27:冬の楽しみといえば
弓を構えマードック大叔父様に言われた標的を風魔法を纏った矢で射る、集中したいのだが俺の弓を取りに行ったフォークの息切れがうるさい…取ってきてくれたから文句は言えないんだけどね
ヒュッ カンッ
「んほぉ…流石は…レテ…ウスさ…」
息を切らしてぜいぜい言ってるのに褒めなくていいから…なんか卑猥に聞こえるし
大叔父様は大叔父様でただ楽しいからやらせているのか、何か意味があるのかさっぱり解らない
「ふ~む、昨日雪を溶かしたときのように火球を矢に乗せて飛ばすことは出来んか?」
「難しいです」
「そうなのか」
「あれは二つの魔法を組み合わせていてゆっくり慎重にやってるから出来るものなので」
「そうか…」
「説明すると風魔法を矢にかけて飛ばしながら鏃にもう一つ風魔法をかけ、その中風魔法の中に火の魔法で作った火球を入れて矢を撃つ感じです」
「なるほど、わからん」
もしかして新しい戦術でも考えているのかな
「大叔父様、我が国には魔法使いはどれくらい居るのですか?」
「具体的な数はわからんが大氏族になればなるほど抱えている人数は多いな」
「ロマウはどうなのです?」
「ぶっちぎりで負けているな…こっちがな」
「それならば魔法に頼る戦いよりも平民も頭数に入るような戦いを目指さないと駄目じゃないんですか?」
相手が強い武器を持っているからといって真似をした所で後発の方が不利だし数でも負けているのならなおさら他の手段、せめて数だけでも対等にした方がましなのではないだろうか?
たしかスコットランドではイングランドとの戦いにおいて長弓にやられまくったはず、魔法があるこの世界だと長弓の代わりに魔法が発達しているのかもしれない
ウィリアム・ウォレスやロバート・ブルースは地形を利用した戦術で勝利を掴んでいる事を考えればこっちの世界でも通用するのかもしれないし
「農民たちに農具で戦えと?」
「流石に農具じゃ無理でしょうね」
「お話中割り込んですいません。レテウス様、戦場はそんな生易しいものではございません。実践できる手立てがなければそれは紙上談兵に終わります」
そうだったサンヴィル先生は実戦経験済み大叔父様も恐らくそうだろう
「ごめんなさい。差し出がましいことを申しました」
「よいよい、サンヴィルよお前の言いたいことも判るが時には新たなことを試さねば進歩もないであろう、この甥孫はこの子なりに考えたのだ、笑って聞いてやるのも大人の甲斐性というものだ」
「は、申し訳ありませんでした」
「これは戦場の作戦会議ではなく余興じゃ」
「おおぉ~数々の戦場をかけたであろう歴戦の兵士に混ざって対等にお話されるレテウス様!もはや神童を通り越してそのお年で賢者の領域にいらっしゃるのですね」
締まりかけた空気をフォークが破壊する、どうにかしてこれを辞めさせたい絶対に後々トラブルを犯すと思うから
弓を撃ち終えて今度はこっちの要求を飲んでもらう。風呂の浴槽作りの続きだ
「今度は何を考えているんですか?いい加減にしないとデイヴィッド様に愛想つかされてしまいますからね」
銭湯作ってるだけなのにサンヴィル先生に怒られた…そんな大層なものじゃないんだけどなぁ
「これはわしが暇だからレテウスが考えてくれたものじゃ、サンヴィルよあまりカッカするでない」
「失礼しました…」
子供たちには小川の小石を集めてもらってる掘り終わったら浴槽の下に引いてもらうためだ
「サイズ的にはこれで良いはずです」
ヨゾとマザの二人に任せた浴槽は注文通りきっちり正方形で段付き、これで子供でも入りやすいでしょう、しかもお湯を川に戻す排水用の溝までちゃんと出来ていた
「カラムそっちはどう?もう冷えた?」
首を横に振るカラム
「昼ぐらいになりそうですね」
こればっかりは仕方がないか
「あとは待ちですね」
「つまらんのう」
どんだけ体力有り余ってんだこの人、だったら…
「マードック大叔父様じゃあ海行きません?ドゥラスも一緒に」
「海に何が有るんじゃ」
「この計画を完璧にする秘密兵器が有ります」
「難しい言葉を知っとるのう」
おっとこの時代に兵器は殆どないか危ない危ない
「ドゥラスどうする?」
明らかに不機嫌そうに見える、大叔父様以外の指示は受けたくないのかな?
待ってましたとばかりにはしゃぐクラウとソラス
< 父、こいつ要らない! >
< そうそう私たちと一緒に行こ >
ブルルルル!
「気が変わったようだ、では海に行くか」
「レテウス様、またケルプですかもう冬ですよ」
「それもだけど今度は食材も手に入れるつもり」
「いやいやそうではなくて、もう雪のせいで道がありません」
あ…、こないだまで行けていたから大丈夫だと思ったがそういや結構降ったんだったな
「そうじゃのうソリを使うと成れば道がないのは危険すぎる」
鍛冶屋の周りは溶かせたのだから同じ方法…いや流石に距離がありすぎる、山一つ超えないと海にはたどり着けないのだからもっと手軽にできる方法を考えないと
「春を待つしか在りませんって」
先生ちょっとうるさい、今考え中なんだから静かにしてほしい
風魔法を唱えて雪の残っている10メートル程先へ向けて打ってみる
ゴウっと音を立てて雪が舞ったが小さな穴が空いただけ
「これじゃ駄目だな」
「そりゃあ無理じゃわい」
先端が尖ってるんじゃなくて面になるように押し出す感じで…もう一度放つ
ぶわっさぁぁぁ
今度は派手に雪が舞いその後には抉られた雪の道が出来る
「なんじゃあこりゃあ!」
「うんうん良い感じ今度はもっと雪の残ってる場所で試したいなぁ」
「おいサンヴィルこの童はいつもこうなのか?」
「マードック様、レテウス様に常識を解くだけ無駄です」
なんか後ろで失礼な話をしている気がするけど気にしたら負け、開けた場所へ移動して今度は風の壁を作るイメージで雪原に向けて出力を上げて撃つ
水柱ならぬ爆風じみた雪柱が上がり何十、いや百メートル近く雪がえぐれて地面が見える
「サンヴィル先生、これなら良いでしょ?」
何故か頭を抱える先生に大叔父様が声をかける
「サンヴィルよお主の言った意味がようわかった」
借りてきたソリをドゥラスに引いてもらいクラウたちも小型のソリを引いてもらう
ソリを貸してくれた村人から、こんな真冬に何処へ行くのかと聞かれたから
「牡蠣を取りに行くんだよ」
と返したのだけど、どういうわけか村の男衆が一緒に行くと言ってぞろぞろと付いてきた
何人くらい居るだろうか、二十人くらい?
海へ繋がる山道の入口から全開で行く、風魔法を放つと歓声が上がる
「こりゃあ便利だ」
「んだんだ、これならおっかあと子供にたらふく食わせてやれそうだ」
なるほど、牡蠣がごちそうなのは日本だけじゃないもんね特にこの寒村で冬に魚介類は最高の贅沢だ
しばらく行くと問題発生、風魔法で雪は吹き飛ばせたけど地面が凍っていてアイスバーン状態…どうしようか
(土魔法で盛り上げちゃうとか)
そうだねやってみよう、土魔法を放つと氷が波のように盛り上がって割れていく
(レテウス君アドバイスありがとう)
(どういたしまして)
氷と土が混ざってくれたお陰で滑らずに歩いて行ける。あっという間に尾根にたどり着き後は下るだけ
滑り降りれたら楽そうだけど、まあそんなふうには行かないから登りと同じ様に吹き飛ばしては砕くを繰り返して海岸に到着
「ちょうどいいタイミングだったな」
潮が引き始めたので必要以上に濡れなくて済みそうだ、そして男衆が道具を手に一斉に牡蠣を探し始める…海産物に飢えてるなぁ
「みんなぁ!獲った牡蠣はソリに入れてね力持ちのドゥラス様が運んでくれるから~、あと寒くなったらこっちで石焼いておくからあったまっていってね」
「いいんだべか?ありがたやありがたや」
本当は牡蠣を獲る人手が足りるか心配だったんだけどこれなら問題ない、その分こちらが運んだり温めるのはギブ・アンド・テイクだろう
さあ自分も牡蠣を探しをしてみようか
(あれあれ!にいにあれ牡蠣だよ)
ほんとだね結構大きい
中には待ちきれないのか俺が焼いた石の上で牡蠣を焼いている者まで居た
漂う牡蠣の香り、あぁ自分も今食べたい…
(にいに…あれ…)
レテウス君に言われて視線を上げればマードック大叔父様が巨大な岩をひっくり返してる…
(見に行こうよ)
確かに興味がある、近づいていくとずぼっと海水に手を入れた大叔父様の手にはまごうことなきロブスター
「すっご!」
「凄いだろうこれは煮るとスープまで美味いんじゃ」
思わずゴクリと喉がなる
あれよあれよとロブスターやカニを捕まえる大叔父様、今日の夕餉が今から楽しみで仕方がない
皆夢中で牡蠣や海産物を獲っていてあっという間に時間が過ぎる
潮が上がり始めてやっとケルプを取り忘れていることに気がついたくらいだ、慌てて大叔父様にお願いしケルプを収穫する、ブチブチと音を立てて一気に引っこ抜いていく
それに気づいた村の衆も手伝ってくれたドゥラスもクラウ達のソリもこんもり満杯、こんなに寒いのに皆顔はほくほく顔で帰路につく
「しっかり火を通して食べてね、あと食べ終わったら牡蠣殻を鍋に入れて埋火の上で温めておいてね、朝には回収に回るから」
まあ、こんだけみんな牡蠣の獲りに来たということは危険性は知ってるだろうけど念のため言っておく
「ま~た、レテ坊…レテウス様がけったいなこと言い始めたぞ」
「今に始まったこっちゃねえ、ゴミ持っていってくれるんだありがてぇじゃねぇか」
ここが13世紀ハイランドと同等の農業レベルだと仮定するとこの時代ではまだ石灰を畑に撒く技術は確立されてない、村の人達が不思議がるのも仕方がなかった
とっぷりと陽も暮れてしまい、もう作業はできないけど鍛冶屋に寄って資材を卸し海産物をおすそ分け
「こんなにいいんですか!」
「それにしても相変わらずドゥラス様の力はご健在ですね」
カラムは沢山の魚介に目を輝かせゴブ爺さんは恐ろしい量の資材にうっとりしている、こうしてみると真冬でも海産物を取れるだけで格段に生活が豊かになる、この辺も改善ポイントだね覚えておこう
鍛冶屋跡を後にして家に帰る、たった一日でこれだけ獲ってこれたのはドゥラスのお陰だけど、周りを見張って妖精たちに備えてくれていたクラウたちも頑張ってくれた、頭を撫でてねぎらいの言葉をかける
「クラウ、ソラス今日もありがとうね」
おかしいな、頭を撫でたのだけど反応が帰ってこない
「どした?もしかして体調悪いのか?」
(クラウもソラスも拗ねてるの)
「拗ねてる?なんで」
(おっきいお馬さんばっかり皆褒めるから)
「そんなことで?」
< そんなことってひどいわ… >
「ごめんごめん、でもそんなことだよ、今日はそうだったかもしれないけど俺はずっとずっとクラウもソラスも好きだよ。死ぬまでううん死んだ後も愛してるから」
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ふぁっ!くすぐったいって、ひゃああ舐めないで
どうやら機嫌が治ったみたいだ、クラウたちをもう一撫でしてから料理の手伝いに向かう、既に磯の香りが鼻をくすぐっている
「ああ~醤油が欲しい」
魚介、特に貝は醤油だなぁ
「ショウユ?それはなあに」
はっシェーナさんに聞かれてしまった
「ううん、なんでもない」
「変な子ねぇ」
なんだか最近気が緩んでると言うか、もう村の一員になれたような気がしてるからかな、うっかりが増えてきたような気がしないでもない
気を引き締めないとね、また妖精の取り替え子として何処かへ連れて行かれたくない…ここに居たい
今晩のメインディッシュは大叔父様が獲ってきてくれたロブスター沢山取ったけど結局大叔父様は皆にあげちゃった、でもそういう事がこの寒村では絶対必要で、一人では生きて行けない世界なんだ
いつも食べている野菜スープも牡蠣が入っていれば高級スープに早変わり陸と海のコラボレーション最高です。
狼って牡蠣とか甲殻類食べても良いんだろうか…もう遅いしレテウス君に頼んで今から図書館とか行ってもらうわけには行かないしごめんな今日は食べさせてやれないや
< 俺は別に平気でも >
「ソーサの事?ソラスはもうソーサの所行った?」
< うん >
ソーサの様子は変わらない、食も細いしなんというか気力そのものが感じられない、元気になってほしいけど俺に家族を全員殺された人の気持ちなんて解らない、どうすれば良いんだろう…このままじゃギブに顔向けできない
答えの解らぬ問いを考えながら俺はいつの間にか眠りに落ちていた
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