48:大氏族ローデル家(SIDE:ドナルド・モール・ローデル)
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エヴァン家の暗い広間とは違い光が十分に取り込める大きな窓と明るい壁、天井も高く大きさは三倍はあろうかというイグサの敷き詰められた大広間
それもその筈、大氏族でありながら王から伯の称号を授かった貴族でもあるローデル家では氏族と言ってもそれほどの差がある存在なのだ
サーロンがたった二人の護衛を連れて入場すれば角の取れた柔らかい言葉が掛かる
「サーロン殿一年振りだな。息災であったか」
「一年ぶりですね。そちらも息災のようで何よりです。ドナルド伯爵殿」
接見の席には中小の氏族を束ねるドナルド・モール・ローデル
その息子ケファー・ベグ・ローデル
ケファーの側近としてアンガス・ドゥ・エヴァンとカウトール家嫡男ヴァドゥーガル・ドゥ・カウトール
それと警護のものを5人
旧知の仲であるサーロンの為に息子のアンガスを置いたのだが…裏目だった様だサーロンの表情は険しい
こちらとしては義兄弟に久しぶりに息子と会えたことを喜んで欲しかったのだが…
物事は想いとは別物なのだとつくづく思い知らされる
「…ところで早速で悪いのだが少々苦情が入っておってな、タイカン湖の事なのだが、獲り過ぎではないか?」
「ええ、その事についてお話させていただこうと思っておったところです。」
しらばっくれるかと思ったが流石は我がローデル家で共に育った男、真正面から来るか
一体何を仕掛けてくるのかとドナルドの口角が不敵に上がる
「まず最初に申しておきたいのですが、我々エヴァン家はタイカン湖及び沿岸での漁業を行う許可をいただきたいのです」
「こいつはまた大きく出たな、それは今回の件と関係があると」
「勿論」
手袋をはめたサーロンが護衛から小さな木箱を受け取る、ずいぶんと凝った意匠の箱だ
「こちらです」
そう言って見せた箱の中身は
「牡蠣殻ではないか、我が領で採ってゴミを持ってくるとはこれは何の冗談だ?」
「冗談などではありませぬ。その証拠を今からお見せしましょう、水を少々いただけますかな」
「ふん、良かろう」
どうやらふざけているわけではないらしい、もう少し茶番に付き合ってやろうではないか
「では」
たかが牡蠣殻にぎこちなく水を掛けるサーロン、なにを、ん?
牡蠣殻は息でもしているかの様に殻の隙間から小さな気泡を放ちしばらくするとぱきりと殻の一部が崩れた
「なるほど、面白いな…だがそれだけだ」
だから何だで終わる話だが、それだけのはずがない裏がある。サーロンとはそういう男だ
「これが恵みでございます。」
「言っている意味がわからんぞ。」
「成果をお見せいたしますので、樽をこの場にお持ちしても」
「もったいぶりおって。お前の悪いところだぞ、早くその成果とやらをもってこい」
サーロンは護衛に顎で合図を送ると広間に樽が持ち込まれる
「ほう」
思わず感嘆の声が漏れた。
凝った意匠の家紋入りの樽に目を奪われる。そう言えば先程の小さな木箱もそうであった。こやつ腕の良い職人を手に入れたな…しかしどこから…
「こちらが成果でございます。」
サーロンが樽から取り出したのは…
「ケールではないか…意匠を凝らした樽からケールとは拍子抜け…デカい、いや大き過ぎないか」
自分の知るケール…我が領で取れる夏物のケールよりも大きい、痩せたエヴァン家の土でどうやってこれを…
「ですから成果なのですよ。ドナルド伯爵、こちらのケールは先程の水を掛けた牡蠣殻を用いて育てたものなのです。」
「偶々ではないのか?」
ニコリと笑うサーロン
そうだった、こいつはいつもこうやって言葉を引き出させでてから答えを持ってくる嫌らしいやつだった
次々と樽から出てくるデカいケール
「ちなみにこちらが牡蠣殻を使っていない畑で取れたものでございます。」
小さい…いやこれが普通なのだ。してやったりの顔で俺にケールを見せつけるサーロン
腹の立つ顔しやがって
「わかったわかった。魅力的な話だがその様な採り方を続けていれば牡蠣はなくなる。それが解らぬお前でもなかろう」
「だからこその養殖なのです。」
「養殖?意味がわからん。魚を穫るでもなく貝の養殖など聞いたこともないわ。さてはどこぞの吟遊詩人にでも謀られおったな!」
サーロンという男はこんな大胆な賭けに出る男ではなかった
父親の怒気をはらんだ声にビクリと肩をすくめるケファー
「謀られた…ですか、そうですね…そうかも知れませんが、作物が大きく育つ…この事実を知れば遅かれ早かれ枯渇する様な事態が起きましょう。そうなってからでは遅いと思いませぬか?」
サーロンの言う通り後手に回れば、火の気のない煙突どころか家ごと煙突を奪われ冬には一族もろとも凍てつく骸になりかねん
「獅子は我らに微笑むと思うか?」
「噂では獅子は霧の向こうどころか海の向こうだとわざわざ手紙まで作って送りつけたのはお前ではないか。分かりづらくて手を焼いたぞ」
手紙の真の意味を理解しておったか、高価なパイアペルを使った甲斐があるというものだ
エヴァン家に届いたカウトール家のクリーチの手打ちの書状、表向きはカウトールからのものだが実際には俺が書き密偵に届けさせたものだ
当のカウトール家当主ムーボに事情を聞こうと呼び出してみても、血の十字架を起こす気どころか血の気の失せた顔で庇護を求めるばかりでまともな状態ではなかった
このクソ忙しいときに迷惑な話だったが『誰の得にもならない風は、よっぽど悪い風』とは良く言ったもの、この機を使ってサーロンに次の王の情報を送ったのだ
だが…
ドナルドはちらりとヴァドゥーガルを見る、わざわざカウトールの次期当主の居る場で話すことでもなかろう
「判った。だがこのままでは成功してもお前たちエヴァン家が得をするだけで我がローデル家に得がない…成功の暁にはどれほどの見返りが有る?最低でも取れた牡蠣の半分…七割は貢いで貰わねばなるまい」
さあ、どう出る少々意地が悪いが、養殖とやらに掛ける覚悟を見せてみろ
「獲れた牡蠣は我がエヴァン家の物とする。一枚も貢ぐつもりはない」
サーロンは淀み無く言い切った
どんなに意味を咀嚼しようとも到底、友を、義兄弟を、庇得るものではなかった
抑えようにも血が怒りの感情が激ってしまう
警護の者たちも動揺が広がりかけ…広間に緊張が走る
「貴様…舐めるなよ。身の程をわきまえろ!里子の好で優しくすればつけあがるのも大概に」
「その代わり、牡蠣養殖の技術を献上する。」
立ち上がりかけた身体が止まる
「な!…今なんと…」
「全て、包み隠さず養殖に纏わる全てだ!」
それではエヴァン家の利益も家の名誉も数年しか得られぬではないか…技術を手に入れてしまえば、お前…エヴァン家では我がローデル家に太刀打ちできぬことくらい判っておるであろう
サーロンよ貴様何を考えている。
何がこの男をここまで変えたのだ…眼の前にいる漢は自分の知る友ではなかった
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