい、大人たちの顔を見れば不作だったのだと簡単に察せてしまう
(にいに?これ駄目なの?)
良くはないかな、豆は貴重なタンパク源だし
(たんぱくげん?)
そうだね、人が生きていくうえで大切な栄養で豆類にはたくさん入ってるんだよ
(じゃあもっと豆沢山つくらないと)
作る数というよりは太陽と雨は完全に運だから仕方ないとして土壌…土をどうにかしないと駄目かもなぁ
(土?なんで?)
僕らがこの豆から元気をいただくように豆も土から元気を頂いて育つのね、だから土に元気ないと豆にあげられる元気が少ないから豆も僕らに元気をちょっとしかあげられなくなっちゃうんだ
(そうなんだ、じゃあ土さんを元気にしようよ)
うん、その通り…その通りなんだけどね、それが一番大変だったりするんだ
(なんで~、土さん可哀想)
そうだね~可哀想だね~
観葉植物すら枯らす俺には土壌を改善できるような知識は無い
ちゃんと本読んでおけばよかった
(ほんってなに?)
そうか年齢もだが、向こうの世界の中世と同じならこの国の氏族の文化は口頭伝承が主流、読んだことがないどころか本の存在自体知らなくても仕方がないのかもしれない
(ほんってどんな形?)
四角くて薄い紙で出来てて
(紙って兄上から貰ったみたいなの?)
そうそう、あれは一枚だったけど沢山の紙を束ねて文字がいっぱい書いてあるんだよ
(これかなぁ)
?
(このぱらぱらぱらぱらーってのがほんかなと思って)
ちょっと待って、レテウス君今どんなところにいるの?
(おへやだよ?)
お部屋?それってどんなお部屋か教えてほしいんだけど
(ん~とね、ベッドがあってぇ、机があってぇ壁真っ白)
机の横に本がいっぱい?
(うん、ほんいっぱいで机の上にパカパカできるのがあるよ、あとは~)
パカパカ?もしかしてノートパソコン?
これはひょっとするとひょっとするかもしれない
レテウス君に部屋の詳細を出来る限り教えて貰う
「レテウス君、窓からお外見える?」
(みえる、おっきい塔があるよ)
「その塔には白い丸がついてないかい?」
(うん、ついてる)
留学先の俺の部屋だ
「外に人は居る?」
(だれもいないよ)
そんな所に小さな子が一人だなんて
(だいじょうぶ!にいにが見てるもの見える、たのしい)
健気だ、よし!一緒にいっぱい楽しいことしような!
(うん)
そうか、レテウス君は勝手に光の中みたいな場所にふわふわ浮いているのを想像していたのだが俺の部屋なのか…解らん全く仕組みが分からん
まあそれを言い出すと俺がこっちの世界にいること自体謎なのだから考えるだけ無駄なのかもしれないが
そう言えば俺はこっちの言語を知っていたというか学んでいたから理解できているけど俺の部屋に有る本の言語は殆どが英語か日本語だレテウス君は理解出来るのだろうか
レテウス君、本の文字は読める?
(よめるけどよくわかんない)
考えてみれば俺は別にレテウス君相手にこっちの言語で話しかけたりしているわけじゃないしレテウス君の言葉を翻訳もしていないが普通に話せてる
本が読めるという事は、俺がこの身体を借りている様に俺の知ってる言語を使えるのではないか
読めるのに内容が解らないのは本人の知識がまだ追いついていないからかな?
絵本が読めるようになった子供が続けて純文学を読んだ所で理解できるもんじゃない
子供でも解る本か…漫画は~あまりなかったな、歴史書とか語学の本とかばっかりだったと思う…勉強しに留学してんだから当然っちゃあ当然なんだが
あ!
レテウス君、本棚の下から三段目に『妖精の伝承』って本が有ると思うんだけど
(ん~これ?あった)
自分が子供の頃はこの手の本、特に『妖◯大百科』系には夢中になったから、きっと楽しいと思う
(妖精いっぱい!)
お、いい感じ、本棚の本は勝手に読んでいいからね
(いいの?)
良いよ良いよ…アレな本は無かったよな
(アレってなあに?)
なんでもないよ~気にしないでね~
独身でノートPCにチャイルドセーフティー掛けたくなる日か来るなんて思ってもなかったよ
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