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NO MORE映画崩壊 -観客が消えた世界で、作り物の少女は本物の心を探す-  作者: 幸いぶん
シアター3.クローズドミステリー『ミス・マーブル/寝台列車、永遠の眠り』
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チャプター1.解決してはいけない事件


 目の前に広がるのは現実の街並み。


 高層ビルが建ち並び、道は細かく入り組み、おらたちの足音が吸い込まれては消えていく。


 すこしでも逸れたら迷うことは確実だろう。


「なんだここ?」

「コンビニって言うお店よ」

「……コンビニ。映画館よか随分狭いな」


 おら達は食料調達に来ていた。

 アメコミの世界で調達する暇も無く、帰還してしまったからだ。


 派手な色の看板掲げた、小さなお店。

 そのガラス戸を無理やりこじ開け、おらたちは中に入っていく。


 こじんまりした通路。なのにそこには本や食料や雑貨が所狭しと並んでいる。


 八百屋と本屋と薬屋が一つに詰め込まれたような、こんなのは江戸時代には無かった。


 あちこち見ていると、フーディが瓶詰めと睨めっこをしているのを見つけた。


「コレは賞味期限が切れてマース」

「別に食えるだろ。美味しく食える期間、だべ?」


「食事は気をつけないと……」

「んだ?」

「こうなりマース!!」


 ピョンと飛び跳ねて天井に付く。

 昆虫を食べて手に入れた力を見せつけてくる。


「気をつけねえとなぁ」

「せめてコッチみてクダサーイ?」


 おらはそれを軽く流し、棚に並んだ本に目が行く。


 耳がピクリと動き、いつのまにか手を伸びていた。


「な、なんか、この棚。ちょっと高くねえかっ」


 ……指先もかすらない。


「んだっ。んだっ!」

「これ欲しいの? はい」


 ぴょんぴょんとしていると、

 シアウがやってきて、手渡してくれた。


「おお! あんがとーーっ!!」

「嬉しいのはわかるけど、静かにね」


 叫んだおらに、シアウは指を口に添える。


「ビネガーに見つかっちゃうわ」


 本が並ぶ棚の先は、外を見渡せるガラス張り。

 そこに映る影をみて、おらは口を慌てて塞ぐ。


「やべっ……!」


 静かな街の中を、黒い靄がうねうねと動いている。


 大きなナメクジを素早くしたような、そんな感じ。


 此処にくるまでに、まばらに居た奴らだ。


「アイツら、現実世界にもおるんだな」

「うん。むしろコッチを消すのが本職だしね」

「映画の中と違いマース。お気をつけて」

「ちがう?」


「現実世界だとね」


 おらの目線を導くように

 シアウは外の景色に指を刺す。

 そのさきには、


 車と、黒い靄が接触しようとしていた。


「ああなるの」


 黒い靄が車に掠る。

 すこし触れただけだ。

 音も無く。


 削れたわけでも、砕けたわけでも無い。


「……触れたらお終いってワケか。随分と理不尽だな」

「でしょ?」


 ただ、そこにあった"形"がぽっかりと。


 この世界から、抜け落ちていた。


「映画を消す時にゃ、随分と回りくどいんだな」

「入り込んでるのは欠片みたいなものだからね」


 今まで対処してきたビネガーを思い出す。

 ……あれで欠片だったのか。


「あと簡単には消せないのかも、フィルムは」

「中に詰まってるのはビネガーとは正反対のもの。言うてたもんな」

「うん。まあ、あくまで予想だけどね。

 そもそも街にいるみたいな大きなビネガーは、映画館まで来た事がないわ」


「なるほどなぁ」


 三人で黒い靄が過ぎ去るまで、息を顰める。


 過ぎ去った確認し終えると、

 籠にたっぷりの食料を入れて、フーディがそれを持ち運ぶ。


 シアウは力が無いから軽いもんだけ。

 おらはビネガーに襲われた時の為に、手を開けたままにしておく。


「まあそれはそれとして美桜?」

「hey! ミオさん。食料調達って言いマシタヨネ?」


「んだっ!?」


 こっそりと籠の中に本を入れようとする。


 二人の視線に耳がぴくっと震えた。


「いや〜〜……綺麗なまんま残ってたし。

 放って消されちまうのはもったいねえしっ」


 おらは抱えた本をチラリと見る。

 パンフレットとはまた違う厚み、文字だけの物まである。


 自己啓発、漫画、ビジネス、占い、雑誌。


 知らない単語を見るたびに、本を握りしめる力が強くなる。


「ボクとしてはまあ知識に貪欲なのはイイと思いマスケドネ! haha!」


 フーディはシアウの方をチラリと見る。

 おらもシアウの方を恐る恐る見る。


「……シアウ〜〜?」

「ん? いいわよ」


 目があうと、シアウは微笑んでこくりと頷く。


「wats!?」

「ええのかーーっ!」


「う、うん。

 でも逃げなきゃいけなくなった時はなるべく食料を優先してね?……あと、静かにね」


 おらとフーディが驚いて声をあげると、

 シアウは少しきょとんとした後、

 おらの頭を撫でて、また微笑んだ。


「んだっ!」


 許可を貰えたなら入れよう。

 籠を持ってるのはフーディだから、それをしっかり考えて。


 迷惑をかけない程度だ。


「変わりマシタネェ」

「……変、かな?」

「NO! イイと思いマース。

 余裕があれば、イイビジネスがしやすいものデース」


 力持ちなら、ある程度入れても大丈夫な筈だ。


 〈このミステリーが凄い!〉

 この本も小さい。コレも入れて。


 〈消える自分の探し方〉

 分厚くてずっしり──でも内容は軽い。


 ……軽いから入れていい!!


 二人が会話をしている中でおらは夢中になって本を放り込む。


 その腕がいきなり掴まれた。


「hey!! ミオさん!!」

「んだぁ?」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 おらは二人を先に行かせて殿を務める。

 映画館の入口で周囲を警戒する。


 ……黒い靄は何処にも見えない。大丈夫そうだ。


「ただいまーーっ!」


 確認を終えるとおらはロビーに軽快にすべりこんだ。

 特に大きな問題もなかった。


 ……強いて言えばフーディに本を半分ぐらい戻されてしまったことぐらい。


(それでもまだ半分はあるべっ……!)


「これで当分は持ちマスネ。ホットドッグも食べ放題デース!」


 先にフーディはソファで一息ついていた。


 その横に置かれた籠に飛びついておらは本を漁る。


「oh、そ、そんなに慌ててなくても……」

「〈猿でもわかるサイコパス診断〉にすっかな。

 〈海外旅するなら〜ロンドンの魅力〜〉もおもろそうだぁ!!」

「……映画見てる時のシアウさんみたいデース」


 それを見て苦笑いするフーディの言葉でおらは気づく。


「ありゃシアウは?」

「食材持って売店の方に行ってマース!」

「お腹空いてたんかぁ。

 料理しとるんなら手伝いでもいくかねえ」


 シアウと食材の半分ほどが見当たらない。


 シアウはおら達に比べると体力がないのは旅をしてきてわかっていた。

 本を置いて、売店の方に向かおうとする。


 すぐフーディに肩を掴まれた。

 

「ミオさんの為にポップコーン作るんだ。

 とのコトデース」

「んだ?」


 その一言に売店に行こうとしていた足を止める。


「……変わったなぁ」

「デスネ。haha!」


 ちらりと見ると、奥で鼻歌を歌っているシアウが見えた。


「ボクは彼女と旅をしてきマシタケド、あんな風になるとは想像してなかったデース。

 一人で何もかも背負いこんで。

 傷ついて。

 強がって。

 ……だからボクは彼女を放っておけなかった」


 フーディはそれを見て、まるで子供を見守る親みたいに笑っていた。

 おらも見守ることにしてその横に腰を落ち着ける。


「どんな口説き方したんデース?」

「別に、おらはなんでも話を聞くって言っただけだっての」


 映画を守る為に、あれだけ強張っていたその顔は、今は無邪気に笑っている。


 ……あれが本来の顔なんだろうな。と、おらも頬を緩めた。


「そいやさ、フーディ」

「WHY」


 それを見てふと思った。


「シアウの映画(ふるさと)って知っとるんか?」

「いえ。あまりそういう話をしてくなかったと言うか……今までツンツンしてて距離ありマシタカラネ」


 グラスホッパーの映画に突入してフーディの事は知れた。


 そもそも隠す気もなかっただろう。

 聞けば大抵は答えてくれた。


 でもシアウのことは……。


 映画好き。

 おらとおんなじエルフ。


 その二つぐらいしか知らない。

 戦いの時も何か能力を見せたこともない。


「なるほどなぁ」

「聞いてみるのもアリデース」

「いやぁ。自分から話し出すのを待った方が」

「知りたくないのデース?」

「……正直、めちゃくちゃ興味はあっけどさ」


 今なら聞けば答えてくれそうだが、なんだか気が引ける。


 フーディも眉を顰めて腕を組んでいる。

 多分おんなじ気持ちなんだろう。


「うーん」

「フーム」


「二人とも何難しい顔してるの?」


「oh!?」「んだぁ!?」


 二人で顔を顰めて考え込んでいるうちに、いつのまにかシアウが帰ってきていた。


「イヤーソノーデスネー」

「映画の、話を、なぁ」


 おらたち二人が言葉を出すか迷っていると。


「映画?」


「そのシアウ。おめえの映画──」

「……そう、もう察していたのね」


 シアウの表情が意を決した物へと変わる。


 おらたちが聞きたいことを察していたのか。


「そうなの」


 いつのまにか、おらたちは拳を握りしめ。

 ゴクリと息を飲み、シアウの言葉を待つ。


「また新しい映画がビネガーにかかっちゃって」


 テーブルに黒い靄のかかったフィルムが置かれる。


 ずるり、とおらたちはソファから転げ落ちた。


「だ、大丈夫?」


「h、haha! of course!」

「気にせず話を続けてくれっ……!」


 不思議そうにしているシアウに二人でそう言う。


 か、構えていたものと違ったが……これも対処しないといけない問題だ。


 気持ちを切り替えて、おら達は立ち上がる。


「次の映画のタイトルはね」


 一拍、置いて。


「〈ミス・マーブル/寝台列車、永遠の眠り〉」


 次の舞台の名前がシアウから語られた。


「フムタイトル的に推理物デース?」

「うん。1900年代のロンドンが舞台のね」


 "推理物"、聞いた事のない言葉だ。


 アメコミのヒーローみたいに凄い力を持った奴らが居るかと想像する。


「なら居るのは普通の人間だけデスネ。パパッと終わりそうデース!」


 だがおらが身構えていた横で、フーディの表情が安心するように崩れた。


「アメコミみたいにやべーやつおらんのか?」


「いない、んだけどね」


「……なんか歯切れがわりいな?」


 おらの問いにフーディが親指をあげる。

 それをシアウも否定しない。


 だがなんだか、その一言一言がやけに引っかかるように遅い。


「正直に言うと、時代劇やアメコミより遥かに厄介なの」


 おらとフーディは首を傾げて顔を見合わせる。


「もっと具体的に言うとね、その……ビネガーを気絶させたら」


 困った顔のシアウが絞り出すように、おら達に投げかけたのは。


「その時点でゲームオーバー」


 解決不可能とでも言うかのような、セリフだった。


「────んだぁッ!!??」

「────wats!!??」


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