チャプター18.ヒーローを呼ぶ声
最終決戦の始まるちょっと前、リディの家から旅立って目的地におら達が向かっている時の話だ。
「リディの成長を後押しする」
この映画を救う為のシアウの作戦を、おら達は歩きながら聞いていた。
「具体的にはどうやってだべ?」
「本来、ボクがヒーローとしての覚悟を知るのは……父さんの死と言うプロセスを踏んでからデース」
「うん、あれがあるからこそフーディはヒーローになった」
その覚醒はおら達が父ちゃんを助けてしまったから無くなってしまった。
「……この世界では、止めてしまいマシタケドネ」
「ううん、まだ終わってないわ」
「ホワイ?」
責任を感じている様子のフーディを、シアウは責めたりせずにそう声をかける。
「この物語はリディとカロースがヒーローとして成長するまでの物語。つまりエンディングまでにそれが達成出来ればこの映画は消えないハズ……だと思う」
まだこの物語が破綻した扱いされて消えてないのも、それで説明がつくと付け加え。
「リディを覚醒させてカロースとぶつける、戦力的にも優位になるし、何よりカロースにリディを認めさせなきゃいけない」
「でもりでぃは引きこもっとるし、羽っこはビネガーだべ」
「だからこのアツダンシティの人たちの力を借りる。テレビ中継をして声援を集めるの」
この街の人間がヒーローに友好的なのは知っていた。
操られたヒーローがいるっていうのなら彼等は居てもたってもいられず駆けつけてくる。
「……それがあいつらに届くかどうかって賭けな訳か」
それがリディにちゃんと届くかはわからない。
シアウもそれはわかっているのだろう、自信はあまり無さそうだった。
「うん」
「ボクたちはどうしたら?」
「最初はゲソマミレを速攻で捕まえる。倒したら映画のエンディングまでの流れにはいっちゃうから、ビネガーを解決までは倒せないわ」
「捕まえる前に羽っこきちまったら?」
「その場合は美桜とフーディが二手に分かれて、この地点にそれぞれ誘導してほしい」
シアウが地図を広げて、おら達はそれをのぞく。
一番地と三番地、ここは建物の復旧も間に合っていなくて立ち入り禁止になっていると。
集まってくる市民達も必然的に遠巻きになるから、巻き込む危険性も可能な限り減らせる。
おら達が戦闘に集中出来るようにとの配慮も見えた。
「フーディはゲソマミレを相手にして。既に成長しているアナタなら、倒さないでいなせるハズ」
「厄介さも知ってマスカラネ、それには賛成なのデスガ……それだと」
「おらが羽っこを抑えにゃならんって事か」
フーディと二人でも敵わなかった相手を、一人で。
「成長前のカロースは血統主義者、神聖な種族には価値があり丁寧に接する。……まだ自我が残っているのなら」
「エルフのおらにゃ手加減してくれるかもって事な」
シアウにはそれも考えがあっての事だった。
おらも一度倒した相手が一人だけならちょっとは油断するかもな、と思った。
「そうであれば良いな、って賭けも入ってる作戦よ、上手くいくかはわからない……」
だけど危険なのには変わりない、シアウは全部包み隠さず言ってくれた。
不安そうなシアウの顔を覗き込み、おらが笑うと。
「でもやる価値はあんだろ?」
「……うん!」
おらの顔をしっかりと見てから、シアウは頷いた。
「んだ!なら頑張るべ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
三番地にカロースを誘き寄せたおらは、作戦通りにそこで戦いを始めていた。
閉じたままの鉄扇に幾重も風を纏わせたまま、カロースの懐に潜り込み、胴に一閃。
「──春一番」
凝縮された風が何度もカロースの身体を打ち付け、メキメキと音を立てて吹き飛んでいく。
しかしすぐに体制を立て直して、またおらへと距離を詰めるカロース。
「おいおい!あめこみっちゅーのはこんなのゴロゴロとおるんかぁ!?」
ゲソマミレが施した細工のせいか、意識はまだぼうっとして覚醒していない様だ。
身体能力は圧倒的だが、能力を使う様子が見られない。
【神々は】
「一応効いてるっぽいんだがなぁ……」
動きも単調だ。
紙一重でカロースの攻撃を避けると後頭部へとまた一閃を入れ、鈍い音が響く。
「気絶するまでにどんだけ叩き込みゃいいんだこれ!」
【僕を 否定する】
良いのが入ったのにぐらつく様子すらない。
ぐりんと顔を此方に向けて手を伸ばしてくる。
おらは鉄扇を広げて振り、風を発生させる反動で避けて距離を取る。
【 貴女も か】
「おめえの設定、しあうから聞いたぞ」
距離をとったままカロースを見据える。
この前と違ってギリギリで喰らいつけている。
皮肉だがゲソマミレの策がアイツの意思とビネガー化を抑え込んでいる。
このままぼうっとさせりゃ時間稼ぎとしては上場だろう。
「おらに態度がちげえ理由もよ」
【全てが 僕を 否定するなら】
だけど、それだけじゃいけない。
【消え──】
「いつまで寝ぼけてんだッ!!あんぽんたん!!」
その言葉をカロースが言い切る前におらは飛び出す。
「んなぼーっとした状態でいるんじゃねえよ」
鉄扇を振ろうとしたおらの右手をカロースに掴まれる、右腕がみしりと悲鳴をあげる。
関係ない。
「語りてえ事あんなら、目を覚ましてからにしな」
左腕に風を纏わせて、カロースの顔面に向けて振り抜いた。
拳が食い込んでいくとぶぉんとカロースは飛んでいく。
【貴女は、ッ……!!】
やっと目を覚ましてきたか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「美桜ッ!!」
私が三番地へと辿り着くと、美桜とカロースが戦っていた。
元々復旧が間に合っていなかったエリア。
だけど街の壊れ具合は激しさを増していた。
立ち入り禁止になってるこの場所を指定して正解だったと冷や汗が垂れる。
「しあう危ねえぞ!そっから近づくな!!」
ライブ中継をする為に自転車のカゴから、よろけながらカメラを取り出し、固定して二人の映像を捉える。
これでテレビに流れるはず。
一通り終えてから私は気づいた。
「美桜、腕が……」
美桜の右腕が変な方向を向いて、力無く垂れ下がっている事に。
【ミオさん、お久しぶりですね】
「ようやく起きたかよ。羽っこ」
【ずっと聞きたかったんです。貴女に】
「なんだよ?」
【何故、貴女たちは僕を認めない】
なのに顔色ひとつ変えず、美桜はカロースの顔を見据えていた。
対するカロースは絡みついた黒い靄がどんどん肥大化している。
【半端だからか? 僕が人間との混血であるから?】
「……おらに言われた言葉、気にしてたみてえだな」
カロースは何も見ていなかった。
ライブ中継を観て駆けつけてくる人々も、その声も。
「それに関しちゃ悪かったが」
《カロース!! 目を覚ましてくれーーーーッ!!》
【言い付けを守った、人間を救ったッ! それなのに何故!!】
《アナタに子供を救われた! こんな事はやめてくれ!!》
「おめえには聞こえねえのかよ」
街の人の声に、美桜の耳がピクリと動く。
【何……?】
「それがわからんなら、認めるわけにゃいかねえんだ」
【ッ……!! そうやってお前達神々はッ! 何でもわかった様に見下してッ!!】
「力尽くで認めさせるか? ええぞ、お得意の力を使って潰しに来いよ」
カロースに向けて美桜は淡々と呟いた。
「今のおめえにはそれしか取り柄がねえんだから」
【貴様ァァァーーーーッ!!!!】
それを合図に二人はまた距離を詰めて激突する。
純粋な肉弾戦が始まる。
【── 消してやるッ!!】
「── やってみろ」
時間を止めさせない様に煽り、美桜も風を使うのをやめて、わざとカロースのプライドを煽っている。
(……私もまだ動いちゃダメだ)
「これでライブ中継は出来てるハズ、よね」
美桜の傷を見て、動き出しそうになる脚を抑えて、私はカメラを回し続ける。
「後は、信じるだけ」
街の人々が続々と集まってくる。
美桜とカロースの戦いを遠巻きに眺めて叫んでいる。
《頼む! 誰か助けてやってくれ!!》
「お願い上手くいって……」
ヒーローを信じる声が集まってくる。
《早く来てくれッ!!》
この放送を彼は観てくれているのだろうか。
作戦と言うにはあまりにも神頼みな作戦だろう。
それでも私の大好きだったこの世界のヒーロー達なら、きっと。
「ヒーロー達に届いて……!」
祈りながら、私は美桜を見守る。
美桜は技量でカロースを抑え込んでいた。
動きの癖も覚えて、避けては攻撃を繰り出す。
それでも圧倒的なカロースの身体能力。
アメコミヒーローの基礎スペックの高さに徐々に追い詰められていく。
「いつまで塞ぎ込んでんだべ!」
【何を言っている】
「おめえを待ってるやつがいるんだ!!」
それでも美桜は叫び続けた。
【僕を見ろ】
「周りを見ろッ!!」
【僕を認めろ】
「おめえ自身を認めてやれッ!!」
目の前の暗闇に飲まれたヒーローだった者へ。
【どんなに成功しても】
「どんなに失敗してもッ!!」
【何故ヒーローじゃないと否定するッ!!!!】
そして。
「それでも、おめえはヒーローだッ!!!!」
彼女が最初に信じた、ヒーローへと。
「── 来いよ! ぐらすほっぱーーッ!!!!」




