55:カウトール家の牙
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「手合わせありがとうございました。」
馬鹿にしやがって…
カウトール家嫡男ワーバインのローデル家里子としてアンガスとの最後の手合わせが終わった。
結果は勝利に終わった。だがあの澄まし面が気に入らない
父の命を受けてローデル家に里子に出されたのが五つの頃、その時からケファー様の隣には必ず彼奴が居た。
ケファー様と同じ三歳のアンガス、年下の癖に魔法が使える所為で特別扱いでケファー様の隣は自分だと信じて疑わない彼奴が嫌いだった。
俺が魔法を覚えた時には更に上の魔法を、奴が十五になる迄は上だった剣技も今では互角。
父に厳命されたケファー様の侍従になる事も叶わず、カウトール家に戻る事が決まり、最後の手合わせで奴をめちゃくちゃにしてやろうと思った、だが全て軽打…わざと当てさせたとでも言いたいのか!
「長きに渡るローデルでの暮らし、ドナルド・モール・ローデル卿の教えを活かし、必ずやカウトールの地を再興に導いて見せます。」
「うむ、達者でな。そちの働きこのドナルド・モール・ローデルも期待しておるぞ」
いつもと変わらぬありきたりな里子への声掛け、最後の最後まで屈辱に塗れた里子生活が終わりを告げた。
カウトールの地へはエヴァン家の領地を通る。エヴァン家の領地の様子は可もなく不可もなく栄えてもいなければ栄えそうな気配もなかった、ローデル領と比べるでも無い弱小領地こんな地の男に不覚を取ったという事実がワーバインの肩に重くのしかかる。
魔法の実力だけでアンガスが侍従に選ばれたなどとは思いたく無かった。エヴァンの地に何か違いが在る、その所為だ…ワーバインはそう思いたかった。だが何の変哲もない弱小氏族の土地が広がっている…
虚しさが込み上げる、ただただ己の実力で負けたのだと思い知らされた。
エヴァン家の領地を抜け懐かしの我が領地が見えて来た。
水を讃えた大きな湖が田畑を支える…っ!
「なんだ、どうしたというのだ」
記憶にある麦畑は水面の様に風で波を起こし実りを称えていた、目の前、いや一面の視界に映る麦畑は見るも無惨、まともに育った畑を見つける方が難しい状況だった
「おい!お前領地に何があった」
馬を降りくたびれた男に答えを問う
「何がって、あんたもうここ数年悪くなる一方だ、もう親方様は何もしてくれん…開拓村の連中みたいに俺たちも村を捨てるしかねえのかもな…」
村を捨てる?
「おいあんたも何処から来たのかしらねぇが…あんたその顔、もしかし」
男が言い切ることは出来なかった。抜き身の剣が深々と男の腹に突き刺さる
「村を捨てる事など許さん」
もたれ掛かった男の額を強く掴んで投げ捨て城へとワーバインは向った。
「ワーバイン様お待ちを!」
「退け、親父殿に会わねばならぬ」
力任せに扉を叩いても閂が掛かっていて開かぬ扉
怒りに身を任せ剣を抜き扉を叩き割った。
「親父殿、ワーバイン・ドゥ・カウトール、ただいまローデルの地より舞い戻りました。」
中に居たのは親父では無かった、なくなっていた。
角で蹲り酒を呑み俺に怯える矮小な存在。
「親父殿!一体これは?」
「ひぃぃ」
「おい!誰か説明しろ」
親父がこれでは領地がまともになる訳もない
領地を表すかの様な荒み切った部屋だった。
ワーバインは思う…自分の惨めな十二年は何だったのか
「もう手打ちに、手打ちにしたんじゃ!やめてくれ。どうか、どうかこの通りじゃ!」
「手打ち?何のことじゃ!おい支族長達を呼べ」
ローデル家で身に付けた貴族らしい言葉遣いも投げ捨てた
「ワーバイン様の里子よりの帰還の宴に皆参ります。何卒あと数日お待ちください。」
裏若き青年とは思えぬ怒気に家の者も逆らえず取ってつけた宴を言い訳にするしかこの場を濁す方法を見つけられなかった。
ーーーーーー
「このクソ忙しい収穫の時期に、小倅の次男坊の帰還に支族長を全員呼ぶなど」
「全くだ、それよりも族長はまともになったのか?」
四人の支族長は口々に不満を漏らしながら族長の部屋へと入っていった。
「よう久しぶりの再会だってのにしけた面してんなぁ」
足を崩し不躾な挨拶を支族長達へとぶっきらぼうな挨拶とも呼べぬ声を掛けるワーバイン。
次期族長筆頭とはいえあまりの無礼
「ワーバインよ、少々度が過ぎるのではないか?」
「親父のこの姿を見ても偉そうに支族長面かカウトール家は揃いも揃って腑抜け揃いだなぁ」
父であるムーボは相も変わらず角で縮こまり息子の顔も見ようともしない。むしろ逃げたがっている様にすら支族長達には見えた
強者たる喰らう獣の眼が族長達を睨みつける
「そ、その様な態度、後継ぎたる長男アルベイン様が許しませんぞ。」
「そうですぞ、それに後継ぎは選ばし者がなる者その様なことでは誰も其方を選びはしまい」
「兄上が何だって」
「その様な狼藉はアルベイン様が」
「これが何だって」
ワーバインはナイフを突き立て宴のテーブルへ、ソレを投げた
「ヒィ」
支族長達は目にした瞬間に腰を抜かす。無造作にテーブルに載ったソレは両の目玉を抉り出されたアルベインの頭だった
「これでもちゃんと話し合ったんだぜ、ただよ…余りにも甘ちゃんで話し合いにならなくてな。」
「お前達とはちゃんと話し合いがしたいんだよ俺は…」
ワーバインは狂気に取り憑かれた眼で支族長達を見つめ笑った。
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