53:試運転とクレーム対応
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組み上がった高炉に火を通す。
と言っても鉄を溶かすわけではない。炉内や組んだ資材に含まれる水分を飛ばす為の空焚きである。
高さ7mにも及ぶグレンガルト・トゥアの高炉も現代の高炉からすればかなり小型に分類されるのだが、もし崩壊爆発すれば尋常じゃない規模になる。慎重を期す必要性がある、何せ温度計などと言う便利な物は存在せず、人の目に頼るしかない世界…時代というべきか、なのだから。
まだブロッチの天井には岩は載せられずぽっかりと穴が空いた状態なのも熱の籠り具合が分からないから、1500度を超す作業が行われるのだ、外から高炉が見えないカモフラージュと作業が可能な状態を保つ事を両立させる為にはこの辺りの環境も確認しておかねばならない。
空焚きが終われば今度は洗って不純物を取り除き乾燥させた沼鉄鋼を入れてテストだ、そこから先は取り返しがつかない作業、生半可な温度では鉄は溶けないし半端な温度で中途半端に鉄が溶けてしまえば炉を壊す…
そうならない為に新設したコルマックとラグナルの共同制作水車の力を借りた二十四時間連続稼働フイゴ、これにより常時酸素を送り込む。こっちはこっちでテストもしている。
これらの全ての設備の安全確認が出来てやっと高炉が始動できる状態になるという訳だ。
「レテウス様〜!」
ニッコニコのヨゾがやって来た。叔父上から馬を拝領してからというもの笑顔が崩れない。余程嬉しかったのだろう。
「ヨゾどうしたの?湖の方で進展でも有った?」
「その通りです。稚貝の定着が確認されました。」
「本当!それで?どの位定着したとかクレェターは言ってた?」
「まずはこちらを。」
そう言って蝋板を見せてくれたのだが
「これって左が村で右が海で良いんだよね?」
「そうです。」
袋状の湖であるタイカン湖は左から川を伝って淡水が流れ込み、右からは潮の満ち引きで海水が流れ込む汽水湖。ある程度予想はしていたが牡蠣の幼生たちは海と湖の境目の湖側に定着した様だ。
「クレェターからはまだ『発見』なので数が何処に集中するかは未定との事でした。」
「そっか、それでも定着が確認出来たのは喜ばしい事に変わり無い。何か褒美を取らせたいな」
「持っていった酒を呑むなよと注意したところ、逆に仕事の邪魔と言われてしまいました。もうしばらくは仕事に集中させてやった方が宜しいかと」
苦笑いを浮かべて報告するヨゾ。
最初はどうなる事かと思ったクレェターだが、春から夏までの短い期間でタイカン湖の特徴を覚え幼生たちの定着場所を予想し、幼生たちのベッドたる牡蠣殻を撒き、こうして定着の報をよこす。なかなかどうして良い仕事をしてくれている。
「そうなると年の終わりにでもデカい褒美を取らせねばならんな」
一体何を褒美にすれば喜ぶか今のうちに考えておかないとな…
高炉に牡蠣、着々と歩みを進めて行けている。
難民だった者達の活躍が目覚ましいが、それもベースであるグレンガルト・トゥアの農業自力あってのもの、土壌改良のお陰で作物の収穫量だけでなく植林向けの挿し技や苗木の成長も順調に進んでいる。
(にいに、順調?)
ああ順調だ、でもそういう事は口に出さない方がいい
(なんで?)
そういう事を言うとね…良くない事が
「レテウス様〜!大変!大変!」
(起きるんだね)
うん、因みにフラグって言うんだ…覚えといて…
(分かった)
連れて行かれた先にはブローガスをはじめとした木こり達の姿が在った。
「ブローガスどうしたの?」
「そいつがですねぇ。こちらがこの木の精霊様みたいなんですが…」
「お前らこの木を切る気か!」
「この木は計画に入ってるの?」
切る木々に関しては木こり達に一任していた。こうやってこの世界には長い年月を掛けて精霊に昇華する存在が居るからだ。
木こり達はそういった精霊たちを大切に扱ってくれる。木々を切るがそれは暮らしの為必要以上に取ることを良しとしない。
自分のやっている事に心が揺らぐ、鉄を作ると言う事は多くの木を倒さざるを得ない…
「いえこのオークは予定にはないです。予定にはなかったのですが、話を聞いてもらえなくてですね。」
まあ目も前で木を切ってる人間が切りません、と言った所でこれほど信憑性の無い話は…
「ねえ、ブローガスこの精霊様はこの木の精霊様だって言ったんだよね」
「はい、確かに」
と言う事なのだが…尻尾が揺れてる。 ついでに言うと若い…古木の精霊には思えない。
「失礼ですが精霊様は本当にこの木の精霊様なのですか?」
(にいに、妖精さんにそんな風に話して平気?)
多分、この子この木の精霊様じゃないと思うんだよね。
「そ、そうだ!」
オークの木はには大きなウロ…
「貴方様は木の精霊様ではありませんね」
「何を言う俺はドラだ」
ドラというのはオークを守護する精霊の総称だったと思うけど、それなら尚更あべこべだ、だって守護者が本人を名乗っているのだから
「なんの妖精様かは分かりませんがお取引を…少なくとも身分を偽っての陳情はお受け出来ません」
この国では精霊に断りを入れて土地に手をつけるのが習わし、それを破るつもりはないけど、案外精霊、妖精は強かでずる賢かったりするのだ。
「本当はなんの妖精様なのですか?話はそれからですよ。」
「…お、俺は…」
たじろぐけど言う気はないらしい、ならば…
「ブローガス!斧、斧貸して」
「は、はい」
「答えないのなら切る」
ぐぬぬ、この身体では斧を振りかぶるので精一杯、速く喋ってくれ…腕が持たん
「ここは俺の家なんだぁぁぁ!」
叫ぶと同時に変身が解けて狐に戻った。
(狐さんだ!)
やっぱりね、それもまだ子供みたいだね。仔狐と言うほど小さくもないが大人でもないなぁ
斧を下ろし
「話を聞いてくれれば悪い様には…」
はらりと赤みを帯びた葉が舞い落ちた。
オークの木を見上げれば夏だと言うのに赤く染まった葉でいっぱいのオークの木、木こり達の顔も暗い…
(にいに、この木夏なのに赤いよ)
枯れ始めてる…のか?
「このままだと、妖精様も一緒に潰れっちまうと説得しとるんですが、頑として言う事を聞いてくれんのでさぁ」
そうか、それで…木こり達は揉めたのか、さてどうしたものか
「呪ってやる、この木を切ったら貴様ら全員呪ってやる」
寒気が走る。呪うというのはどうやら嘘じゃない様だが、このままだと狐も死んでしまうかもしれない…
「精霊様、申し訳ないけど聞いてやれない。出来れば恨むのは俺だけにしてくれないかい?」
「お前何を言って」
俺は、今度は魔力を込めて斧を振るう。
やはり腐った特有の軽い手応えだった
「やめろ!呪ってやる、呪ってやるからな」
狐が必死に叫ぶが聞いてやる事は出来ない。
だって聞こえてしまったから
切ってくれ…と
オークの木の声が聞こえたんだ。
とっくに巣立ちの時は過ぎたと、少し切なくて優しい声だった。
「貴方…お前はとっとと巣立てってさ」
「な、なんでお前が、そんな事知ってるんだ。」
「俺じゃない、この木が言ったんだ。」
魔力が多いからなのか、妖狼の力のお陰なのかわからないが木の声が聞こえたのは初めてだった。
樹齢は一体どれだけになるのかもわからない巨木がなけなしの命を使ってまで伝えてくれたのだ、どちらの声を聞けと言われれば俺は巨木の声を聞く
魔力を使ったとは言え、大木とは思えない脆さであっという間に倒れてしまう。大人の木こり達でも簡単に切り倒せただろう。
狐は泣きながら走って行ってしまった。困ったな、呪いは俺だけにしておいて欲しいんだけど。
とりあえず木こり達の仕事は呪いも考慮して中止、しばらくはみんなの様子を見る事にしたのだが、結局翌日には再開した。
夢を見たから
あのオークの木の元で育つ狐の夢、暖かい気持ちはオークの木の心か、すくすくと育つ狐を見守りながら無理をしていた様だ、寿命を推して巣立つ迄堪えていたのか…
これで心置きなく逝ける…ありがとう人の子よ
そうか、それは良かった…
すまんが人の子よもう一つだけ、我儘を聞いては貰えぬか
それは一体…
翌日、オークの切り株には季節外れの小さなひこばえ…芽が生えていたのだった
「散々世話してやったのだから、今度はお前が世話をしろってさ」
目を腫らした狐に伝言を伝えてやった
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