54:村を売り込もう
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夏も半ば、それでも肌寒いハイランドのグレンガルト・トゥアに見知らぬ男の姿があった。
「本当にこんなところで商売ができるもんかね。」
行商人はぼやいた。
胡散臭い男の話に乗って来たものの目に映る開拓村はとても貧相な開拓村にしか見えず、何か売れる物が有る村には見えない。
ただ違いは有った。道がまともだ、何処を通ろうがぬかるんでいる筈の道には砂が撒かれ荷馬車が泥濘に車輪を取られなかった。
たかがその程度と思うかもしれないが行商人にとって荷馬車は命、第二の家だ。道がまともでない所は行きたくなくなるのは極々当たり前の話なのだ。
とりあえず広場らしき場所へと移動してみる。碌に店もなさそうだが村人の顔を見る。活気は…有る。むしろ変なくらい活気が有る。
これはあながち嘘でもなさそうだ。品は見当たらないが活気というのは先が見通せなければ生まれない。
先を見通せるだけの何かがこの村には有るという事だ、こうしてはいられないと行商人は聞き込みを始めるのだった。
「レテウス様来ましたよ。何を売り込むんです?作物も天候が悪いというのに豊作ですし、今年は木工も特に樽職人のお陰で商いができていますが」
仕掛け人で有るフォークは自分が燐領で引っ掛けた行商人に何を売り込むのかと興味津々である。
「売り込むのは物じゃないよ。」
「物ではないと言うと一体…」
「このグレンガルト・トゥアそのものだよ」
レテウスは悪戯っぽく笑うと行商人に向かって歩みを進めた。
「ようこそグレンガルト・トゥアへお越しくださいました。」
「は?あ、あぁ、初めまして俺はローランドで行商を営んでるエンデという者だ。ちょいとこの村の噂を聞いてね…ってお前!」
レテウスの後ろに立つフォークに指を指すエンデ
「貴方が一番乗りですよ」
歓迎しますといったふうに両手を広げるレテウス
「こりゃ一杯食わされたってわけだ、で、小細工までして招き入れたって事はとっておきがあるんでしょうな。」
ここまで足を運んで手ぶらでは帰れないと顔が言っている
「それは勿論、お目が高い」
こちらとてもただで返すつもりはない。
「ところであんた子供だけど身分高いんじゃないか?下手打ちたくないんだ身分を先に明かしてもらえませんかね。」
「これは申し遅れました。私、この村の副村長をしております、レテウス・ドゥ・エヴァンと申します。」
行商人の男は顎に手をやり、少し考え込んだ。
「此処はエヴァン家の族長の弟様の村だったはず…子は居なかったはずだが、となると、あんた取り替え子の、あっ!」
割とこの行商人うっかりさんらしい。
「そう、取り替え子のレテウスです。と言ってもそう言われているだけで人間ですよ。」
「本家のお坊ちゃんでしたか。これはこれは…しかし本家のお坊ちゃんとはいえ、このエルデ目利きには五月蝿いですよ。ちゃんとした品でなきゃかいませんぜ。」
「それこそ望んでいた商人、でも本当に目利きが出来るのかな?うちの話のすぐ食いついてるし」
促されてグレンガルト・トゥアの道を行くがいきなり痛い所を突かれたエンデ
「うぐっ!どんな凄腕の商人だって調子の悪い時はあるってもんです。それにここ数年天候が悪くて何処の商人も作物、特に穀物の確保は大変なんですよ。」
「そうなんだね。穀物はうちは燕麦がメインだけど」
「燕麦も欲しいっちゃぁ欲しいですがね、いかんせんローランドじゃあ大麦が中心ですから」
エンデが言い終わる前にレテウスが口を開く
「今年から大麦も始めたんだ」
「ハイランドの大麦ねぇ…」
ハイランドの痩せた大地では育ったところで実りは少ない、それが常識、ましてやここ数年続く冷夏となれば想像は容易い
筈なのだが…
「ここが大麦畑、今年から始めたばかりだから小さいでしょ。」
確かに小さい、だが…
「ここハイランドでしたよね。」
「やだなぁ、決まってるじゃないか」
「それにしては立派…、いやローランドよりも立派なのでは?」
エンデは汚れるのも厭わず大麦の状態を見た。やはりローランドの大麦よりも実りが良い。
「今年は種の採取を目的にしててね、本格的な栽培は来年にしようと思ってるんだ。ん?どうかしました。」
「あ、いや、此処にはまだ野良が居るんだなぁと」
「野良?」
「ああ、妖精のことですよ。ローランドにはもう飼われてる妖精以外見ないもんで」
あまり嬉しくない話を知った。ただ飛んでいるだけの妖精が野良と呼ばれる社会はこことは天と地ほど違うこれからグレンガルト・トゥアには人の出入りが増えるが妖精との関係を悪くしたくはない…何か対策を考えないとな…
「来年の収穫はどうなされるんで?もう買い手は決まってるのですか?」
エンデの声で気を取り戻す。
この数では商いにはならないが、このエンデという商人は気づいている様だ。
ニヤリと笑うレテウス、来年の買い手がまだ居ないのだ、誰の手垢も付いていない大麦の畑は金の畑と変わらないのだ
エンデは頭の中でそろばんを弾く
「来年には作付けはいかほどに?」
「今年の収穫は全部来年の作付けに回すつもりだから、少なくとも10倍かな」
エンデは目先の利益に目を眩ましたりはしない様だった。
「いやいや、いくら種ができても農地が無いでしょう。」
エンデの言っている事は正しい、ハイランドの土地が痩せているのは元々の土壌が酸性なだけでなく、岩も多く耕せるだけの農具が存在しない所為でもあった。
「そこであれの出番なんだ」
レテウスは季節外れの畑起こしを指差した。
「この季節に畑なんか耕してどうするんです」
夏の終わりに耕し始めてどうするのか、そう思いかけて目を見張る
「あのプラウもしかして…鉄?」
「よくわかったね。今はプロトタイプでこの冬迄に改良するつもりなんだ。」
「ぷ…ぷろと?」
「ああ、ごめん、試作品って意味」
「じゃあ来春には鉄のプラウでガッツリ耕せる…と」
「うん、改良した物を五つ、牛達の保護具もセットで作るつもり」
どうやって鉄製のプラウをこんな寒村がと思うと同時にこの村にはまだ何か裏があるのかもしれない、もしかしたら鉄の鉱脈を見つけたのか?
どちらにせよ来年の良い仕入れ先になる事は確かで見逃して後からやってきた商人にくれてやる馬鹿はいない
「俺は何をすれば良いんです?」
「察しが良くて助かるよ」
「商人の勘ってやつですかね。来年は忙しくなりそうだ。出来れば今年も忙しくなれるとありがたいんですがね。」
調子の良い行商人に
「今年は豆が豊作でね、ローランドの相場はどんな感じなのかな?それと…量はその時々で構わない、含まれる物でも良いんだけど…見つけ次第買って届けて欲しいんだ。」
俺は商談をしながら銭湯の隣に建てた小さな宿へとエンデを連れて行った。
翌年にはしっかりした宿が建ち、何処ぞのうっかりさんのお陰で妖精の舞う銭湯のある宿屋として有名になるのだが、それはまた別のお話である。
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