15:サンヴィル先生(レテウス五歳、二度目の春)
レテウス君、祝四歳!のはずだったんですが春二回訪れちゃってますね…ということで五歳に変更しました
冬の終わり。この村の春の使者は降り注ぐ日差しでもなければ芽吹く新しい生命の息吹でもなかった。
春季埋葬
村人たち総出でキルと呼ばれる村の聖地へ向かい冬に亡くなった者たちを埋葬する儀式そのものが春の使者なのだ。
凍りついた大地の所為で埋めることも出来なかった遺体が並んでいる。数は十二体…
今まで毎年三人程度だった冬の犠牲者が四倍にまで膨らみ村人たちの間からは
「もう一人づつ穴を掘ってやれねぇかもしれねえ。」
と言った諦めに似た言葉まで漏れていた、深刻な状況だ。
叔父上と作業と祈りを見守り、聖地を降りると男が待っていた。
ーーーーーー
「それではレテウス様、今日からよろしくお願いいたします。」
「はい、サンヴィル様。」
「レテウス。」
叔父上に睨まれた。あぁ、様付けしたからか
「ですが叔父上、仮にもサンヴィルさ…は弓の先生になるのですから敬称なしというのは気が引けます。」
「まったく…口の減らぬ者に育ちおって」
育ったとはいってもまだここに来て二年。五歳になったばかりですよ叔父上
「それでしたらさん付けで勘弁していただけると助かります。」
「ではサンヴィル先生でも良いですか?」
役職として呼ぶ分には他人に聞かれても大丈夫でしょ?
「構いませんよ。」
「仕方有るまい。」
あと叔父上は口数増やしたほうが良いと思う…格好いいけど
俺の狩りがバレたあとレテウス君が狩りをするのは身分的に問題ないのだが干し肉を献上したときに狩人の名も報告しなければならない。献上の席にはお母様も居る…という事で名義を貸してくれる存在が必要になってしまったわけだ。
でもうちの氏族ってお金あるのかなとてもそうは見えないんだけど
そうそうあと五歳になったことでレーネ卒業!
正確にはレーネ+トゥルーズが履けるようになったんだけどね。
しかしこうなると謎が深まる…アンガス兄上は俺を救ったときにタータンキルトを着ていたし、叔父上もキルトを着ている。キルトが着られるようになったのは十六世紀以降だということを知っているから今まで考えていた十一~十三世紀頃という読みから外れてしまう…
「改めまして、サンヴィルと申します。生まれは二リヴィのヴェルカーブ島になります。」
こっちの世界に来てからは何事も実地で座学したこと無いから地名だけ言われてもピンとこない、話し方も物腰もこの辺では見たことがない、キルトも着てないしもしかしたら外国の人なのかな?
「ではこちらも改めまして、エヴァン家サーロン氏族長が次男レテウスと申します。これからよろしくお願いしますサンヴィル先生。」
「お話には聞いていましたがここまでとは…本当に賢い、まるで青年と話しているような感じですね。ディヴィッド殿が褒めまくるわけだ」
「褒めてない。」
知り合いなのかな?空気感が赤の他人という感じじゃない。
「では、まずはお手前を見たいのですが場所はここで?」
「家の裏手に行こう、レテウスお前はいつも通りでいい。」
「はい」
という事は魔法は隠さなくて良いということか、まあ魔法無しではまともに射ることもできないから使うつもりだったけどお墨付きをいただけたのはありがた。い
裏手に回るとクラウとソラスが遊んでいる。
「あの…それ狼ですよね。聞いていないのですが…」
「大丈夫ですよ。クラウ、ソラスおいで」
ハッハッと嬉しそうに走ってくる二頭と後ずさるサンヴィル先生。
「まだ子供ですけど、ちゃんと言う事聞きますから安心して下さい。」
「これで子供?」
妖狼を見たことのないサンヴィルからすれば立派な成獣見えるのも無理はない。
「二人ともご挨拶して」
「「バフッ!」」
こんにちは!と言っているのだが今のところレテウス以外の人間には普通の鳴き声にしか聞こえていない、いつになったら両親のように人語を話すのかも不明だ。
「これから先生に弓矢の腕を見せるから大人しくしてて」
「「クゥ」」
「ここまで従順とは…」
サンヴィルは驚きを隠せない。
「先生、的はどうしましょう?」
「そうですね。ではあそこの切り株で良いでしょう、まずはいつも通りに撃ってみて下さい。」
「はい」
弓矢を構え詠唱を始める
「マーハル・スペドゥール、ア・ウール・ア・ヴィス・ア・ギューラン・アン・チール」
(母なる空よ) (種を運びし風よ)
「ア・ハリベラ・ア・ハ・ア・リアーラグ・ア・フーラ・コール」
(全てを司りしカリヴェーラよ)
「ホイル・ニャルスト・ドント・サイエッド・ア・スグイル・ミー・ナム・ハンナハハ」
(脆弱なる我が放つ矢に力を貸し与え給え)
魔法の詠唱に関する仕組みも少しづつ解ってきた。
兄上のメモには、母なるの後に『大地』よ『海』よ『空』よと続くがこれが大属性
大属性の中から何を使いたいかを選ぶ今回で言えば『空』から具体的な属性として『風』を選択し
女神カリヴェーラ様から力を貸していただく。
これが一連の流れなのだが…長い。
そこで大属性を予め一つに絞って詠唱してみたところ、魔力の消費を大きく抑えられた。
デメリットは削った大属性の系統の魔法は混ぜることが出来ないし同時発動できない。
『海』は『水』魔法を司るのだが『海』と『空』を詠唱に入れておけば『水+風』例えば高圧の水のカッターや霧の様な魔法を作り出せるし別々に魔法を出す事ができると言った具合だ
ほんと言うと日本語でも撃てるのだが人前でそんな事でもしようものなら、今度こそ魔物か妖精として捕まるだろう。
とりあえず今は風だけで良いのだから他は省いて詠唱した訳だ。
矢を放てば四歳児とは思えぬ速さで矢が切り株に突き刺さる。
「なるほどこれは凄い。」
「魔法に頼っているだけなので…」
照れ隠しというか魔法のお陰なのは事実、魔法がなければ刺さるどころか半分の距離も飛ばせない。
「頼れるものを使うのは恥じる事ありません。むしろその歳でそこまで魔法を使えることに驚きです。」
「でも基本が知りたいです。」
「感心感心、良い心掛けです。ですが貴方の歳では身体が持ちません。そうですね~後三年はそのまま魔法を使って撃ちましょう。ただし魔法無しでどれほどの力があるのかは時々確認して下さい。」
七歳から本格的に戦士の修行が始まるんだっけ、それまでは魔法で補助していいってことなのかな。
「それよりも魔力の方は何発まで持ちますか?」
「これくらいなら矢が尽きるまで撃っても問題有りません。」
なるほどなるほどと言った感じで頷くサンヴィル先生、もっとスパルタというか激しいのを想像していたけどこっちの身の丈を考えてくれている辺り相当良い先生なんじゃなかろうか。
「うちの甥はどうだ?」
叔父上も初めて見たはずだけどあまり驚いていないな、手放しで褒めろとまでは言わないけどもうちょっと褒めてくれても良いんだよ、その方がレテウス君も喜ぶし。
「こいつぁは育てがいが有りそうですねフフフ。」
なんか今黒い微笑みが見えたような…
「今日は森に入りますか?出来れば実際に狩っているところも見てみたい。」
「どうだレテウス?」
「はい、問題有りません。ねっクラウ、ソラス。」
「「バウッ」」
こうして先生との初めての狩りが始まった。
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