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NO MORE映画崩壊 -観客が消えた世界で、作り物の少女は本物の心を探す-  作者: 幸いぶん
シアター3.クローズドミステリー『ミス・マーブル/寝台列車、永遠の眠り』
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チャプター3.犯人はお前だ


 見慣れない景色に、時代劇の世界にあった懐かしい香りがした。


 乗り込み場(ホーム)に止まっていた黒くて大きな鉄の塊は、もくもくと白い煙を屋根から吐き出している。


 蒸気機関車、という名前らしい。


(中で薪でも炊いてるんかな?)


 その前に沢山の手荷物をもった人々が列を作り、旅行先がどうたらの話をして、楽しげに笑っていた。


「搭乗口はあっちね」

「んだっ!」


 おら達もそれに乗ろうと、ホームに出来た列に混ざる。


 客は乗り込む前に、従業員に小さな紙切れを見せていた。

 通行手形みたいなものか。


 ……でもそんなものを持ってたっけかな?


 横のシアウを見上げると、なんだか少し緊張した面持ちだ。


『チケットとお名前を』

「マーブルさんの紹介で来ました」


 目の前で順番にされていた質問。

 手番が回ってくると、ちょっと食い気味に答えるシアウ。



『え? ……ああ、お話はお伺いしております。

 こちらへどうぞ』


 その返答でほんの少し間があいた。


 不可思議なものでも見るかのように、従業員の目はまん丸になったが、すぐにシャキッとした表情に戻る。


 お荷物は? と聞かれて、三人全員で首を横に振った。


 旅行するのに手荷物もないのも、妙だと思われないかと少し考えたが。


『……まあ、あの変人の紹介だものな』


 止められることはなく、むしろ納得したような顔でぼやくと、そのまま中へと案内される。

 

「シアウ、この映画に知り合いなんていたんかぁ」

「しーーっ……! 乗り込むための嘘よ……!」

「ビジネスマンなのに、ヒーローなのに。こんな事したらイメージがっ……」


 床には映画館の廊下みたいに、赤い絨毯が敷き詰められ、奥へと道が続いていた。


 先導する従業員に着いていく中で、すれ違いにまた一人従業員がやって来る。


『そちらのお客様は?』

『マーブル様のご紹介だそうだ』

『あの、探偵の……?』


『また知り合いが来ると適当を言ってたかと思ったが……本当に来ることがあるとはな』

『まいったな。通常客室じゃ足りないぞ』

『上の区画、まだ空いていたか?』


 まただ。

 シアウが言った"マーブル"って名前が出るたびに、従業員たちが明らかにざわざわしてるのがわかる。


「ゴザとか用意してくれりゃ、おら何処でも寝れるぞ!」

『……お、お客様。聞こえてました?』

「んだ、耳はけっこう良いほうでな!」


『あは、あははは』


 ちょっと困っているようにも見えて、おらがそう言ってみると、乾いた笑いの後にそっぽをむかれてしまう。


 ……本当に床でも大丈夫なんだがな。


 引き攣っている面を見ているかぎり、ここではそう言うのもよくないらしい。


「ミス・マーブルの性格は私達も承知しております、あまりお気になさらず。

 急に来て、お手間を取らせてしまってすみません」


『いえいえ! すぐにお部屋をご用意させていただきますね』


 シアウが横から入ってくると、おらと話している時とは違ってなんだかホッとした顔をみせる。


 それを何気なく眺めながら、おらは床を手探りで触った。


「こんだけ床ふかふかしてたら、何処でも寝れそうなもんだけどなぁ」

「み、美桜っ!!」


 あちこちから視線を感じた直後。


 すぐにおらはシアウにひょいと抱き上げられ、フーディは此方を見ないで肩をぷるぷると震わせていた。


『げ、元気のいいお子さんですね』


 

 …………。



「おら十八だぁ!!!!!!」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 通されたのはラウンジなる場所。


 そこはアメコミの世界で泊まった、ホテルとやらに内装は似ていた。


 違っていたのは、彼処よりもちょっと手狭なところと、窓の外の景色がずっと変わり続けているところだ。


『お部屋のご用意を致しますので、此処でお待ち下さい』


 軽くお辞儀をすると従業員は奥の方へと消えていく。


 それを見送ると、近場のソファへと恐る恐る腰を下ろした。



「すげえ、家が動いてるみてえだなぁ」


 まわりに人は多いのに、なんだか静かだ。

 

 耳にはいってくるのは、江戸では掻き消されるような大きさの話し声と、

 聞き慣れない、透きとおるような楽器の音。


「oh! BARまであるんデスネ!」

「なあフーディ? なんだべあの楽器。みたことねえや」

「アレはピアノデース!」

「ぴあの」


 好奇心にまかせて視線があちこちに引っ張れてしまう。


「WAO! 列車のイメージ変わりマスネ!」

「そういや、フーディのとこはこういう乗り物あるんだもんな」

「YES。でもこんなリゾートホテルみたいなのではなかったデース!」


 フーディあたりは慣れたものかと思っていたが、おらとおんなじぐらい感激を、


「── お客様満足度MAX、アメイジングッ!!」


「泣くほどか?」


 ……いや、おら以上になにかを噛み締めていた。



「ふ、二人とも目立ったことはしないでね? 私いまあんまり生きた心地しないわっ……!」


 シアウが人差し指を唇の前に立てる。


 乗客たちの目線が、おらたちに集まっていることに気づいた。


「んいや、これもう後の祭りじゃねえかな」

「hahaha! まあアメコミに時代劇にファンタジー! 格好の時点で、デスヨネ!!」


「……そこに配慮すんの忘れてたぁ……ッ……!!」


「まあ、ここに入る前に考えなきゃいけねえこと多かったしなぁ」

「don't mind!」



『あ、あのぉーー……』

 


 頭を抱えているシアウの肩を、おらとフーディでぽんぽんと叩いていると、背後から声。


「んだ?」


 ちらりとそちらを見る。


 上下が一体になった白くふんわりとした服(ワンピース)に身につけた、

 気の弱そうな、栗色の髪の若い娘が立っていた。


『えっと、えっと』


 何か言いたげにおどおどしているのを見て、おらはハッとして言葉を返す。


「あっ。煩かったよな! すまねえ、すぐ静かにーーーー」


『ち、ちがうんですそう言うのじゃなくてっ! 珍しいお洋服を着ていらしたので、つ、ついお声かけを……』


 その瞳は、おらの着物を食い入るように見つめていた。


『その、綺麗だなぁ。って』


 雅でお堅い雰囲気のラウンジ。

 そんな場所に合わないような、ぽわぽわとした笑顔をみせてくる娘。


 じっちゃんに拵えてもらった着物。

 それを褒められて、いつのまにかおらも頬がふにゃりと綻んでいた。


 両手を広げて、だろう? と得意げにすると、

 娘は熱心に頷いている。


『あっ、申し遅れました。私、リリアと申します』

「おら美桜だ!」


「……美桜」


 自己紹介をする中で、シアウが小さく裾を引っ張り、耳打ちをしてくる。


 一瞬とはいえ、この時おらは忘れていた。


『お名前的に、日本の方でしょうか?』

「おっ。おめえ日ノ本のこと知ってるんかぁ」


『はい! 実際に会ったのは初めてですけど。

 ……あの、よろしければ私とお話して頂けませんかっ。

 ご迷惑じゃなければ、ですが……』

「おう、もちろん構わねえべ!」

『あ、ありがとうございますっ』


「……美桜ッ……!!」

「んだぁ? どうしたんだよ、シアウ」


 この映画が。


「その子」



 "ミステリー映画"、だということを。



「── これから、人を殺すわ」

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