34:優しさの呪い(SIDE:ソーサ&レテウス)
作品自体が30話に近くなってきたので本文の修正、章編成、文字数の多すぎる回の分割等々を1週間ほど掛けて行いました。
又、『幼少期10:黄金時代の終焉』(EP11)の後に
新規エピソード
『幼少期10.5:ロマウバリウク(SIDE:ディドロワルド1世)』
を割り込み投稿にて投稿してあります。主人公たちを取り巻く環境を知る一助になるEPですので読んでいただければと思います。
もっと皆さんに読んでいただきたいと思ってるので『ブクマ・評価ポイント★・リアクション』どれでも良いのでポチッとワンクリックよろしくお願いします(人´∀`o)
「いい!にいちゃんが出ておいでって言うまで絶対に出ちゃだめだ喋ってもだめ、判った?」
お兄ちゃんもお父さんもお母さんも顔が見れるのはいつもそこまで、あとは真っ暗な闇で何も見えなくなって
聞こえてくるのは悪い妖精たちの声だけ
感じるのは凍える冷たい水だけ
おにいちゃん、出ておいでって言ってよ!もう喋っていいよって言って、逢いたい…逢いたいよ、おにいちゃん
おとぉさぁん、あかぁさぁぁん、なんで誰も返事してくれないの…やだよぉうぅぅぅ
べろん
ゆ…め?
ソラスちゃんが私の頬を舐めてた、いつもの夢といつもの涙…
ソラスの胸元に顔を埋めぎゅっとうずくまるソーサをソラスも抱きかかえるようにして包み込む
ここだけがソーサが安らげる場所だった、それでも夢は容赦なくソーサに入り込む、真っ暗で…冷たくて…怖い声だけが響く場所
ソーサはこの家に来てからも喋らなかった、おにいちゃんが喋っていいって言うまでは…喋っちゃたらもうお兄ちゃんが消えちゃう、怖い、最後の約束を頑なに守ることで彼女は繋がっていたかった
ソラスちゃん?
のっそりと、いやゆっくりと立ち上がる姿は見るものが居たのならソラスがソーサを傷つけないように怖がらせないように気遣ったいると判ったことだろう
待ってソラス、何処へ行くの?待って
ソラスちゃんは振り向き穏やかな顔でソーサを見るが立ち止まってはくれない
心細くなって仕方なくついて行く
ソラスちゃんの行く先にはあの男の子、村で一番偉い男の子…優しくしてくれるけど、この男の子は怖くて近づきたくない、なぜか大人の人みたいで怖いの
「ソーサ、行って帰ってくるだけでいいんだ、無理に喋らなくても、手伝わなくてもいいから」
男の子は洗濯に行けっていう、おばさんとソラスちゃんと一緒でいいからって…怖い
でも逆らったらここから追い出されちゃうかも知れない…いやだソラスちゃんが居ないとわたしどうしたらいいの?
「しゃべらなくても、おてつだいできなくてもいいって言われたもん。行ってかえってくるだけだもん」
ソーサは怖いのを我慢して、首を縦に振った
叔母さんがそっと撫でてくれて、ソラスちゃんが頬を舐めてくれて…少しだけ頑張れる気がしたの
鍛冶屋さんへ行く途中もずっと手を握ってくれたおばさん、ソラスちゃんもぴったりくっついて歩いてくれるだいじょうぶだいじょうぶ…
行ってかえってくるだけ、行ってかえってくるだけ…ソーサは呪いのように心のなかで唱え続けて歩く
鍛冶屋に付くと信じられないくらい人が多くて足が震え、誰とも目を合わせられないくらい恐怖を感じてて体が動かない
手を握ってもらってるのに…ソラスちゃんが居るのに
ゆらりゆらり気嵐が立ち登り前も見えない河原を進めば
「おっと!ごめんよ」
白い靄のなから突然現れた男にソーサの肩がビクリと跳ね上がる
我慢していた涙がこみ上げ…
「はいはい、みんな次は松ヤニ取りに行くよ集まって~」
そう言って誰かが手を叩くと男の人達があっという間に森に入っていった
いつの間にか息が上がっていたソーサをシェーナが抱き上げ抱きしめる
「………こ……て…」
「いいの、無理して話さなくていいのよ」
話さなくていいという言葉がソーサを安堵させる
話したら…喋っちゃったら、お兄ちゃんともう逢えなくなる…
嫌いだ!あの男の子が嫌いなんでほっといてくれないの!
「わあぁぁぁ~!」
あの女の子は…
ソーサが女の子の名を思い出すよりも早く眼の前を七色の虹が水のように流れて舞った
えっ
虹の水の正体はソーサよりも小さな炎を纏った空飛ぶ精霊様
彼らが宙を翔けるたびにパチパチと小さな音を立てて虹が生まれ、おとぎ話のドラゴンの尾の様に虹が尾を引いて流れてゆく
綺麗……温かい…
わ~わ~きゃあきゃあ自由気ままに宙を舞う精霊様たちはーー
どぼん ジュウゥゥゥ ポコポコ…ボコボコボコ
洗濯場の湯に飛び込み湯を沸騰させてしまう
「ジャグラジャグラ~」
「精霊様や、もちっと加減してくだされ」
熱くなりすぎた洗濯場の湯に樋を傾け川の水で湯加減を調整する村の女たち
「ごめんごめ~ん」
さっきまでゴボゴボと音を立てて湯を沸かしていた精霊様たちは力を抑えているのかもうゴボゴボと音を立てることはなくなった
一人の精霊様がソーサと目があった
「あなた辛そうね」
女の子のような精霊がソーサに声を掛けた
「…な……んで…」
「声も出ないなんて、よっぽど辛い思いをしたんだね、可哀想に」
「そんなに辛いなら僕たちの国に連れて行ってあげようか、きっと楽しいよ」
「………」
ソーサの気持ちなどお構いなしの無邪気な精霊様たちの言葉が、水瓶の中で聞いた声がフラッシュバックする
ーーーーーー
「どうかこの子だけはお助け下さい!たった一人の息子なの」
お兄ちゃんを助けて欲しいと懇願するお母さんの声
「そんなのどうでもいいんだよ」
カチャリ
「ーーーぐっ…うぅ…」
「お母さん!このやろーぐぅ…」
「うるせえぞ、ガキ」
ソーサの隠れた水瓶が揺れる、出掛った悲鳴を両手で抑え必死にこらえた
「おいおい!女殺しちまったのかよ、勿体ねぇの」
「うるせぇな、てめぇはここに何しにきたのか解ってねぇ、仕事しねぇんならてめぇも殺しちまうぞ」
「ちっ…悪かったよ」
言葉の意味が違っても、相手の気持ちを考えていない身勝手さは同じだった
理解した瞬間、ソーサの目に移る微笑む精霊様は恐ろしい物に変わってしまった、そこに居るのは自分たち人の理とは違う世界で生きる獣と変わらない生き物
ーーーーーー
「ねぇ行こうよ~、ぎゃっ!」
ソーサに触れた精霊が一瞬だけ醜い表情を見せた
「いったぁーーい」
「大丈夫?」
「…………」
「……ご…」
「痛かったぁ~、きっとあの子の入れ知恵ね、抜け目のない子、まあいいわ」
ケロッと何事も無かったように振る舞う精霊様たちに現実とは違う恐怖を覚えたソーサはソラスの後ろに隠れソラスもまた精霊たちに立ち塞がった
グゥゥゥ
「そんなに怒ること無いじゃないか」
男の子の精霊は逆にソラスを非難する
その態度にソーサは思った
優しいんじゃない…本当は私のことなんてどうでもいいんだ…
あれほど意地悪で優しくないと思っていたレテウスの顔がソーサの脳裏に浮かぶ
首から下げていた馬蹄をギュッと握りしめる、お熱で外に出れないのに私を守ろうとしてくれた子、ソラスちゃんを一緒に行かせてくれた子
思い出してみれば、今日ここに行ってと言われたこと以外、ソーサが嫌がることをあの子からされた覚えはなかった…子供なのに大人みたいで勝手に怖いとソーサが思っていただけだ
洗濯を終えた帰り道、シェーナが
「レテウスの言う通り馬蹄を身に着けておいて正解だったわね。周りの子供達も何かしら鉄を付けていたし、きっとあの子心配して先回りしていたんだわ」
こくりとソーサは頷いた
ソーサはシェーナの声を聞きながら考える。あの子は…あの人は私が思うような怖い人じゃないのかもしれない…
「本家でお勉強したのかフォークに教えてもらったのか分からないけど、頭が良すぎるのよ」
もっと聞きたい気持ちがソーサの手を動かした、裾をつままれたシェーナはくすりと笑うと得意げに息子の話を続けた
「あの子ねぇ、最初は怖がられてたの、なんて言っても私たちの一番偉い人の子だったからね。怒らせたらどんなひどい目に会うんじゃないかって」
ーー 皆私と同じだったんだ ーー
「でもあの子はそんな事しなかった、むしろ他の子に混じって畑のお手伝いしたり、冷たい水でお洗濯も手伝ったり」
「そんなあの子が初めて私とデイヴィッドが、それはもうカンカンになって怒るようなことをしたのよ…何だと思う?」
ソーサには想像もできなくてただ首を横に振った
「ヨゾとマザ判るわよね?」
こくこく
「今じゃ頼れるいい子たちしてるけど、遊んでばっかりで畑仕事はサボるのは当たり前、いっつも頭にげんこつ落とされるような悪ガキでね」
ソーサは自分の知る二人と違いすぎて眼を丸くする
「そんな二人が山に行って帰れなくなったのよ、後で聞いたらレテウスを困らせてやろうと思ってやったって」
「村人総出でも見つからなかったのに、あの子ったら一人でそれも夜に探しに行って見つけちゃったのよ…ちなみに今あなたが乗せてもらってるソラスもクラウもあの子がその時に拾ってきたのよ」
信じられなくてソラスの顔を覗き見れば
ばうっ!
っとまるで『そうよ!』とでも言っている様にソラスが一声吠えた
「いつも上手く立ち回るのに、怒られると解っていても誰かを助ける為なら躊躇わない…そんな自慢の息子なの、だから仲良くしてあげてほしい…」
優しい笑顔がソーサに降り注いだ、精霊様の笑顔と違う、誰かを想う笑顔…心が暖かくなる笑顔だった
「それとね…」
シェーナが今まで黙っていた事実をソーサに告げた
ーーーーーー
「そっか、シェーナ母さん話しちゃったんだ…」
「ありがとう…レテウスお兄ちゃん」
「うん」
俺がソーサの家族の仇を討ったこと…
「よく頑張ったね」
ああ、この子はもうとっくに喋れるようになってたんだ、それでも我慢していた理由は…喋ることはギルバートとの約束を破ること…ギルバートとの繋がりがキレてしまいそうで、この子はそれが怖かったんだ
ソーサの頭を優しく撫でてやる
「夢…」
「夢?怖い夢?」
こくっと頷き、話し始めるソーサ
「夢のおかあさん…わたし…居ないの、お兄ちゃんだけなの……う、うぇぇぇぇん」
それはきっと…
「ねえソーサ」
「?」
「ソーサはソラスを守るためなら何でも出来る?」
「うん…」
「じゃあ、守るために嘘もつける?」
「…つく、ぜったい守るもん」
「良かったねソラス」
クゥ~アン!
クゥ~ォン!
「ソラスもクラウもソーサのこと守るってさ」
「お声判るの?クラウも?」
「もちろんさ、ソラスもクラウもずっと一緒だもん」
「ずっと…いっしょ…」
「ソーサのお母さんも一緒だったんじゃないかな?今のソーサと」
もう一度頭を撫でて涙を拭ってあげる
「…お母さんも…お兄ちゃんもお父さんも…私のこと………嫌いじゃやなかった?」
「大好きだった」
ソーサのお口が歪み
「私も大好き、大好きだったの!」
せっかく拭った涙がまたこぼれ落ちた…でも涙の意味はきっと違う
彼女が眠りにつくまで俺は背中を擦り続けた、もう悲しい夢を見ないようにと祈りながら…
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