チャプター20.正当な評価
私は自転車に乗り、カメラを固定し続け。
近すぎず、遠すぎずに戦いを見守る。
【そんな、ワケがッ!!】
カロースは美桜に煽られて能力を使わなかった。
だが、途中で現れた邪魔者には容赦なく、何度もカロースは時を止めようと指を鳴らす。
【時間が、止まらないッ……!?】
『当たり前デース!!』
でも彼の身体は止まらない。
それに間髪を入れずに、脚、胴、頭。
的確に狙うようにリディの蹴りがカロースの身体を捉え、骨を軋ませる。
『どんな事が起ころうと、必ず時間を守って、仕事をするのがビジネスマン! 時間が止まったぐらいで……』
対象を指定すれば、カロースの時止めの効果時間は"無制限"。
それをやられたら、通常ならばゲームオーバーだ。
だけどリディの場合は違う。
この映画の主人公だから、主人公補正で特殊能力を跳ね除けられる?
そうじゃない。
『私のビジネスはッ! 止められないッ!!』
【意味のわからないコトをッ!!】
無印映画版のフーディ
リブート版のフーディ
この世界には、"フーディ・アーツ"と言う"おんなじキャラクター"が重複している。
きっとそんな存在に能力を使えば、そのプロセスにありえないバグが混入する。
(正直、能力が効かないかどうかも賭けだったけどね。なんとかなって良かった……)
『意味がわからないのはどっちデスカッ!!』
『アナタはヒーローデショウ!? それなのに何をやっているんデス! 街を壊して、ミオさんを傷付けてッ!!』
対象を世界ごとにすれば、問題なく止められるだろうけど、ビネガー化と焦りによって判断に冷静さは無い。
【誰も僕を認めない。ヒーローじゃないと拒み続ける! どんなに救っても、どんなに守っても、お前には足りないとッ!!】
カロースが撃てば、リディが蹴り返す。
一撃一撃が必殺の威力。
空気を揺らし、音を響かせ、目にも止まらぬ速さでの接近戦の応酬。
普通ならリディは圧倒されているだろう、一回目の戦いの時の様に。
美桜がカロースに与えた続けたダメージが確実に、効いている。
【だからいらない、ボクを認めない神々も。世界も全部ッ!! ……消えて、しまえばッ……】
『何が、認められていないデスカ』
【消えてしまえばッッ!!】
『貴方を呼んでる声が、こんなにあるデショウッ!!!!』
リディは距離を取る様に、カロースを蹴り飛ばす。
【何を?】
『神々の事情もカロースさんの事情も、ボクは知りマセン。単なる人間、単なるビジネスマンなので』
リディの説得も虚しく。
カロースに絡みついている黒い靄はどんどん強く、大きくなって、彼を離さない。
『ただ貴方の自分への評価は間違ってるとハッキリ言えマース』
【また否定か】
『いいえ、アナタの評価は厳しい。人にも、自分にすらも』
【……人間は不完全だ。その血が半分入った僕も】
『完璧なんて最初は何処にもありマセン、初めは等しくルーキーだ。そこから少しずつ積み重ねていくんデス。失敗も、経験も……信頼も』
その黒い靄が、カロースの翼の残り少ない白い部分を完全に染め上げようとした時に。
『アナタはしっかり積み重ねて来た』
【やめろ】
『その結果が』
また、声が響く。
《カロース! がんばれーーっ!!》
《そんな変な物に飲み込まれるなーーッ!!》
《目を覚まして、私達の──》
【やめて、くれ】
『あの顧客の皆さんだ』
カロースに助けられた事のある人々の声が、未だに彼を信じて響き続けている。
【やめろ、消したくないッ……』
カロースは頭を抑えて静かに苦しむ。
《───ヒーローッ!!!!》
絡みつく黒い靄は、相反する様に激しく動き回り始め。
『やだ、頼む、僕を……止めてくれーーーーッッ!!!!』
暴走する黒い靄は、街の人に向かって伸びていく。
「──太刀風」
風の刃がソレを切り裂く。
リディとカロースが戦っている間に、美桜は鉄扇を回収していた様だ。
「任せとけ……!」
『そのビジネス、承りマシタ!!』
リディの横に美桜が並んで構える。
【こんな 世界】
それに対峙をしているカロースの声が、憎しみの色に染まる。
カロースは片手を突き出し、光と黒い靄がエネルギーとして凝縮され玉になっていく。
「く、空間に、ヒビが入ってるのっ!? あんなのを撃たれたりしたら、その瞬間にこの映画が……!!」
その周りにはノイズが発生していて、剥がれ落ちた景色の向こうには、現実世界にあるはずの映画館が見える。
タイムリミットはない。
リディと美桜は一列に並び、真っ向から攻撃に転じようとする。
「させねえぞッ!」
『今度こそ、救うんだ。やり遂げるッ!!』
それを見て。
叫びを聞いて。
私は身体が動き出していた。
【消えて しま】
(ビネガー化しても、アナタは抗おうとした。市民に手を出すまいと耐え続けていた)
自転車を全速力で漕ぎ出し。
真横から、カロースに向かって突っ込む。
「──ッ!? 負けないで! カロースッ!!」
こんなものが効くわけがない。
自転車はひしゃげて壊れ、私の身体は宙へと投げだされる。
それでも、僅かながらに体勢がぐらつき。
【── 助け、なきゃ】
カロースの目が私を見る。
全てを壊そうとしていた手が、遅れて、私に伸ばされようとする。
「日ノ本ではな、"ちゃんす"とやらは、こう言うんだ」
次の瞬間。
「風が吹く、ってな」
美桜がリディの背に立ち、鉄扇を振り仰ぐ。
リディは地面を蹴り上げ、私達の方へ飛ぶ。
『── ボクの仕事をッ!!』
風に乗ったリディの飛び蹴りは、音をも置き去りにして。
カロースを、その身体に絡みつく黒い靄を捉えて吹き飛ばした。
「あ、ありがとう」
最後に落ちていく私の身体をしっかり受け止め。
『いえいえ、これもボクのビジネスなので。……アナタもイイ仕事デシタヨ。haha!』
仕事終わりの汗を拭いながら、リディは笑った。




