幼少期2:叔父とエイリィ
その後騒動を知った父上によって自分は城壁の中にある離れへと移された
ここにベルテの姿はなく代わりに頑固そうなおばさんが自分の世話をするみたいだ
そしてここは本来デイヴィッド叔父さんの仕事部屋らしい
やってしまったことに反省はしているけど部屋を見れば好奇心が湧いてきてしまうきょろきょろとつい見回してしまうが叔父さんは怒ったりせずに落ち着いていた、アレかな子供は初めて見るものに興奮するものだとか思われているんだろうか
実際は歴史で学んだものの実物(実際には魔法のある世界なので違うが)に感動しているオタクでしかないので申し訳ない
「兄上からお前は記憶が曖昧だと聞いたがお前自身はどこまで覚えている」
う~ん、どこまでと言われても正直に言えば会えば相手の名前を思い出せたりするけど…その人との今までやり取りや思い出に関しては何一つ思い出せない
「名前…名前だけしか思い出せません」
正直に答えた、嘘をついても突っ込まれれば一発アウト、嘘がバレればそれこそ妖精の取り替え子として処分されてしまうかもしれない
「そうか…」
叔父さん…叔父上はそれだけ言うと顎に手をやり神妙な顔つきで考え込んでいる
「あの…」
「なんだ?」
「その思い出せないんですけど教えていただけませんか?」
益々叔父上の眉間にシワが寄る、またなんかしてしまったのか?
「その話し方だ」
「え?」
「年相応に見えん」
しまった…王侯貴族の口上なんて知らんしちょっとマセてても大丈夫かと思ったんだけど
「それでは本当に妖精ではないかと疑われても仕方があるまい」
「あ、兄上みたいになりたくて」
あれだよあれ真似がしたいお年頃ってやつ(なんか違う気がしなくもないが)
「タイミングが悪すぎる、義姉上からすれば最悪だったことだろう」
帰ってきたらまるで別人ってか、つくづく選択肢を間違えてるな俺…
「はぁ~、ただでさえこじれているというのに…」
ため息を付く叔父上、その言い方だと俺の選択肢間違い以外にもなにか家庭環境に問題有りなのか?
「僕のせいだけじゃないのですか?」
「それは…まだお前には早い」
情報!情報が欲しい黙っていても何も進まない逆に子供の利点を活かして聞きまくってしまおう
叔父上に教えてもらった限りではこの国の名前はアスピコット王国、でもってうちの家はハイランド氏族のエヴァン家で氏族長は父サーロン・ドゥ・エヴァン、お母様はモイラ・ドゥ・エヴァン、兄弟は上に兄のアンガス・ドゥ・エヴァン、因みにモイラ・ドゥ・エヴァンお母様は今弟か妹を身ごもっているそうだ、そういう意味でも最悪のタイミングに俺が戻ってきたと言うか現れたと言うか…
叔父上はデイヴィッド・ドゥ・エヴァンで支族長
これは自分の持っている知識だが支族長という事はここはあくまでこっちで仕事をする時の為の部屋で、領地と言うか任された土地を別に持っているということだ
今のところ、魔法を除けば自分が学んだ知識とこの世界というか国は合致している部分が多い、生き残るためにはフル活用せねば
もっと色々聞きたいが怪しまれたくもない、ここは小出しに聞いたほうが良いだろうとりあえず今日は家族構成までにとどめておくか…
っていうか眠い…これは身体の所為なんだろうが二~三歳児と特徴なんて結婚どころか彼女無しの俺が知るわけもない
「疲れただろう、もう寝なさい」
ひょいと持ち上げられて叔父上のボックスベッドに横にされる
「叔父上は?どこで寝るのですか?」
「俺のベッドを独り占めする気か、仕事が片付いたら俺も寝るから気にするな」
なんか答えになってないような気もするけど…
幼い身体は眠気には贖えず眠りに落ちた
コンコン
「デイヴィッド様おはようございます」
ノックのあと挨拶が飛んできた、小さな窓から外を見てもまだ暗いええと中世だと日の出と同時に起床して、でミサに出てその後に朝食だっけ?
心許ない明るさの蝋燭を持っておばさんが部屋に入ってくる
「朝食をお持ちしました」
あれ違った、やはり全てが同じというわけではないみたいだ、でも朝食はポリッジと言われる伝統料理でそれは同じ
ミルクで作るのではなく水と塩な辺り氏族と言ってもそこまで裕福ではないのか、それとも父上達は良いもの食ってて自分だけが粗末なものを食わされているのかまだ判断はできない
そして飲み物が黄色いのはおそらくエール、子供にアルコール?と現代の感覚では思うだろうが水が安全ではない時代においては貴重な安全な飲み物、老若男女問わず普通に飲んでいた事は知っている
「叔父上は食べないのですか?」
「俺はまだだ、お前用に作らせた早く食べてしまえ」
ぶっきらぼうだけど優しい
正直現代の食事に慣れてしまっている自分からすると美味しくはない、だが再現ではなく実際にその時代の食事を食べているという本来できないことを経験していると思うと箸…じゃなかったスプーンが進む
「うふふ、坊っちゃんは美味しそうにお食べになりますね」
おばさんにも笑われてしまった、初見ではおばさんのことを頑固そうって思ってごめんなさい、あれだ肝っ玉母さん的な優しさのある人だった
食事を終えて木製のボウルを渡せば褒められたけど…逆にこういう所が子供らしくないのかもしれない
食器を片付けにおばさんが部屋を出て少しすると
コンコン
また誰かがドアをノックする
「ご報告に来ました」
「入れ」
今度は若いけど精悍な顔つきの男性
「失礼します…あの、この子供は?」
「ああ、兄上の子だ」
「なるほど」
事情を知っているのか深くは聞いてこない、彼の顔を見ても名前が出てこないところを見ると過去にあったことはないのかもしれない
報告内容は家畜に対するもので他所の氏族や野盗が盗んでないかとか放牧の境界線がどうとか、これも学んだ知識の中にある事でその辺りはこの世界でも変わらないようだ
農耕に向かない高地の気候と土壌、中世の高地において家畜は領地の貴重な財産だ特に牛は農業では動力として重要だったと聞くし、それだけでなく暖房も兼ねて農民たちは寝る時には家に入れる文化…というか自分たちの生存に必須の生き物だったと学んだ
羊は13世紀頃には肉ではなく羊毛が大切な輸出産業になっていたはず、早く外に出て確認したい事だらけなのだが…
「私は出かけるが絶対にお前は外に出ては駄目だぞ」
ですよねぇ
しばらくは動けそうにない
母上の時は騒動のドタバタで有耶無耶になったが…叔父上の机にはタウズが乗っている
タウズとは皮の鞭だ、中世の子供は粗相をするとこれでぶっ叩かれたと学んで知っている
わざわざ目につく所に置いてあるのは次はないという警告だろうか…怖い
仕方がないので外には出ずに建物の探索で手を打つことにした
壁は相変わらず石造りで隙間には風を通さないために小石や泥が詰まってる
「これってピートなのかな?」
そういえば暖炉に突っ込まれそうになった時はどうだったっけ?
ピートとは泥炭と呼ばれる燃料だ、気候と湿地帯に依って植物が長い年月を掛けて半炭化したもの、それを何か月も天日で干し乾燥させるとあら不思議、燃える土塊に変わるのだ
一瞬お母様の形相を思い出して寒気が走る
「兄上は大丈夫かな」
魔法は傷跡まで消し去ってくれるのだろうか、自分の短慮で一生傷跡が残るのではないかと思うと気持ちが重くなる
気を取り直して家の探索を再開させて他の部屋を見る、大きな桶が置いてある部屋は多分これで入浴をするのだろう、別の部屋は土間で今は居ないが以前は家畜が居たのかもしれない天井は茅葺きで色は黒い
間取りとしては小さいのかもしれないがそれ以上に自分が小さい所為で見えない場所が多い、奥ではおばさんが何か家事をしているがこれもよく見えない、それといい加減名前を知りたい
「ねえねえ何してるの?」
大きな鍋をおたまでくるくるとしているおばさんに声をかける、それにしても中身二十歳超えで子供っぽく振る舞うというのは結構恥ずかしい
「今ですか、これはチーズを作ってるんですよ」
「ちーず」
「ええ、なんだか毎年寒くなって来てるでしょ、だから季節は少し早いですけど今のうちから冬に備えないといけないんです」
チーズは好きだがどうやって作られるのかは知らない
「見ててもいい?」
「ええ、それでお外に出ないで居てくれるのなら構いませんよ」
これは問題児だと認識されている…挽回せねば
「ねえ!なにか手伝いたい」
「危ないですからねぇ坊っちゃんに怪我されたら困ります」
ごもっともで
「危なくない事でなにか!」
「う~~ん、じゃあそこにあるクロスを持ってきて広げてくれますか」
これだろうか?
「この目が粗いやつ?」
「そうですそれをそこに置いといてくださいまし」
「はい」
「坊っちゃんはお行儀がいいですねぇ、うちの孫に見せてやりたい」
中身大人なんでお孫さんの方が正常というか…
「ねえねえ、名前おしえて」
「言ってませんでしたか?」
コクンと頷いて見せる
「失礼しましたエイリィと申します」
「エイリィさん」
覚えた
クスクスと笑ったかと思えば
「庶民の私にさん付けは要りませんよ普通にエイリィで大丈夫です」
氏族の直系の子は身分の下の者にさん付けしちゃいけないとかそういうことなのだろう
「次はなに手伝う?」
「ミルクが固まるのを待ちますからしばらくはないですよ」
なんだか危険から遠ざけられている気もするが言うとおりにしよう
エイリィが鍋を持ち部屋の中央にある竈の側へ置く
一息ついたエイリィは椅子に座り今度はもこもこしたワタとでっかい独楽の様な物を持って椅子に座る
「それはなに?」
「ミルクが固まるまで時間がありますからね糸紡ぎをします」
エイリィはワタを摘んで引っ張ると独楽の先に取り付けた紐の輪っかにワタを通す
独楽をくるくると回すとワタが絞られて細くなる、糸ってこうやって作られてたのか
「僕もやってみたい!」
「坊っちゃんはこんな事しなくてもよいのですよ」
「お孫さんはしないの?」
「させてますが…氏族長の息子がすべきことでは有りません」
どうやら身分的なものらしい
「ここでしかしないから」
「駄目です」
ぴしゃりと断られる
でもなぁ~、いつ外に出られるか解らないし危ないことは出来ないし絶対に暇になるのは解ってる
「僕がこれ出来るようになればエイリィ他のお仕事できるよ」
「…」
「二人でやればたくさん作れるかも?」
「…」
「叔父上にも絶対に言わないから」
「はぁ~、坊っちゃんは変わってます。普通その年頃の子供はやりたがりませんよ」
「だってお外には出れないし遊べないし…それに子供ってやらされるより遊びで覚えると上達が早いんだって」
「誰がそんな事を教えたのです?」
やべっ、思わず自分の経験談が出た
「あ、兄上」
「アンガス坊っちゃんも賢い方ですからね、言われてみると確かにそうかもしれません」
兄上なすりつけてごめんなさい
「くれぐれもここで私が居る時だけですよ」
やった!
「はい」
「本当に坊っちゃんは三歳かエイリィは疑ってしまいそうです」
「うん三歳!」
これからは父上達以外には『うん』で統一しよう
エイリィから予備の独楽みたいな道具を借りる、名前はスピンドルと言うそうだ
彼女が見せてくれる手順を真似してワタを掴む
「これって羊の毛?」
「そうですよ」
「ふわふわだ」
「これはもう洗って乾燥させて梳いてありますからね」
引っ張り出して細くなるように捻り
「あ、切れちゃった」
「もう少し力を抜いて大丈夫ですよ、多少太くてもやってるうちにコツを掴めば出来るようになりますから」
エイリィは優しい人だ、そう思ってしまうのはもっと荒々しい時代を想像していた所為だろうか
紐に窄めた羊毛を通し同じ様にやってみる力加減が難しくてこれを糸というのは恥ずかしい
「初めてなら上出来ですよ坊っちゃん」
エイリィの紡いだ糸は遥かに細く均一
「わたくしなどはそれこそ坊っちゃんくらいの時にはもう糸を紡いでおりましたからね、それこそ逃げ出してはよく叱られる程に」
なるほど子供はやりたがらないものだというのは実体験から来ているのか
結局その日は四苦八苦するだけしてもまともな糸は紡げなかったがエイリィからこの世界のことも色々聞けたし楽しかった、これなら当分の間は外に出たい衝動も抑えられそうだ
幾日かが過ぎ糸紡ぎも少しうまくなった(様な気がした)昼下がり
叔父上は何時もの様にタワーハウスへ、エイリィは昼食作りで忙しくしていると
コンコンとドアをノックされた、これは自分が出て良いものか?
「アンガスだ」
兄上?兄上ならいいか、鍵を開けようとして鍵自体無い事に気づいたが時すでに遅し
開いたドアが頭を直撃、そうでした内開きでした
「レテウス!?」
したたか頭を打って倒れた俺を抱えあげる兄上
「どんくさくてごめんなさい」
「謝るな俺が確認を怠ったせいだ、少しじっとしていろ」
脳震盪だろうか?ぐわんぐわんしてきた
兄上がぶつぶつと何かを唱え始めたここで使うってことは回復とか癒しの魔法?
兄上の手が赤く光る、んっ?なんかイメージだと回復って緑なんだけどこれは燃やして証拠隠滅だったりする?いやいやだったら母上のときに…
「もう大丈夫だ」
あれ?痛くないコブも出来てないこれが魔法…魔法凄いな!
「ありがとうございます兄上!」
「うん…しかしその言葉遣いは…」
兄貴だもんなそりゃあ違和感には気づくよな、油断すると素に戻ってしまう
「誕生日を期に兄上のマネをすることにしたのです兄上は憧れですから」
理由は嘘だけど憧れは本当だ
「嬉しいことを言ってくれる、だけどその気持は周りには言わない方がいい」
「そう…なのですか?」
「ああ自分の身を守るためだと思ってくれ」
兄弟なのに何故という疑問、氏族という特性からしても兄弟仲は良い方がと思うのだけど、この話は切り上げて話題を変えよう
「解りましたそうします、では今日はどの様な要件で?」
「ああ、あの後会えて無かったからな様子を見に来た」
「ありがとうございます!あ!兄上、兄上の腕は?」
左手を見ると包帯が巻かれている、俺の脳震盪は治せたのになんで
「傷跡は残ってしまうのですか?」
「そんなに酷い跡は残らないだろ気にするな」
兄上はこの程度なんでも無いとでもいう感じだが
「僕の頭を治したみたいには行かないのですか?」
「コブ程度なら治るが俺の力では切り傷や火傷の跡を消すまでは難しいな」
「大人!大人の魔法使いでもですか」
「残念ながらそれほどの魔法使いは近くに居ないだろうし居ても払えない」
誰しもが使えるほど魔法は一般的ではないのか、でもだとすればやはり兄上は優秀なお人なのではないだろうか
「兄上お願いがあります」
「急にどうした?」
「僕にも魔法を教えてください!」
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