幼少期13:エヴァン家にて(SIDE:デイヴィッド)
前回朝8:00に投稿してみて調子が良かったので今回も8:00投稿してみます。同じ様な結果が得られたら今後8:00投稿にしようと思いますのでよろしくお願いします
ぱちりぱちりと音を立てるピート以外は静かな部屋で大氏族からの書状に目を通す、羊皮紙で送ってくるのは専ら大氏族かローランドの貴族くらいしか居ない、吟遊詩人を使わない事に腹も立つが文字を読める者がほぼ居ない事を考えると、これはこれで吟遊詩人と違い誰にも聞かれないで済むという利点がある。それに弱小氏族なのにローブル家に護られているのは俺と兄貴が読み書きできる部分も大きいのだから文句を言うのは贅沢だ
デイヴィッドは王の死後殆ど村には帰れていない、村の事も妻やレテウスのことも気がかりだが致し方ないと割り切るしか無かった
ひとしきり書状に目を通し終え一息つく
子宝に恵まれなかった俺達夫婦にとってレテウスは正に天からの贈り物であった
経緯が経緯だから喜んではいけないのかもしれないが、それでも嬉しかった。子が生まれないことを嘆き悪くもないのに俺に謝るシェーナの顔を見るのは辛かった
そんなときに兄貴の子を預かることになった、シェーナがどう思うか心配だったが受け入れてくれてからシェーナの顔に笑顔が戻った、だから俺もシェーナもこの子が元気に育ってくれればそれで良かった、ずっとうちの子として育ってほしいとすら思っている。
幸いにもローガン家に里子に出された兄の長子アンガスも優秀だと聞く、問題は兄嫁モイラだけだがアンガスが成人を迎えて立派なタニストに成る頃までには収まるだろうと先送りにしたのだが…
少々のやんちゃは親として健やかに育っている証、嬉しく思うものなのだろうがこの子は度を越している…次々と問題を起こしては想定外の方法と尋常ではない速さで解決していくレテウス、しまいには妖狼の子を従え、シェーナからは夜中に誰かと話をしているらしい、シェーナの読みではブラウニーと話しているのではないかと言うことだが…
これが外に漏れればモイラが黙っては居ないだろう
この寒村に妖精の取り替え子として送ることになった原因のなのにアンガスがタニストになるくらいならばと手のひら返されて泥沼の家督争いなどやっている場合ではないのだ
だが同時にレテウスの才能はこんな寒村で腐らせるわけにいかない…いやどうしたってこんな村で終わる才能ではない、そう思ったからこそサンヴィルを付けたのだが
村からの使いが来た時点で嫌な予感はしたのだ、また何かしたのだろうとは思ったが
「『申し訳有りません叔父上鍛冶屋を燃やしてしまいました。ごめんなさい レテウス』と伝えるよう言伝を預かっております」
どうしてそうなるのだ…
「一応聞いておくが、鍛冶屋以外には被害は出ていないのだな?」
「はい、燃えていたのは鍛冶屋だけです…ですが、あれは素晴らしい!」
「素晴らしいだと?」
村唯一の工房を失ったのだと言うのに何を言っているんだこいつは
「はい、あの木炭はレテウス様にしか出来ない神の御業でしょう、立ち上る炎の美しさは正に神の祝福でございます」
この男を家庭教師に付けたのは間違いだったかもしれない
「それは、どのような木炭なのだ?」
「申し訳有りません。生憎その宝具は見ておりません。ですがレテウス様御自身からお言葉を承りましたので間違いないかと」
分別をつけろ!これではどちらが教師か判らないではないか
「他にはなにか言ってなかったか?」
「「折角なので新しいの作ろう」と、本当に頼もしいお方です。とても齢4つとは思えませんあの方にこそ神童の称号がふさわしい」
デイヴィッドはあまりのことに思わず立ち上がってしまい
「作ると言ったのか!?」
「はい!色々とお考えの様で今から完成が待ち遠しいです」
この様子ならもうこの男がレテウスを裏切ることはないだろうが盲信しすぎて逆に心配になってくる
「十日後には村に戻る予定だ、そのときにじっくりと話を聞かせてもらう、レテウスにはそう伝えてくれ」
「御意に」
出来ることならば直ぐにでも村に戻りたいがデイヴィッドには戻れぬ事情があった
村へと帰るフォークの背を見ながら思う
王の死以降、我が国アスピコット王国のハイランドの有力氏族やローランドの大貴族は国を纏めるために奔走している、ロマウバリウク側とも色々と接触している噂は聞き耳をたてずとも入ってくるくらいだ、これに関しては我々弱小氏族が口を出せる様な場も無いわけだが…
問題は王の権力が無いこの空白に乗じて各地の中小の氏族達が領土の拡大や他氏族の乗っ取りに暇が無いということだ
どいつもこいつも成り上がりのチャンスとしか見ていない
クリーチに失敗したカウトール家のバカ族長も大方その手の類だったのだろうが、不思議なことに今回の一件には難癖をつけてこない所を見るとレテウスがなにかしたのかもしれないなどという馬鹿げた想像をしてしまうのだが何故か腑に落ちてしまう自分がいた
兄貴にも話すべきなのは判っているのだが、流石に鍛冶屋焼失はいただけない
「入るぞ」
遠慮なしに兄貴がずかずかと部屋に入ってきた…相変わらず勘が鋭いフォークが来てたのを見られていたか
「フォクルクが来ていたが何が有った」
単刀直入もう少し遠慮してほしいものだ
「……」
「その様子だとレテウスがまた何かしたのだな」
「そんなことはないぞ兄貴、定時報告に来ただけだ」
「ほう…それにしては随分と煤の香りのキツいフォクルクだったな、お前の村では吟遊詩人に鍛冶屋の手伝いでもさせているのか?」
明らかに何かが起きたことに感づいている…こうなってしまえば降参だ、族長は伊達や酔狂で選ばれるものじゃない
「降参だ、兄貴怒るなよ…」
「良いから早く言え」
「レテウスが火事を起こしてしまった」
「レテウスは無事なのか?」
「ああ問題ない、だが鍛冶屋を燃やしてしまってな」
「鍛冶屋を?お前から報告を受けていたがレテウスはそんなに魔法が扱えるのか!」
「いや魔法ではないらしい」
サーロンの眉がピクリと上がる
「魔法ではないのに火事となると悪戯か…」
「それが悪戯でもなくてな」
歯切れの悪い弟に痺れを切らすサーロン
「わけがわからんぞ、はっきりせい!」
「どうやら新しい燃料を作ったらしいそれをゴブじいが使って炉が耐えられなくて」
「燃えたと」
伏せ目がちに頷くデイヴィッドを尻目にカッカと笑い出すサーロン
「何を笑ってるんだ兄貴!、ただでさえ鍛冶屋は村に一件しかないんだそれも冬なんだぞ死活問題だ」
「すまんすまん、昔お前も鍛冶屋を燃やしたことを思い出してしまってな」
「俺のあれは若気に足りだ、あれはレテウスの様に…」
「鍛冶屋の真似事して家に引火したんだったよな、お前が逃げ回るせいで俺までとばっちりで怒られたんだぞ…ククク」
嫌な思い出だろうに非難めかしておいて懐かしむように笑うサーロン
「まったく嫌な兄貴だ…そのうえレテウスは「折角だから作る」と言っているんだぞ」
「作るって何を?」
目をパチクリさせている兄に向かって深い溜息を付いたデイヴィッドは
「鍛冶屋をだよ!」
「なんと!四歳の身で鍛冶屋をだと!こいつは愉快、愉快ではないか実に興味深い…確実に俺達の血が入っているな」
怒るどころか笑い転げる兄を見てデイヴィッドは思う
兄貴はレテウスを捨てたんじゃない…次男坊を気にかけているのがよく分かる…兄弟だからな、ただ同接して良いのか分からないのだと思う
生まれてすぐにアンガスを人質同然にローブル家に里子に取られ、アンガスの母親はその後病で死んでしまった。やっと出来た後妻との間の子もあんな形で俺達夫婦に預けるしかなく、レテウスの次に生まれた妹のエレンは母親の異常なまでの執着を受けている状況だ
武も政もしっかりしている兄貴なのに家族だけは上手く行かない、レテウスを預かっている身分だが俺達は幸せだというのに…
「では直に見に行くか」
「は?待て!今どんな状況下に有るか判っているだろう、族長が本家を空けるとか兄貴気が狂ったか」
「狂っちゃいない、代わりにお前が残ってくれればいいだけではないか、お前は俺とタニストを争った男、実力がないとは言わせないぞ、それとも甥っ子に会いたくて仕方がないのか、お前だけずるいではないか」
「な!ふざけすぎだぞ兄貴!」
にやつくサーロンを見てやられたと気づくデイヴィッド
「お前がそんなにレテウスを大切にしてくれていて嬉しいよ、お前に預けて良かった」
「当たり前だ…」
兄弟だから判ってしまうのは兄貴も同じか、出来れば早くレテウスに逢わせてやりたい、あの子なら兄貴の思いも理解してくれるはずだ…俺達の血が流れているのだから
「ごめんするぞぉ」
しわがれたこの声は…
「サーロン、デイヴィッド居るか?」
遺伝子の所為なのかサーロンと同じ様にずかずかを入ってくる男
「叔父貴、もう少し遠慮してくれよ」
サーロンは自分のしたことを覚えていないのかマードックの叔父貴を非難する
「部屋に行ったがいつまでも帰ってこんお前が悪い」
気にせずどっかりと椅子に座るマードック
「で、族長と氏族長の兄弟がこそこそと何を話しておった」
「レテウスのことを少々」
「このクソ忙しいときに息子のことか」
機嫌が悪そうなマードックだが二人はこれがマードックの素だと知っている
「ええまあ」
「そういえばもう幾つになる?わしは生まれたときしか会っておらんでの忘れてしまったわ」
「四つになります」
「ん?流石にもっと大きくなっているであろう」
顎に手をやり訝しむマードック
「それはアンガスでレテウスは下の子ですよ」
デイビッドがため息交じりに答える
「そうかそうか、いつの間に拵えおったんじゃ、わしゃあ知らんぞ」
「叔父貴が忘れてるだけで生まれた時抱き上げに来たじゃないか」
「そうじゃったか?で、そのレテウスがどうした?」
「うちで預かってるんですけどちょっとやんちゃしまして」
「よいではないか!子供は元気に育たねば…だが、なぜデイヴィッドのところに居る、他所に預けんのか?」
この叔父貴は無粋と言うか鈍感と言うか…兄貴の傷を無意識に抉る
「まあいろいろ在りまして、デイヴィッドのところに預けることになりました」
「で、その童がどうした」
堂々巡りだ…兄貴の顔が暗くなってくる
「そんなに心配なのなら行ってくれば良いではないか」
「さっきこのクソ忙しいときにって自分で言ったこと覚えてる?」
段々兄貴の口調も族長と支族長と言うよりは甥と叔父の会話になってきてる
「子が幼いのは一瞬だ、ましてや弟の村に居るのなら直ぐではないか」
言い切る叔父貴に返す言葉もなく項垂れる兄貴
「そうかそうか、ならばわしが行ってこよう」
「ずるいぞ叔父貴!だいたい自分の村の守りはどうするんだ」
兄貴の顔は暗くなったり赤くなったりと忙しい
「息子に任せておるに決まっているだろうが、あやつももう良い年なのだからそろそろあとを継いでもらわねば困る」
俺も兄貴もこき使われてやつれているであろう従兄弟の顔を思い浮かべて顔がひきつった
「可哀想に…」
ポツリと兄貴が漏らす
「で、どうするんじゃ俺が代わってお前が行くか俺が行くか、はっきりせい」
「………叔父貴が行って下さい」
顔を見ればもうそこには親ではなく族長の顔があった
本当に不器用な兄だ…
「わしは言ったからな、あとでピーピー泣くんじゃないぞ、まったくひねくれたまま大人になりおってお前の親父が泣くぞ」
「なんか親父が死んだみたいな言い方しないでくれ、親父に言いつけるぞ」
「そういう所がひねくれておると言ってるんじゃ」
会話を聞いているだけでもよくこれで叔父貴が支族長をこなせていると不思議で仕方がない
「デイヴィッド、それで出発はいつじゃ!」
「まだ時間かかります」
「だからどれくらいじゃ!」
「十日くらいですかね」
「遅い!そんなに待っておられるか、わしだけ先に行っとくからお前は後から来い」
言うだけ言って出ていってしまった
無茶苦茶な叔父貴だがこれでどうして人望はある、ただしこの性格だ氏族長争いにはまったくもってかすりもしなかった
「どうすんだアレ…」
「どうしようもないだろ…」
ばたん!叔父貴が戻ってきた
「カウトールの馬鹿から来た文を渡すの忘れとったわ」
「「それを先に言え!!」」
「仕方ないだろう。俺は読み書きはできん!まったくカウトールのやつめローランドなんぞにかぶれおって」
確かにローランドの貴族たちは書けはしなくとも大抵のものは読めると聞いている、だがうちと対して変わらない規模のカウトール家が送ってくるのは見栄を張ってるだけなのかもしれないがどうにも腑に落ちない
俺と兄貴が読み書きできるのは兄貴は大氏族に里子に出され俺は村に居た自称『崩れ聖職者』のお陰だ
「じゃあ、任せたぞ」
羊皮紙を叩きつけてさっさと出ていってしまった…そこまでして甥孫が見たいのか
二人残った部屋で兄貴に聞く
「なあ兄貴、きな臭いと思わないか」
「臭いなんてもんじゃないだろう」
まったくもって迷惑なものを押し付けられたものだ
「「はぁ~」」
兄弟仲良く同時にため息が漏れた
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