33:たまにはのんびりエディンバラ(精神世界)後編
元々は一話だったのですが7000文字は流石に読みづらいかなと思い前後編に分けました
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レテウス君って俺の知る限りこっちの世界じゃ食事は必要ないんだよな…じゃなきゃ餓死してる。ましてや現代のスイーツなんて食べた事あるわけ無いわけで
「え~、もうちょっとでお城だよ」
「ちょっとだからさ」
「うん、本当にちょっとだけだよ」
上がるべき階段をスルーしてもらい坂道を下りお目当てのお店へ
普段なら観光客の雑踏とバグパイパーの音色で騒がしい町並みが、音が聞こえないと知らない通りに来たみたいな錯覚を感じて、レテウス君はこんな音のない異世界ににいるのだと思い知らされる
果たして俺のお気に入りの店を気に入ってくれるだろうか
「これって食べものなの?…」
もっと喜んでくれるかと思ったのだけど、ショーウィンドに写ったレテウス君の顔はむしろ怖がってる…色とりどりの料理をあまり見たことがないからだろうか?
「中に入ろうか」
「う、うん」
「お邪魔します」
「おじゃましま~す」
中には長いガラス製のショーケースに並ぶ色とりどりのスイーツと美味しそうなセイボリー・ブレッド、ペストリーにロールにパスティーと盛り沢山だ
こっちにはマカロンまで置いてある、久しぶりに来れたけど品揃え充実してるねぇ
「こ、これ全部食べ物なの?にいに多すぎるよ」
「別に全部食べようってわけじゃないから落ち着いて」
そうレテウス君に言っていて、急に居心地の悪さが湧いてくる…これってやっぱり無銭飲食…いやいやここ精神世界だから!自分に言い聞かせて匂いを嗅ぐ
見た目は問題ないけど腐ってないよね、精神世界でも油断はできない
うん大丈夫そう、やはり精神世界だから物理を無視してると言うか世の理から外れていると言ったほうが合っているっぽいな
スイーツとパスティーをレテウス君に選ばせる
「自分で取っていいの?」
「大丈夫…と言うか誰も居ないからね」
「そっか!」
「にいに赤いのは何?」
「それは苺、苺のタルトだよ。味は甘酸っぱくて下の生地にはクリームが付いているから、う~ん何ていうんだろ滑らかで甘い?」
「じゃあそれとこっちは?」
「それはパニーニかなお肉と野菜が一緒に入ったパンとでも言えばいいかな」
別にお金かかってないからとかじゃないけど、二人なのに身体が一つで済むから一個食べても二人で同時に味わえるってのはお得感がある
「じゃあいただこうか、どっちから食べる?」
「お肉が入ってる方!」
やっぱお肉の優先度が高いのか
おとなになってみると軽食だったパニーニもこの身体だとずいぶん大きく見える
パクッ
「ふぁぁぁ~!」
「ああ~」
久しぶりに食べた現代の味に泣きそう
「レテウス君美味しかった?」
「うん、うん!こんなに美味しい食べ物初めて」
良かった、お気に召したみたいだ
ん!んぐっ!
「レテウス君!水!水飲んで!」
「ぷっはぁ~」
「レテウス君…次からしっかり噛んで、細かくしてから食べようねレテウス君が死んじゃったら多分俺も死んじゃうような気がするからさ、ね?」
「ごめんなさぁい」
「分かればよろしい、落ち着いた?落ち着いたら苺タルト食べようか」
「うん…」
ちょっと言い方がキツかっただろうか、でも大切なことだからちゃんと言わないと
「タルト…」
宝石でも見つけたみたいに両手で持ち上げてキラキラした苺タルトを見つめるレテウス君
一口かじり
絶妙な硬さの生地、とろけるクリームと酸味を帯びた甘い苺が口の中でハーモニーを奏でる
「うううぅぅぅぅぅぅぅぅ~」
「うううぅぅぅぅ~」
「「うっま!!」」
声が重なるが、その後はしばらく声も出なかったそれくらい美味しかった、もう一年以上甘味を食べれずにいた俺がこうなんだレテウス君の感動はもっと凄い…
「にいに、ずるい!」
「ええぇっ」
ぷんぷんと怒り出してしまった
「こんなにおいしい食べ物ばっかりあってずるい!」
「それは~…俺の所為では~あはは~」
不条理だけど子供らしい反応に気持ちが癒される
「これからはもっと一緒に色んなところに行こうね」
「絶対だよ!ぜったいだからね!!」
「うん約束だね」
「ご馳走様です。ありがとうございました」
「ごちそうさまです!ありがとうございましたぁ」
食べかすを集めて店のダストボックスに入れて店を後にする
「満足できた?」
「うん、大大大まんぞくだよ!」
「じゃ、お城行こっか」
階段を登りエディンバラ城前の広場に出る、季節が向こうと連動しているのか軍楽祭用の広場を囲むスタンドは置かれていない。良かった祭りの見物にはなくてはならないがあれが有るとちょっと見栄えがね…
「近くで見てもおっきいね!かっこいい!」
ほわぁ~と見惚れているレテウス君
最初の門が近づいて行くと門の上に盾に真っ赤なライオンが描かれたスコットランド王家の紋章『Royal Coat of Arms of Scotland』を見ることが出来る
「にいに、この人たちはだあれ?」
「ああ、この二人は向かって右がサー・ウィリアム・ウォレス、左がキング・ロバート・ザ・ブルースだね」
「きし様と王様なの?」
「うん、そうだねスコットランドの危機を救った大英雄」
「英雄!」
「スコットランドとアスピコット王国はそっくりだから、もしかしたらアスピコットにも二人の様な人が居るかもね」
「本当!?逢いたい!」
「俺も逢ってみたい」
逢えるものなら逢ってみたい、なにせこの二人は俺がスコットランドを好きになる切っ掛けなのだから
今が、スコットランドでいう1286~1287年ならロバート・ザ・ブルースが十一~十二歳、ウィリアム・ウォレスは十七歳前後、レテウス君から見れば年上のお兄さんで二十代の俺から見れば年下の男の子、もし逢えても反応が難しくなりそう
「なん…ぴとも我を…害して、ばつをまぬがるる?ものなし?」
何人も我を害して罰を免るるものなし
これはラテン語の文章、スコットランドの歴史を学ぶのには必須、俺の語学能力をレテウス君が使ったのかな?だとしても
「すごいすごい!レテウス君ラテン語読めるなんて凄い才能だよ」
「格好いい?」
「もちろん」
「えへへ、僕たちの村もこんな大きな街に成れるかな?」
「直ぐにとは行かないけど、俺とレテウス君なら出来るよ」
はにかむれて薄くんにそう返したけど、これは慰めや子供の夢を壊さないための言葉ではない…成れなくては弱小氏族のエヴァン家は滅ぶ、成らなければ行けないのだ
「さ、中へ入ろう。今日は目一杯楽しもう」
「うん!かいせつよろしくお願いします!」
その日は日が暮れるまで『にいにのせかい』を二人で楽しんだ、堰を切ったように
「あれは何?これは何?」
と、はしゃぐレテウス君はわがままを言う普通の4歳の男の子だ、その時やっと俺はレテウス君に我慢を強いていたんだと気づく、元々おとなしい子だなんて都合良く解釈して…ずっと俺の世界に閉じ込められているこの子が、一人ぼっちでさみしくないわけが無いじゃないか
「ねえレテウス君、次はどこ行きたい?」
「次って?お城のこと?」
「そうじゃなくて、次はどんな所行ってみたいかなって?」
人の誰も居ないこの『にいにのせかい』はさみしくて冷たいけれど、『僕らの世界』にはないものが沢山ある
「ここから見える建物でもいいし、図書館の本で見つけた場所でもいい、レテウス君が行ってみたい場所があれば一緒に行こう」
「ほんとう!?」
「ほんとほんと、流石に海を渡った先は厳しいけど行ける所はどんどん行っちゃおう!」
「ぼく、図書館でいっぱい探す!」
レテウス君の手を握ってあげて歩きたいけど一つの体に二つの魂が居る限りそうしてやることは出来ない……でも…もっと、ちゃんと二人で思い出を作っていこう
「…にいに、誰か来たみたいだよ?」
寝ている俺に誰かが触れている感覚が伝わってくる、五感が日に日に共有されていくレテウス君にも判るようだ
「そうだね、今日はここまでにしておこうか」
「うん!一杯行きたい場所探して待ってるね」
「楽しみにしてるよ、じゃあまた向こうで会おう」
ひやっと冷たい感覚を頭に感じる
「……っ…」
声に成らない声の主を見た、ソーサだった
ソーサが俺の熱冷ましのリネンを取り替えてくれていたのだ
目を泳がして逃げるように去ろうとするソーサに声を掛けた
「ソーサ…ありがとう」
「……」
コクリと頷くソーサにもう一言
「喋りたくなったら喋っていいからね、今は無理はしないで」
なんでだろう?俺の言葉を聞いたソーサは去るどころか横になっている俺に抱きついて泣き出してしまった…
なにか思うことが有るんだろう
彼女の頭を優しく撫でる
「…………あ…あの…………ね、わた…わた……し…」
精一杯の声を絞り出し彼女があの時の事を語り始めた
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