チャプター22.心に残る景色
──また夢を見た。
「元気にしてるかなぁ」
緑な豊かな森
湖には一角の馬が水を飲み。
光の粒が、まるで意思を持つように踊っている。
そこにぽつんとある小さな小屋。
「私も一緒にしたかったな。皆と旅を」
彼女は祈るように郵便を開け、そしてため息を吐いた。
「なんて、我儘いっちゃダメだよね」
寂しげに空に移される瞳は。
「無事に帰ってきてね。皆」
その髪の色は。
(……おらと、おんなじ?)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目を覚まし、おらは上体を起こす。
寝ている場所はソファーの上。
(いつもよりモコモコだ)
寝やすいように毛布が幾重にも敷かれていた。
周りを見渡すと、映画のパンフレットが並んだいつもの売店が見える。
映画館のロビーだ。
「Hello! ミオさん!」
フーディは別のソファーに座ってコーヒーを飲んでいた。
おらに気付くと片手をあげて、笑っている。
「──ッ!?」
「だ、大丈夫デース?」
それを真似して右手をあげようとすると、激しい痛みが走る。
「わ、忘れてたべっ……!」
折れた右腕を力で治療しながら、フーディに問いかけた。
「帰ってこれたんだな」
「ハイ! エンディングを迎えて無事に。フィルムもしっかり残ってマース!」
「そっか」
テーブルの上に乗っかるフィルムを目にすると、強張っていた頬がふにゃりと崩れていく。
「問題はボクが少し出るの遅れたぐらいデース! あのまま続編まで残業かと思いマシタ!」
「それはそれでおもろそうだなっ。へへっ」
「oh。勘弁してクダサーイ! ハードワークだったんデスヨ?」
冗談交じりに笑いあうと、シアウが足元で寝ている事に気付いた。
「どんぐらい経ってるんだ?」
「現実に戻って来てから一日。ずっと付きっきりデシタネ」
シアウは上半身と腕だけをソファーの上に乗せ、膝は地面についている。
「……映画を見ずに、か」
おらが落下しない様に気を配ってくれてたのだろう。
「わりい事をしちまったな」
「美、桜……?」
シアウの頭をゆっくりと撫でると起こしてしまった。
「おはよーさん。しあう」
「美桜……美桜ーーーーッ!!」
笑っているのか泣いているのか、よくわからない。
感情を突き出しにしたシアウの顔。
「んだぁーーーーッ!?」
「全然起ぎないがらっ! 良がっだぁ!!」
今まで見たことのないソレに動揺をしている間に、シアウはおらに飛びかかり、ギュッと抱きしめてくる。
「haha! あんまりはしゃぐと落ち──」
ごちん! と音が響いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少しして、おら達はテーブル前のソファーに三人で腰掛ける。
正確にはおらだけはシアウの膝の上だ。
降りようとすると、何とも言えない表情をするので離れられない。
「〈マーベラスグラスホッパー〉のフィルムからビネガーシンドロームの除去は成功。これで、この映画が消える事はもうないわ」
テーブルの上のフィルムからは、入る前にはあった黒い靄は消えている。
「またビネガーかかったりせんの?」
「一度取り除くと、異物に対しての免疫が出来るみたいなの。私達がエンディングで外に出されたのもその一環ね」
「そうなのかぁ。なら安心だな!」
全てが丸く収まったはずなのにシアウの表情は曇っていく。
「……うん」
「しあう?」
「正常になろうとするのなら、物語も本来通りに戻る。デスネ?」
言葉を詰まらせている様子を見て、フーディが代わりに口を開いた。
"物語が本来の形に戻る"。
つまり、予定外に救った命は。
「!! ……そんじゃあふーでいの父ちゃんは」
「……ごめんなさい」
シアウの表情の意味がわかった。
おらも言葉が出てこない。
少しの間が出来る。
「no problem!」
そんな沈黙を最初に破ったのは、フーディだった。
「元々ボクが助けた事がおかしい事デシタカラ。シアウさんが謝るコトではアリマセーン」
一番何かを言いたい筈だろうに。
フーディはいつもどおりに笑ってみせる。
「それに戻るだけ。全てが消えるワケではアリマセーン」
おら達を安心させようと。
「ボク達のココに残ってマース」
自分の胸を指さして、そう言った。
おら達に言い聞かせるように。
自分自身に、言い聞かせるように。
無碍にしちゃいけない。と思ったのもあったが。
「ちょっと格好つけてんなぁ?」
それは映画の本質であると感じて、おらは笑い返した。
「oh! ワカッチャイマシタ?」
笑い合うおら達を見て。
意を決したようにシアウは口を開く。
「私はどんな手を使ってでも映画を守りたかった。世界を救いたいのもあるけど、私は……映画が好きだから」
おらとフーディは黙り込む。
「修正するべき箇所しか見ずに。どうせ修正されるんだからって、気持ちまで利用してた」
"話してほしい"と言った、おら達のと約束に応えようと。
「忘れてた。忘れちゃいけないものを……」
自分自身の気持ちを、確認しながら。
「……二人も傷つけた。本当にごめんなさい」
苦しげにしながらも。
「haha! 律儀デスネ! ボクはもう解決したつもりデシタ!」
「んだ! 元はと言えばわりいのはおら達だしな!」
「それでも、ちゃんと伝えておきたくて」
シアウの瞳はいつもみたいに、逃げる事は無かった。
「……そっか」
「ならボク達からも報連相しときマス?」
「んだな!」
おらとフーディが顔を見合わせると、シアウは小首を傾げる。
「ボクは人類の皆さんを救って、業績を上げる為に」
「おらは故郷の映画を見つける為に、おらが何なのか知る為に」
「「しあうを利用するべ」」
「──!!」
わざと意地悪く言ってみた声色に。
「これで"おあいこ"だ。これからもよろしくな」
「……うんっ!」
シアウは涙を浮かべながらも、笑みを浮かべた。
「次からは、きちんと全部話すから。いっぱい利用してねっ!!」
「haha! 良心の呵責がッ!」
「こんな気持ちだったんかッ!」
おらとフーディが軽口を言いあって、笑っているのを眺めていた彼女は。
「ぷっ。あっはっはっは!!」
今、おら達と一緒に笑っていた。
作り物だった態度が剥がれた、その笑顔はまるで。
「でもまあ、悪い気はしないデスネ」
「んだなっ!」
あどけない子供の様だった。




