29.5:ベン・ニーア消えたすすり泣き(SIDE:シェーナ)
20話突破記念サイドストーリー(短め)
いよいよランキングに載り始めました感謝です
2026/07/04
「日間」異世界転生/転移「ファンタジー」ランキング4~7時294位
「日間」異世界転生/転移「ファンタジー」ランキング11~2時299位
レテウスがまた風邪を引いてしまった。聞けばどうやったのか知らないけど穴にお湯を張ってお風呂というものを作ったみたい、マードック大叔父様も止めるどころか一緒に入ったんだとか…ほんと男って…
落ち着かない荒い呼吸を繰り返し横になるレテウスの額から温まってしまった濡れたリネンを取り冷たいリネンに取り替える
苦しそうな寝顔に心が痛む
レテウスがこの家にやってきた日のことは今でも忘れないし忘れられるものではなかった
この子が我が家に来ると聞かされる前の私は、デイヴィッドへの申し訳なさで押しつぶされそうだった
身籠り、生まれ、そして私たちの元から去っていった…いいえ救ってあげられなかったあの子
「俺に女の気持ちは解らない…だけど、傍にいるから…一生愛して必ず幸せにする」
デイヴィッドは不器用だ、でも解らないと正直に言ってくれて何故か心が救われた
でも精霊様は意地悪だ
それから何年経ってもどれだけ祈っても、捧げ物を欠かさなくても
祈りも捧げ物も、私たちに子を授けてくれなかった
デイヴィッドが愛してくれるから彼の顔を見るのが辛い、だから
「私たち別れましょ…教会に行って理由を付けてもらえば別れられるわ」
「君は一度子を生んだのだからもう気にしなくて良いんだ!俺も気にしたりしてない」
「良くない!私だって、私だって欲しいの!跡取りも何も関係ないこの手で貴方の子を抱きしめたいの」
デイヴィッドは言い返さなかった、約束通りただ黙って泣き崩れる私を抱きしめ続けてくれた
後ろめたくて自分がどんどん自分ではない何かに変わっていく様で怖かった、もしかしたら私はベン・ニーアになってしまうのかな…
そんな時だった
夕餉の時間に彼が真剣な顔で私を見つめて
「兄貴の子の里親になってほしいと言われた」
「次男のレテウスよね、何が有ったの?」
兄の方のアンガスは大氏族ローデル家に里子に出されていると聞いている、それなのに次男をこんななにもない開拓村に里子に出すなんて何か有ったとしか考えられないじゃない
「お前が嫌だというのならあの子には悪いが断ろうと思っている」
「どうして?何か病気にかかったとか…」
「病気ではない、至って元気な子だ」
「それならなおさら変じゃない!」
「落ち着いて聞いてほしい」
気が付くと私は身を乗り出していた。私がお腹を痛めて生んだ子供ではない…でも夫の血も入っている子だ
「実は…」
夫は包み隠さず教えてくれた、レテウスが居なくなり見つけた時は髪が一房ほど白くなっていたこと、おとなしい性格だったレテウスがお付きも付けずに一人で歩き回り、モイラ様とアンガスの間に割って入り殺されかけアンガスがそれを救ったと
「本当に妖精の取り替え子なの?…」
もし本当なのならばモイラ様を非難できない、自分の子が取り替えられてしまったら気が狂ってしまうかもしれない
「それが解らないんだ、レテウス本人はアンガスに会えて真似をしただけだと言っているが…明らかに変わってしまった、それでモイラ様も身籠の身、兄貴は二人を強制的に離さないと危ないと考えて」
「それで私たちなのね」
どうしたら良いんだろう…
「その…レテウスはどんな子なの?」
「賢いな、だが見た目は変わってない、伝承に有るような子供とは思えないような老け顔ではないし大食いでもない、話もちゃんと出来る」
「貴方はどう思っているの?貴方の意見を聞かないと判断できないわ」
そうこれは私たち二人で考えることよ私が良くても貴方が駄目なら…
彼の目がまっすぐ私を見て
「俺は引き取りたいと思っている。同情もあるが俺と同じ血の流れる甥っ子なんだそれに…あの子には何かある」
「何かって?」
彼は首を横に振る
「俺にも解らない…勘でしかないが何かを変えてくれそうな気がするんだ」
「それって良いことよね?」
「勿論だ」
熱くなっているデイヴィッドを見るのは久しぶりね
「貴方がそんなに言うのですものいい子なのね…レテウス…引き取りましょ」
「良いのか俺はお前が嫌なら」
「私を幸せにしてくれるんでしょ?それなら貴方が信じたその子も私を幸せにしてくれる贈り物にきまっているじゃない」
思わず笑みがこぼれる
ぶっきらぼうで不器用で、でも私を愛してくれる貴方を私は信じるの
コンコンっと小さな咳が薄暗い部屋に響いた
思い出に浸っていたところにレテウスの咳で現実に引き戻される、蝋燭一本しかない薄暗い部屋の中で濡らしたリネンを取り額に手を当ててみるとまだ熱い、でも前に風邪を引いたときよりは大丈夫そうね
「まったく、温かいからと言って真冬にお湯に入るもんじゃありません、昔からお湯なんかに入ると毛穴から悪いものが入るって言われているのに…」
ふぅ~と荒い息をレテウスが吐き
「しぇーなおかあ…さん…ごめ…さい」
濡らしたリネンを絞る手が止まる…いま…
理解する前に涙が溢れて流れ落ちていた。今まで一度も…私…
呼ばれなくてもいいと思ってた、この子には本当のお母さんが居るんですもの、そう割り切れているつもりだったのに…
「…う………っ…」
レテウスを起こしてしまわないように口に手を当てて泣く、嬉しいのに、悲しいわけじゃないのに、涙は止まってくれない
もう二度と、誰も、私に向けて言ってくれる言葉じゃないと思ってた、いろんなものがこみ上げて涙は益々溢れてしまう
「しぇーなおかぁさ…ん」
もう一度聞こえた、まるで聞き間違えじゃないよとレテウスが教えてくれているみたいで
涙を拭い絞ったリネンをその小さな額に乗せる
「うん…うん…ちゃんと聞こえたよ、私…お母さんになれたんだね。ありがとうレテウス大好きよ」
リネンを乗せた私の手を火照った小さな手が握った
デイヴィッド、貴方はこの子が何かを変えてくれそうって言ったわよね。それは本当だった、もう手の届かないと思っていた母親に変えてくれたんですもの
シェーナは弱々しくも必死に握る手をしっかりと握り返した
ベン・ニーア(バンシー)日本語で洗濯女の意味
スコットランドやアイルランドの民間伝承では死を予兆して家の前に現れたり、近々死ぬ人が川を通りかかるとすすり泣きながら洗濯をすると言われている女性の精霊(諸説あり)
お産や幼いうちに我が子を亡くした母親の悲しみが強すぎると妖精(幽霊)化するというお話が有ります
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