16:狩人で戦士
準備を整えソラスの背に乗って森に入る
先生は言葉は発さない。狩りだからなのか俺の邪魔をしないためなのか、まあ両方なんだろうね。
< ちち、十一時の方向、木の上 >
了解。方角の知らせ方は事前に教えてある。所謂戦争映画なんかで良く使われているやつだ
こういったとき声に出さずにコミュニケーションが出来るのもある種の武器だよね。
狩りを終えるまで会話は一言もなく最高記録の五羽ゲット
「こんな感じです。何処を改善すればいいですか?」
「腕前については問題有りませんが…」
「はい」
「捧げ物を置きましょう。」
これは自然や精霊への感謝かな?
「近場では有りますが、燕麦や干し肉も持ち歩いた方が良いです。クセを付けましょう。」
遭難への対処
「山鳥は鼻が弱いと言われていますが、鹿などの大型の獲物は鼻が効きます風下を意識できるように動きましょう。」
概念すら無かった…
魔法の詠唱の内容には海・大地・空といった自然、それに女神様のカリヴェーラ様が含まれていることを考えれば捧げ物はしておいた方がというよりしないとまずいな。
遭難したくてするやつは居ない、先生の言う通りクセを付けねば。
風下か、某筋肉モリモリのマッチョマンになれと…いや冗談を言ってる場合じゃなかった。鳥は種類にも依るが比較的嗅覚は強くないんだっけ。
他の獣を狩る事を想定していなかった必ずしも山鳥だけと遭遇するわけじゃない向こうがこっちを見つけることもある…とても重要。
すごい良い先生だと思うのだけどもっと良い就職先が有りそうなもんだけど、なぜうちに来てくれたんだろうか?謎だ。
翌日からは先生同伴の実地訓練、と言ってもやること自体は変わってない。
「風の読み方は」
指に舌をつけて濡らし風向きを読む先生、真似してやってみるがこれが難しい。風魔法の応用でどうにかなりそうな気もするけど基礎は大切、万が一魔法が使えなくなった時ほど役に立つし、俺が消えてしまったらレテウス君が魔法を使えるとも限らないのだから、自力で出来る能力を養っておかねばならない。
修業の日々は続き
我流から本物の狩りに変わり始めた春のある日。
いつも通り山鳥の狩りをしていると一羽の大きな鷲が山に舞い降るのが見えた。
「先生あれは…」
「あそこまで大きいのは私も初めてです。」
< 父、あれ普通じゃない >
< 私たちと同じ >
そう言ってクラウとソラスが低く唸った。
という事は妖精か精霊の類か…出来れば敵対したくないんだけど。
「一羽ですか…不吉ですね。」
「そうなのですか?」
「昔から一羽なら不幸を、番ならば幸福を運ぶと言い伝えられています。」
「一羽なら仕留めたほうが良いのでしょうか?」
「仕留め損なうと更なる不幸を運ぶとも言いますし、しばらくは様子を見ましょう。」
二人はどう思う?
< 私も様子を見た方が良いと思う >
< 俺も、だってあいつ飛べるし >
静観するしかないか。
結局大きな鷲は幾日ものあいだ山に居座ったが悪さをするわけでもなく気がついたら居なくなっていた。
そんな出来事も忘れてしまうほど
明けても暮れても修業の日々は続いていた。
洞穴で食事休憩、季節は初夏になったがそれでも寒いのがハイランドの山、パチリパチリと薪を爆ぜさせ暖を取る。
「本当にこの干し肉は美味しいですね。」
「先生も作りますか?作り方教えますよ。」
この頃になると先生との会話にもだいぶ慣れてきた、クラウとソラスにおしくらまんじゅうされている俺は今まで感じていたことを思い切ってサンヴィル先生に聞いてみた。先生の生まれの二リヴィはやはり外国で今でこそ同盟関係にあるが、古い時代にはアスピコットとの争いが絶えなかったのだそうだ。
「なんで先生は海を超えてまでうちに来てくれたのですか?」
「二リヴィ王国本土からは確かに数日掛かる距離ですがベェルカーブ島は小舟で行き来出来る眼と鼻の先の距離ですよ…ただし。」
「ただし?」
「海流が優しくないので六マイル程の距離ですが案内人の腕が問われますね。」
この世界と前いた世界の地図が同じという前提での考えだが、先生の生まれ故郷が何処か解ってしまった。現代はウイスキーが有名で牛肉や海藻を食べて育った羊肉が特産の島だ。
「でも先生の腕なら他の氏族に使えた方が良かったのではないですか?」
「あはは、その歳でそこまで考えますか。たしかに若い頃はそうでしたし、前は傭兵をしてました。」
「じゃあなんでです。」
「妻が出来もうすぐ子も生まれます。戦に駆り出されるのが怖くなってしまったのですよ。幻滅しましたか?」
首を横に振る、でも奥さんが居るのは知らなかった…
「そんなときに領主付きの狩人の仕事という名目でこの仕事を見つけたのです。実際にはレテウス様の為に名義貸しでしたが」
「ごめんなさい。」
「いやいや、むしろ謝りたいのはこちらです。家と牛まで与えられているのに育てがいのある弟子まで出来ました。南部に居た頃では考えられない程幸せですよ、感謝しています」
「南部ってそんなに怖い場所なのですか?」
「ここでも争いが無い訳ではありませんが精々家畜を巡っての氏族同士の小競り合い程度です、まあそれで滅ぶ氏族もいるので精々と言ってはいけないのでしょうけど、南部は帝国…ロマウバリウクに面していますから国対国の小競り合いになります。」
小競り合いと言っても普通に殺し合い、規模もぜんぜん違うのだろう。
「先生は魔法は使わないのですか?」
「使わないというのは語弊が有りますね。使えないのですから。」
「使えるかもしれないと言ったらどうします?」
毎日を共にし見てきた先生なら信用できるのではないか?
そんな気持ちがふつふつと湧いて口に出た。
「実は僕、魔力が見えるんです。先生の身体からは魔力が漏れ出ています。」
「たとえそうだったとしてもこの歳からでは…」
「お子さんが生まれるんですよね。」
「それはそうですが…本気ですか?」
「本気ですよ。」
俺が居なくなってもレテウス君を導いてくれる存在は強ければ強いほど良いが…強いだけじゃ駄目だレテウス君に忠誠を誓える程の人格者じゃなきゃ駄目なのだ。
自分でもずるいと解っているが彼の奥さんと子供を利用させてもらう。




