49.5:多忙を極める開拓村と新しい暮らし(SIDE:シヴァン)
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樽職人ラグナルの下へはエヴァン家だけでなくローデル家からの受注も舞い込み、木工職人コルマックは箱作りの増産、それに加えてタイカン湖でクレェターが使う小舟造りと大忙し、木こりのブローガスは来年に向けた木材の切り出しに勤しんでいた。
その頃、子守として先に入植していたシヴァンも子供達が手を離れ、自分の赤子の世話に専念することが出来ていた。
つくづく不思議な村だと思う。海は無いが然程土地に違いがある様には見えず、ここからカウトールで住んでいた村迄はそこまで離れているとも思えない。
だと言うのに取れる野菜はどれも大きく元気に育つ。おかげで洞窟で待機していた皆誰も欠けることなく冬を乗り切れた。
「あ〜う」
シヴァンの子、ウーナが声を上げる
「はいはい、おっぱいね」
娘に乳を与えながら、シヴァンは今ここに居られる幸せを噛みしめ、幸せだと思えば思うほど涙がこぼれ落ち、ここに居ない亡き夫を想う
夫は羊飼い、羊を奪われ抗議した…たったそれだけの事で命を奪われた、黙って羊を献上しても死、抗議をしても死、どうすれば良かったのか?
「シヴァンさん居ます?」
「は~い、今行きます」
涙を拭き乳をあげたまま立ち上がり、嘆いている時間さえまともに与えぬこの忙しさにシヴァンは感謝する。
——————
今日は村人総出でキルで春季埋葬が執り行われた、亡くなったのは五名、こんな言い方をしてはいけないと思うがシヴァン達、入植組からすれば少ないと思った。
入植組から亡くなったのは老婆が一名だけ、年々寒さが増しカウトールに居たころも毎年七・八名は亡くなり老人と若年者、特に赤子の死が多かった。
この冬を乗り切れなかった者は老人だけ…私たちが来たせいで…ともっと責められるものだと思っていたがそんな事はなかった、若者が亡くなっていたら違ったのかもしれない、不謹慎かもしれないけれど入植組で胸をなでおろしたのは私だけではない筈だ
運が良かっただけ…とは思えない、そう思わずにはいられないのは村での食事を考えれば当然であった、二十名もの人間が増えたというのに冬の間、毎日のように食事が有るというのは奇跡に近い筈なのに食事が無い日は一日もなかった
後から入植した洞窟組からは「クラウ様のおかげだ」と、クラウ様とはレテウス様が従える妖狼様だとは知ってはいるが何を持ってクラウ様のお陰なのか、聞いてみると冬の間はほぼ毎日洞窟に来て食料を獲ってきてくれたというのだから信じられない
他にも夜も居てくれたお陰で獣が寄ってくることもなかったという、そう聞かされればクラウ様は神獣様だと崇めたくもなるし、そんな神獣様を従え我らを救ったレテウス様は精霊様の使い様なのではないかと思いたくなるものだ
しかし当のレテウス様は精霊様の使いとお呼ばれなるのを拒んだ、何故と思った私たちに村人が教えてくれたのは『妖精の取り替え子』として本家を追い出されたというではないか、そう聞かされればもう誰も精霊様のお使いなどと呼べなかった、ただただお労しやと思うのみ。
「これ大麦じゃん!発芽してる!」
そんなレテウス様が殊の外お喜びになられたのが、カウトールの開拓村では発芽しなかった大麦の種だった、氏族長のムーボ様が持ってきた種だったが私たちの村で芽吹くことはなかった種
洞窟という環境が芽吹かせたのか、それともクラウ様とソラス様のご両親の墓が種にお力を授けてくださったのか私たちには分からない。
芽吹いたのはたった二十株かそこら。
だというのにお喜びになるレテウス様の笑顔は普段の冷静なレテウス様ではなく、歳相応で可愛らしいものだった。
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