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NO MORE映画崩壊 -観客が消えた世界で、作り物の少女は本物の心を探す-  作者: 幸いぶん
シアター2.アメコミリブート『マーベラスグラスホッパー』
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46/51

番外編.パンフレット〈グラスホッパー〉


 映画館のいつものロビー。


 最初は落ち着かなかった景色も、今じゃすっかり見慣れてしまった。


 身体が勝手にくつろぎ方を覚えていて、ソファにぼふん、と飛び込む。


 腕に抱えていたパンフレットをテーブルに広げると、紙の匂いと一緒に胸が少しだけ高鳴った。


「またパンフレットを見てるの?」


 シアターに繋がる通路からシアウが歩いてくる。

 欠伸混じりの声。……また夜更かしでもしたのだろう。


「んだ! フーディの映画のパンフレット見つけてなぁ」

「無印〈グラスホッパー〉のじゃない。よく見つけたわねぇ」


 表紙をひらりと見せてまたページに目を落とす。

 知らないことをが増えるたびに、胸の奥がじんわりと熱くなる。


「読めないとこない? 読んであげよっか」

「あんがと。でも最近ちっとは英語も読めるようになってな」


 首を横にふる。嫌とかじゃない。


 文字を読むのでずっと手間をかけさせるのも悪いし、"知る"と言うのは元から好きだったから。


「大丈──」


 言いかけて、止まる。


 シアウの顔。

 笑ってはいるのに、その瞳だけが寂しげに揺れていた。

 

「シ、シアウ、おらこれまだ読めんなぁ〜〜っ! よ、呼んでくれねえかなぁ〜〜?」


 慌ててパンフレットを差し出してみると。



「──うんっ!」



 ぱっと表情が明るくなる。


 その変わり方があまりにも分かりやすくて、おらはちょっとだけ苦笑いをした。


(心開いてくれてるっちゅーことなのかねぇ……)


 マーベラスグラスホッパーの映画に潜って以来ずっとこの調子だ。


 言葉も表情もなんだか柔らかい。


 隣に座ったシアウは、いつもより近い距離でページを開く。


「美桜。膝、おいで」


 鼻歌混じりに手を引かれる。


「タイトルは〈グラスホッパー〉。

 200◯年に最初のシリーズが公開されたの。

 無印とか、監督の名前から取ってサラミ版とか呼ばれてたりしててね」


「おら達と一緒におるフーディはその無印のだよな?」

「そそっ。

 ちなみにこの前に潜ったのは"マーベラスシリーズ"。

 ヒーロー同士のコラボが増えてきた時期のやつ」


 膝に座るとぎゅっと抱きしめられる。

 ちょっと苦しいけど、嫌じゃない。


「大筋はどれもおんなじ。

 父親に憧れて、真っ直ぐに育った主人公"フーディ・アーツ"が、ビジネスマン──つまりヒーローとして人々の笑顔を守る話」


 ページをめくる手がピタリと止まる。


「あっ」

「んだ?」


 能力を手に入れた経緯が書かれているページだ。


「hey! ボク抜きでボクの話をするなんて!」

「おっ、噂をしたらご本人様登場だべ」


 シアウは少しだけ言い淀む。

 そんな中でフーディがホットドッグを片手に歩いてきた。


「oh? haha! 言っても大丈夫デスヨ!」

「わ、私からは、ちょっと説明しにくいかなぁ……」


 フーディはパンフを覗き込み、すぐに察したように笑った。


「Dr.ゲソマミレの研究で作られたバイオバッタをうっかり食べてしまったのデース!」


 そのままピョンと飛び上がる。

 五メートル以上離れた天井にあっさりと手が触れる。


「それから、ご覧の通りデース!」


 軽やかに着地してから、ドヤ顔。


 パンフには他にも食べた人物がいると書かれている。が、二人はその事には触れようとしない。


 事情がありそうだなと、おらは深くは踏み込まなかった。


「ビルを蹴って移動出来る跳躍力と、治癒力の高さ。どのシリーズで共通の能力なの」


「なんだ。イナゴの佃煮は嫌がってたのに虫食えるじゃねえか」

「hahaha! ノーセンキュー!! 二度とゴメンデース!」


 フーディがぶんぶんと首を横にふり、顔をしかめる。

 そのすぐ後に三人で顔を見合わせると笑いが溢れた。


「なんでシリーズってので別れてんだ?」


「んー……監督が変わったり、続編が作れない間に版権を失ったり。

 アメコミ独自の事情があってね。

 権利が移って、また作られて感じかな」


「んだ? んだぁ?」


 映画は内外どっちも色んな事情があるのはわかったが。


「ふふっ。流石にまだわからない言葉よね。後で教えてあげる」


 細部を理解するまでには勉強がまだ必要だな。とおらは眉を顰めた。


「ちなみにフーディがサングラスかけてる時あるでしょ?」


 こっそりと耳打ちをしてくるシアウ。


「ああ。戦う前にいつもつけとるな」

「アレ、本人的には変装してるつもり。でも街の皆にはバレてるの」

「……や、やっぱりそうだったのな」


 当人にバレないようにと小声で話しているとフーディの顔がぐぐっと近づいてくる。


「コソコソ何を言ってるのデース!」


「あーー……おめえの街の人、良い人ばっかだなって話だっ!」


 目を泳がせた。これしか言える事はない。


「……」


 一つ声が減り、違和感を感じる。

 ちらりと見るとシアウの手が震えていた。


 シアウの持っていたパンフが、くしゃりと小さく折れる。


「シアウ?」

「どうしマシタ? いきなり黙って」


 徐々にその震えはシアウの全身へと広がっていく。


「これ以上話そうとするとっ、多分、止まらなくなっちゃうからっ……!!」


「んだぁ!?」「oh!?」


 おらは反射で膝から飛び降り、フーディはその場で方向転換。


 二人で売店のカウンターに走って隠れて、そっと顔だけ出す。


「あの雰囲気は間違いない、二時間コースデスッ!」

「まだ理性があるっぽいけんどもッ……!」



 ──捕まったら、終わりだ。



「……んだ?」


 だがシアウはいつまでたっても来ない。

 ソファに座ったままだ。


「大丈夫! 我慢できるから。

 二人の寝る時間、無くなっちゃうし」


 そう言って、シアウは笑っていた。


 さっきよりも小さく。


「……なんかなぁ」

「……調子狂いマスネェ」


 フーディと顔を見合わせる。


 少しだけ間を置いてから。おらたちは二人同時にカウンターを飛び出した。


「どうしたの?」


 きょとんとした顔を見つめながら。


「なんでも話聞くって約束したしな。リディの家で」

「haha! たまには残業もイイかなと」


 おらはまたシアウの膝に座って。

 フーディはおなじソファに腰を下ろす。


 まあ、知るのは好きだしな。と思いながら


「──」


 またシアウの表情が明るくなる。


「あ、ありがとう。一時間ぐらいで抑えるからっ!」


 ──結局。三時間オーバーだった。


 でも、その顔を見ていたら。


「あのねっ。あのね!」


 いつのまにか、不思議と時間が過ぎていた。

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