29:初めてのレンガ作りと露天風呂
「どれくらい時間がかかりそうとか判ります?」
「私たち温めるだけだから判んないの」
希望的観測で精霊様に聞いてみたけど、熱が好きなだけで鍛冶屋じゃないものそりゃそうだよねぇ
そうなるとやっぱり頼れるのはゴブ爺さんの目だけになってしまう…なんとかしたいな
(にいにどうしたの?)
うん、人はね眩しいものを見過ぎ居るとめがわるくなっちゃうんだ
(でもゴブ爺ちゃんずっとこれやってたんでしょ?)
そうなんだけど、これからはもっと眩しい物を見ることになるからなぁ
(お目々に良くない…にいに!図書館でゴブ爺ちゃんのお目々良くしたい)
今までの経験のお陰か図書館の有用性に気づいたようだ、識字も俺の知識を借りるのではなく自分で読めるようになってきている。四歳だと考えればもう天才レベルでしょ
そうだね、今度一緒に調べようね、出来れば防火服も一緒に調べたいね
(うん)
さてと
「ゴブ爺さん、頼んでおいたやつ出来てるよね!」
「…………、何か言ったか?」
精霊様に逢えて嬉しいのは判るけど最低限は働いてもらわないと困る
「枠、わ~~く!」
「ああ…そうじゃったのう、出来ておるわ…」
まだ夢見心地だな、足取りがフラフラしてる
持ってきてもらったのは角材を組み合わせただけの木の型枠だけど流石はゴブ爺さん、四つ用意してもらった型枠には『にいにのせかい』の図書館で読んだ規格と殆ど狂い無く同じに見える
ひ~ふ~み~
なんか後から増えたのかギャラリー増えてる…いつの間にかヨゾとマザまで来てるし
二十八人かちっちゃい子は外すとして~
「みんな~集まって」
体格とか年齢ごとに分けて~
資材の割合は、粘土5:骨材3:石英2だったから
骨材を入れる人と石英入れる人、粘土に粘土を練る係に怪力のマードック大叔父様、型枠に剥離剤として焼いた砂を撒く人、そして空気が残らないようにプレスする人
う~んここに来て粘土を練る場所がないことに気づく、地面の上で直接というわけには行かないし…
「急に黙ってどうしたんだ?」
「え~と地面に触れないように粘土を練りたいんですけど」
「給餌桶では駄目なのか?」
「それです!流石大叔父様」
「どれ、村の者から借りてきてやろう待っておれ」
~~~~~~
大叔父様はできるだけ古い給餌桶を借りて戻ってきてくれた
「一応使われてない物を借りてきたが、ゴブ、一つ新しいのを春までに拵えてやってくれぬか」
「ええ、問題ないですじゃ」
「みんな~準備はい~い~」
(わくわく)
「始め~」
粘土に骨材と石英の粉末が入るとそれを豪快に練る大叔父様、なんか正月の餅つきの搗き手と返し手を一人でやってるような迫力だ、あっという間に練り上がった粘土を切って次の工程に送る子供たち
予め濡らし砂の付いた木枠に粘土を入れて上から押して空気を抜きすり切りで粘土の表面を真っ平らにして型から抜く
これを子供たちが窯から少し離れた位置に作った棚において窯の発する熱で乾燥させる
マードック大叔父様の練るスピードが早すぎるせいか他の皆は汗だくで背中から湯気が出てる、もうちょっとした運動会、天国と地獄の序章でもかかってそうな勢いだ
「よいしょ!」
子どもの一人が掛け声をかけると
「よいしょ~」
「よいしょ~」
あちこちからよいしょの掛け声が出始めて気がつけばそれはリズムに変わり一体感に包まれる
その様子がなんだかおかしくて
「ふふふ…ハハハハハハ」
皆も釣られて笑い出す
「もー!レテウス様~せっかく皆でリズムに乗ってたのにぃ~」
「フゥ~、フゥ~、ごめ…ぷっ」
俺の笑いでテンポを崩された村人から非難の声が上がる、でも皆顔は笑っていて…こんなに腹の底から笑ったのはいつ以来だろう
~~~~~~~
お昼になる頃にはうず高く積まれた生煉瓦を棚に並べ終えた、レテウス君に大学の図書館に行ってもらって調べると通常ならば乾燥まで二~三日は掛かるらしいが今は急ぎたい少し魔法で温めてショートカット、この位置からだと窯側の生煉瓦の乾燥は進むが反対側の乾燥は遅い、だから反対側は俺が魔法で温めるのだ
「レテウス様、おら達は後はどうすればいいだ?」
「う~ん窯が焼き上がるのは明日だろうし、今日はもうやること無いかも」
「んだば、その浴場?の隣にもう一個石で組んだ浴場ってやつを作ってもいいだべか?」
んん?どういうこと
「あのお湯がもったいねえからよ、瓦の石ば取り除いて樋ば使ってあのお湯入れりゃあいいんじゃねえかって、本当はよう、みんなお湯に身体浸けると病気ばなるって聞いてっからよう怖えんだけんどもレテウス様がこんなに一生懸命ぇ作ってる風呂に興味が湧いたがら早く試してみてぇんだ、なぁ」
「おう!おらも入ってみてぇだ、このさみぃ中あのお湯に浸かったら気持ちよさそうでよ」
「入ってみたいみたい」
大人も子供も次々と入ってみたいと言い出した
どう考えても河原に掘った浴場は煉瓦に比べると温度が低くなるけど…待てよ、暖かい風呂とぬるめのお風呂、気分や体調に合わせてお風呂が選べるじゃないか、最悪冷たすぎたら焼いた石を入れればいいんだし…
「よし、皆が良ければ作ってほしい、お願いできる?」
「お願いって…レテウス様おらたちの方がお願いしたんだべ」
そうだった、あははと笑いが起きる
「なんじゃぁわしを除け者か?」
人間重機が割り込んできたからには百人力、事情を話して手伝ってもらおう
「そういうことなら、わしも早く入ってみたいしのう、さっさと作ってしまおう」
やったーと歓声が上がる
河原の石を退けるだけなのであっという間に完成、小川の水を引き込んで水を張り、給湯桶から続く樋を簡易露天風呂に向けて動かし湯船にお湯を注ぐ
暫く経つと湯気が登り始めるが騙されてはいけない、まだ底は絶対冷たい
案の定、木での棒でかき混ぜてみたら全然冷たいし底に沈殿していた物が上がって濁る
結局結構な時間待つことになったけどそれなりに温かいお湯になりお湯も澄んできた
「そろそろ入っても大丈夫かな?一番風呂入ってみたい人~」
「そこは発案者のレテウス様じゃろ」
「僕かぁ~…あっ」
一切の遮蔽物無し…
「いや…皆で入ろうよ…」
晒し者じゃないか、なんで一番風呂とか言っちゃうかな俺の馬鹿
「なんじゃ恥ずかしいのか」
「恥ずかしいに決まってるじゃないですか」
「恥ずかしいもんかのう?」
嫌なものは嫌だ
「ではわしが一番風呂とやらをいただくとしよう」
バッとキルトを脱ぎ捨てマッパになる大叔父様、豪快過ぎる
「えっと、最初にかけ湯して下さい」
桶を渡すと豪快にざっぱぁとお湯を被る大叔父様
「気持ちええのう、まさか真冬に水遊びが出来るとは思わなかったぞ」
村人たちもいそいそと服を脱ぎ始めかけ湯をして風呂に入り始めた、本当は身体洗ってから入ってほしいけどそもそも洗う場所もないし道具もないのだから今回は仕方がない、結局参加者のうち半分が入りたいと言ってくれたがそれでも一度に全員は入れない、入浴は交代制になった
「あったけぇの」
「俺はもちっと熱くても行けるぞ」
「すっげぇきもちいいぜ」
わいわいとそれぞれの感想を言い合う村人たちの顔は緩んでいて気持ちよさそうだ
待っている村人たちもその顔をみてまだかまだかと興奮気味
自分も入ろうと思いかけて留まった…誰もリネン持ってないじゃん
慌てて家で休んでいるクラウとソラスに連絡を取る
< 父なぁ~に >
悪いんだけどリネンを沢山、出来ればうち以外のリネンも借りてきて鍛冶屋まで来てくれない?
< リネンって布? >
そうそう、誰もリネン持ってないのにお風呂入っちゃって
<< わかった >>
村の人には後で謝っておくからお願いね
かくしてリネンが集まったあと、やっとお風呂に入る俺
(にいに、あったかいねぇ~)
そうだね、体を拭くことは有るけど全身お湯に浸かったのはこっち来て初めて、癒されるわあ
「ね~ね~、なんでレテウス様は腰にリネン巻いてるの~」
子供ってたまに気づかなくて良いことを気づくこと有るよな
「なんでもないよ、おしゃれでしょ?」
「全然?レテウス様変なの~」
子供ってたまに残酷なくらい正直だよな
周りには女の子もいるんだし、恥じらいを持とうよ…
「ええ加減観念せい」
「ちょっ」
人のリネン剥ぎ取ってうししと笑う大叔父様
「「「きゃぁ~」」」
女の子たちの黄色い歓声が上がる
他の男の子もフルチンなのになんで俺だけ?嗚呼…一応氏族長の息子だしそういうとして見てる子も居るってことか、しかしレテウス君はまだ四歳、俺の感覚では早すぎると思うんだ…
とりあえず、どっちの風呂もパーテーションなり囲うなりして丸見えにならないようにしなきゃ、このままではレテウス君の貞操の危機になってしまう
(ていそう?)
うん、なんでもないよ~
このお風呂は給湯桶のお湯と比べるとぬるいけどこれはこれでありだな、子供でもストレスフリーで入れてるし温水プール位の感覚と言ってもいい
しかし窯とセットということは窯に火が入らない時は使えないわけで日常的に使うにはコストかかり過ぎ、これは給湯桶の下に専用の燃焼室使えばコスパは上がりそうだけど、風呂のためだけに燃やすこと自体がもったいない
「あっ!」
手のひらにトンと拳を当てる、この大きな窯にピッタリのやつが有るじゃないか、まあ当分先になるけどこれは絶対にやりたい
「ニヤニヤしおって気持ち悪いのう」
やべっ、見られてた
ぽんっと大きな手が俺の頭に乗せられる
「これでお前が何を作りたかったのか解った、この風呂というやつは気持ちがいい、レテウス感謝するぞ…ちとぬるいのが問題だが」
「ご心配なく!煉瓦製のお風呂はもっともっとあったかい、いえ熱いですから」
大叔父様はぐりぐりと頭を撫でると
「そりゃあ楽しみじゃのう、がっははは」
大叔父様が居なければこんなに早く進まなかったのだ十分堪能してもらないないとね
「へくちっ」
長湯しすぎたかなそろそろ上がろう
「れちぇうしゅしゃま~」
服を着直して居るとレテウス君より小さな女の子に声をかけられた
「あのねあにょね、おねぇちゃんもはいりちゃいんだけどはじゅかしいって!」
「そうだね女の子たちも入れるように外から見えないようにするから、お姉ちゃんに伝えといてくれる?」
「わかっちゃ~じゃあねぇ~」
手を振りながらぱたぱたと走っていった女の子
そうだよなぁ、俺も恥ずかしかったんだから女の子にはハードルが高すぎる。当分は男性が入れる時間と女性が入れる時間で分けるしかないとして、将来的には男湯と女湯を作らないと…でもそうすると湯船が増えるから熱源がもっと必要で…駄目だ今考えても解決するのはかなり先になる先送りするしか無いな
「へくちっ」
湯冷めしたかな、窯を見ればゴブ爺さんとカラムがじっと火の様子を小窓から見ていた
「なんかごめんなさい」
二人に近づいて声をかけた
「なんじゃレテ坊いきなり」
「いや僕たちだけ楽しんじゃったから」
「そんなことか、わしは精霊様が来てくれたことに感謝したいくらいじゃ。だから気にせんでいいそれに儂らも後で試してみるから心配するな」
「入ってくれるの?」
「どいつもこいつもあんな幸せそうな顔しとれば入ってみたくもなるわ」
窯の火から目を離さないゴブ爺さんの代わりにカラムの顔を見れば笑顔が返ってきた
たしかに皆笑顔だったこんな厳しい環境なのに…ズズッちょっと感極まっちゃいそうで鼻をすする
「今日はもう何もないから帰って暖かくするんじゃぞ」
「うんありがとうゴブ爺さん、カラム」
露天風呂を見れば交代組と…大叔父様がまだ入ってる
まあ楽しそうだしいっか、使い終わったリネンをヨゾ達と集めて寒いけど小川の水で洗う
「ちべだい…」
「レテウス様、せっかくあったまったのになんで小川の水で洗うんです」
ヨゾがそんな事言うけど俺だって冷たい水で洗いたくないさ、でも人の浸かったお湯で洗うのはなんかやだった、洗濯機でお風呂の残り湯を使うことには抵抗無いんだけど…
「う~ん衛生観念?」
「レテウス様って難しい言葉沢山知ってますよね。因みにどんな意味ですか?」
「汚れとかを気にして病気にならないようにすること?かな」
たぶん…
「俺達の家よりお湯の方がよっぽど綺麗じゃないですか?」
うっ…そう言われると言い返せない、マザのツッコミが鋭くなってきているような気がする
あっ…なんか思いつきそう
「お湯で洗えればいいのに…」
マザのその一言でぼんやりとしていた物が固まった
「そうだよ!村の洗い物ここですればいいんだよ!」
何もお湯はお風呂だけじゃなくてもいいじゃん
「毎日は使えないけど人の入ってない時間帯は洗濯場にしちゃえばいい」
俺の声が大きかったからかみんなに振り向かれてしまった
「ま~た、レテウス様が面白いこと思いついたぞ」
「でもこの温かさで洗えるんなら母ちゃんも喜ぶだろうなぁ、レテウス様よ、この事母ちゃんに言ってやってもいいか?」
勿論である
「明日の夕方まではお湯が暖かいと思うそれを過ぎるとだんだん冷たくなるからね、そこだけ注意してね」
「おう、レテウス様ありがとよ、うちもかかあに言っておくわ」
「あにょねぇ~あちきはおねぇちゃんとくる~」
「妹もこう言ってますし渡しも母を連れて来ますね」
さっきの女の子がお姉ちゃんと手を握りながら帰り際にそう言ってくれた
今はまだ魔法に頼らないと色々足りない村だけど、いずれはこの国有数の都市にしてみせるからね
「へくちっ」
格好いい決意とは裏腹にレテウスは鼻水を垂らしていた




